憲法28条は、公務員も含めて労働基本権を保障しています。労働基本権のひとつが争議権、分かりやすく言えばストライキ権です。
賃金引き上げなどの団体交渉で埒が明かないときは、みんなで仕事を休んで使用者に圧力をかける。ストライキは使用者には迷惑この上ないですが、スト参加者を処分したり、労働組合に損害賠償請求なんてできない。ましてや処罰なんてありえない。高校の現代社会か政治経済で勉強したと思います。
公務員法では、あらゆる公務員は1分たりともストライキご法度に。公務員のなかにはストライキされたら超迷惑な仕事(警察・消防など)があることはたしかです(そういう職種も労働組合を結成することくらいは良いんじゃないかと思いますが)
でも、たとえば市役所の窓口が半日くらい開いてなくても、不都合ではあるけど絶対困るか……
また分かりやすい例を挙げれば、公務員でも民間企業と実質的には同じ仕事をしている人は結構います。東伊豆を走る鉄道は、現在はどちらも民間企業ですが、昭和のころは伊東までは国鉄だからスト×、以遠は伊豆急行だからストOK。
判例は当初、公務員が全体の奉仕者であることなどを理由に、ストライキ禁止を合憲としていましたが、1966年と1969年の判決で、公務員だから民間企業の労働者と違いはあるが、全面一律禁止はおかしいという立場に変わります。これが普通じゃないですか。特に1969年の都教組判決は、文字どおり一律禁止と解釈するなら公務員法の規定は違憲の疑いがあるとまで。
じゃどういうストライキなら禁止してもよいかというと、政治目的のストと長期間に及ぶなど国民生活に重大な支障を及ぼすストです。逆の言い方をすれば、公務員も普通のストライキは差し支えなしが桂場さん長官就任のころの最高裁の立場でした。
(「虎に翼」で、裁判官の朋一が裁判官はストライキしちゃいけないの!?と憤るシーンがありましたが、判例はそういう区別ではなく、東京都教組は労働条件改善のストだからOK⇔同日に判決があり有罪となった全司法仙台(裁判所の事務職員の組合)は安保条約反対という政治目的だから処罰可としました)
都教組判決は自民党方面には不評だったようです。あんなシーン、実際にあったとは思いませんが、田中角栄自民党幹事長が、偏向判決だ!と桂場さんの執務室に怒鳴り込んでいました。
で、桂場さんの定年退官まぎわ、尊属殺人重罰規定違憲判決直後に下されたのが、全農林判決です。全農林という労働組合が、警察官職務執行法改正反対を掲げたスト、政治ストなので、それまでの判例に照らして結論は有罪でほとんどの裁判官は一致していました。
ところが桂場さん(石田長官)たち8裁判官は、全司法判決は(実質的には都教組判決も)間違っていたとして、必要もないのに判例を変更したのです。8ー7、わずか1票差で。再び、公務員は1分たりともストライキいけないことに。
司法の独立はいったいどこへ? それとも政権筋からの圧力に抗するための自己防衛だったのでしょうか?
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