ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「あわれ彼女は娼婦」

2013-05-03 10:14:37 | 芝居
4月22日ステージ円で、ジョン・フォード作「あわれ彼女は娼婦」をみた(演劇集団円公演、演出:立川三貴)。

狭いステージは漆黒。首のないマネキンが3体、赤い布をまとっている。隅に丸いテーブル。上には灰色のドクロとろうそく立てと
赤い花の入った花瓶。

「ジョン・フォードのロミジュリ」と言われるだけあって、ロミジュリによく似ている。但し、時代は少し後で、社会は暗く不安
に満ちていた。それがもろに反映された芝居だ。何しろ二人は実の兄妹で、近親相姦の関係を続けた揚句に妊娠までしてしまうの
だから・・。

乳母はアナベラと楽しげに、彼女の求婚者たちについて論評する。彼女が実の兄ジョヴァンニと関係を持ったことを直後に知ると、
何と共に手を取り合って喜ぶ。「これで一人前の女になった」「好きになったら兄だろうが父だろうが」とすごいことを口走る。
ジョヴァンニは、少なくとも両想いだと分かる前は、修道僧に悩みを打ち明け、罪の意識に苦しんでいたのだが・・。

アナベラの求婚者ソランゾにかつて捨てられた女ヒポリタは、状況から「ドン・ジョヴァンニ」のエルヴィーラそっくりだ。
彼女はソランゾがまったく相手にしてくれないので、彼の召使ヴァスケスを味方にしようとする。この二人もなかなか魅力的で
目が離せない。

求婚者の一人でおバカな若者バーケットは「十二夜」のサー・アンドルーにそっくり。

旅先で死んだはずのヒポリタの夫が実は生きており、浮気した妻に復讐するために医者に変装して町にやって来る。彼は姪を
連れてアナベラの家に出入りするようになる。
アナベラは兄の子を身籠ってしまうが、父はそれと知らず、ソランゾと結婚させてしまう。

ヴァスケスは主人ソランゾに対して、次第にイアゴーのように執拗にアナベラの過去をおどろおどろしく語り、復讐しかないと
思い詰めさせる。なぜか。何か特別な訳があるのかと思ったが、そうではないらしい。

「ロミジュリ」には二組の両親がいたが、ここでは恋人たちが兄妹であり、しかも母が既にいないので、親は父一人しかいない。
最後におぞましい真実が明らかになった時、彼は苦しみを一人で受け止めなければならない。

宗教家が批判的に描かれる。枢機卿は殺人を犯した友人の罪を「ローマ法王」の名前を出して帳消しにしてしまう。
当時よくこれが検閲を通ったものだ。

ジュリエットの乳母はすべてを知っていたのにお咎めなしだったのに対し、ここでは乳母は極刑に処され、徹底的に世の見せしめ
にされる。

ジョヴァンニがソランゾを殺すのはただの嫉妬からだろう。だから残念ながら感動を呼ばない。ソランゾは言わば「身籠った
ジュリエットと結婚したパリス」だが、彼女を真剣に愛していたのであって(過去に女たらしだったとは言え)別に殺される理由
はないはずだ。

偽医者は姪に楽器を弾かせてアナベラを慰める、と言うが、その姪はコントラバスを背負っている。それはないでしょう。突飛過ぎる。
ここはやはりリュートかギターでしょう。

アナベラは現代の我々から見れば全然「娼婦」でも何でもないが、当時は正式の結婚相手以外の男と関係を持った女は皆、娼婦と
呼ばれたらしい。

衣裳(清水崇子)は実によかった。

音楽は手抜きの寄せ集め。ベートーヴェンのピアノソナタで踊るのはどんなものか?

鏡をいくつも並べるのは意味ないのでは?ラストで恋人たちが口紅を塗り合うのも意味不明。

役者たちはみな素晴らしい。さすが「円」。発音が明晰で発声が美しいし、人物の心理を深く理解していることが伝わってくる熱演で
説得力があった。但し枢機卿役の人は危なかった。

この作品は名前だけ知っていたが、今回初めて見て、面白さと質の高さに驚いた。



コメント (1)
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