麓にある町のマルシェは毎週木曜日に開かれる。
そのマルシェが開かれる教会のあるスクエアの角の家の前に時おり佇んでいるその昔は娘だった三人の老女達をよく見かける。
陽当たりの良い家の前に椅子を持ち出しとりとめのない話しをしているのだろう。
その家は普通の家の門構えとは異り以前は何かの店だった名残のある大きなアールヌーボー調の安普請な木の窓枠で飾られている。
ある時その店の前を通りかかりショウウインドウから中を覗いてみるとなんと古い足踏みミシンと裁断台の上には黒光りした
アイロンが鎮座しているのが見えた。
もうすでに商売はしていないのだろうと思ったがなんとマネキン人形には作りかけのドレスが掛かっていた。
あの老女の一人ははこの町でただ一軒のドレスメイカーなのだ。