80年代にはよく東京バレエの公演を観にいったものです。
つらつら思いだすだけでもポントワとデレヴィヤンコの眠り、ギエムとヌレエフの白鳥湖(確か東京バレエとの競演だったと思う)、それからドン・ジョヴァンニ、カードゲイムやタムタムなんてのもあったかな、カブキや月にかかる七つの俳句(確かこんな題名だったような)の初演なども観ました、世界バレエフェスも三回程観ていたような記憶があります。
東京での一夜はその東京バレエのジゼルを観に行ってきました。
主役のヴィシィニョワとチュージンはもとより回りを囲むダンサーは木村君を除いてはすべてはじめて見るメンバーです。
ヴィシニョワのジゼルにはどんなものが見られるのだろうかと期待していました。
彼女のジゼルはジゼルの少女年齢設定より年上の女性ダンサーがジゼルの若く可憐さをそこここに表現するのとはちがい
今のヴィシニョワ自身を演じているような生身なバレエ表現が今まで見てきたジゼルとは違った新鮮なジゼルを感じました。
所詮高度のバレエテクニックを習得したダンサーは舞台で一人になった時何をするかといったら情感表現をすることに重きをおくのではないのかな。
彼女の大きな特徴は奇妙ともいえる首の使い方なのだろう。
ある時は可憐に見えたりまたある時は強い意志の表現だったり、実際彼女の首から肩にかけては引き締まった筋肉が張りめぐらされているのかもしれない。
舞台の天井を見るかのように首を大きく曲げた仕ぐさはそれだけで物語を語りこれから続く結末に憂いさえかもしだしていた。
技術的にもマリンスキーのプリンシパルとして妥当な安定した踊りで安心して見ていられるけれどシューズの音がかなり大きかった。
僕はポワントシューズのかもしだす音が好きなのです、特にシューズの先端がカタンと音を立てるのに続きポクンとした乾いた音、
踵が床に着いて響く音はバタンドスンでない限りとても好きです、さらには靴底の皮が摩擦するキュッキュとした音も好きです。別にポワントシューズ フェティッシュではないけれどそれほど好きです。彼女程のダンサーがバタンドスンをするのには少々驚いた。
チュージンはルグリさんが推薦しただけあって彼の好みのダンサーなのでしょう、つま先も長い足のラインも綺麗でクラシクのテクニックもみごとに習得されたノーブルダンサーです、
まだ若そうだからヨーロッパ辺りのカンパニーに出て幅を広げればもっといいダンサーになるにちがいありません。
ジゼルの一幕には二人の主役のほかにヒラリオン、お母さん、バチルドといった重要な役が芝居を進行させていきます。
今回は二階の一番前の席で見たにもかかわらずヒラリオンの目の輝きがどうにも見えない、これは二幕のミルタにも言えました。
客席との距離からだったのか日本人の顔立ちからだったのか表情に目が放つするどさが感じられなかったのがもの足りないところでした。
そしてバチルドの髪型、左目が隠れる程に前髪がたれていたのはいったいどのような設定だったのかよくわかりません。
ジゼルの一幕では主役の他に踊りのある場面はペザントのパ・ド・ドウ、東京バレエの場合は男女4人ずつのパ・ド・ユイットですね。
この場面は物語をいったん止めて踊りを堪能してもらいましょうといったもくろみがオリジナルバレエにもあったのかそれはよくは知りません。
8人のこのペザントの人数編成は少し多すぎかなと思います6人までが限度ではないかな、音楽の構成もみなれているものと少し違ったからか物語が完全に止ってしまった感があり、8人のフォーメイションがジゼルとは違った感のバレエになってしまった雰囲気がありました。
ここから一気にドラマを盛り上げていかなければいけないところが踊りが終り一安心、これからまた物語が始まりますとドラマがブツ切れになってしまった感がありいつもは涙が出てくるこの一幕後半は涙腺を刺激されず幕がおりてしまった。
男性のペザント衣装がディズニーアニメ白雪姫の森の木こりさんのような凄まじい色を放っていたのにも助けられなかったのかな。
二幕は説得力に欠けていた一幕とはがらりと変わって日本人ダンサー特有の一体感のある清冽ともいえるコールドバレエだった。
あえて難点をあげるとしたらアルブレヒトの紫色のタイツが目立ちすぎたこと、そしてジゼルの出があたかも出ミスをしたかのように小走りで墓石の上に飛び乗ったとでも言える
演出が気になりました。
ヴィシニョワのジゼルはヴァリエイションが終るごとに拍手に応えて再び出てくる、そんなジゼルのアンコールはじめて見たような気がする、そのときミルタは何をするのだろうとわくわくしながら拍手をしていたが、もう一度拒否のポーズをしてくれたら、などと軽薄な考えをしていたのは僕だけだったのかな。
女性ダンサーのプロポーションが見違える程よくなりみごとなアーチを描く足の甲の持ち主も見られ時の移り変わりを感じました、願わくば男性の上背がそれにともなって伸びてくれたら申し分ないでしょう。
外国人スターダンサーを迎えて全幕を上演するということは大きな観客動員につながるが回りの日本人ダンサーにとってはいかにスターダンサーと太刀打ちするかが大きな課題であるかもしれません。
しょせんしろうと、文才のない感想文です、少し辛辣だったかな、ごめんなさい。
今月号のダンスマガジンに6月に作ったオデットの衣装の写真が大きく載っています、興味のある方は見てください。