明日の風

明日は明日の風が吹く。気楽にいきましょう!

合衆国最高裁、中絶規制に違憲判決

2016-06-30 12:11:51 | 法・裁判

合衆国最高裁判所が27日、テキサス州の人工妊娠中絶規制法に違憲判決を下した。問題の州法は中絶を行うクリニックに外科病院並みの施設を求めるなどしていた。この規制の結果、テキサス州の中絶クリニックは約40ヶ所から半減したという。
「我々は、これらの規定は中絶へのアクセスに対する重荷となり、それを正当化するのに十分な医療上の利益をもたらさないと結論する。……中絶への不当な負担であって、連邦憲法に違反する」
5-3の多数決で、リベラル派のブライヤー裁判官が法廷意見を書いているが、注目はケネディー裁判官が違憲判断に賛成したことである。2月のスカリア裁判官の急死で、最高裁は保守派4人⇔リベラル派4人という勢力図だった。
ニューヨークタイムズによると、ケネディーが中絶支持派に加わったのは、1992年のケイシー判決以来、在任28年間で2回目だという。専門家はこの一票は驚き・謎だが、ケネディーは、中絶のために何百マイルもドライブする女性の大変さや規制を正当化する医学的証拠がないことに揺り動かされたのではないかと推測している。

以下、少々長くなるが、合衆国における中絶規制と最高裁の対応を振り返っておきたい。
ことの始まりは1973年のロー判決である。ロー判決で、最高裁は中絶は憲法上の権利であって、その規制は厳格審査基準に服する-めったなことでは許されないとする画期的な判断を示した。妊娠中期までの中絶は原則自由ということである。それまで、中絶の可否は州によって異なり、南部など中絶禁止の州も少なくなかった。
ところがその後、合衆国では共和党政権が続いたことで最高裁は保守派裁判官が多数を占めるようになり、1992年には事前の票読みでロー判決は判例変更必至と言われた。このケイシー判決で、保守派ながらロー判決の全面変更に反対したのが、ケネディー裁判官と最高裁初の女性裁判官オコナーだった(もうひとりのスーター裁判官と共同意見)
ケイシー判決で、オコナーらが唱えたのが「不当な負担」の基準で、これが現在の判例である。当該規制が女性の中絶の権利に対する不当な負担か否かで合憲性を判断するもので、ロー判決の厳格審査基準よりは緩やかなものと理解されている。
ただ、ケネディーは、以後の判決では、オコナーらと袂を分かち保守派に同調していたので、今回リベラル派と組んだことは当地でも意外感をもって受け止められているようである。

先週末、日米法学会に行ったら、アメリカの憲法学者たちが、スカリア裁判官亡き後の最高裁についてあれこれ語っていました。通訳なしだっだので私には「あ」くらいしか理解できませんでしたが。
彼らはクリントンの大統領当選を前提に、何十年ぶりかでリベラル派が支配する最高裁が実現し、このところのろくでもない判例は修正されるというバラ色の未来(笑)を予想していたが、その良き前触れというところだろうか。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宿敵スコットランドにあと一歩 | トップ | 自公の距離と民共の距離 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

法・裁判」カテゴリの最新記事