11月24日、日生劇場で、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲のオペラ「午後の曳航」を見た(原作:三島由紀夫、台本:ハンス=ウルリッヒ・トライヒェル、
演出:宮本亜門、指揮:アレホ・ペレス、オケ:新日本フィル)。
二期会創立70周年記念公演、日生劇場開場60周年記念公演。
少年・黒田登は、父を亡くし、夜毎自分の部屋の秘密の穴から寝床にいる母・房子の姿を覗いていた。
ある日、登と房子は航海士の塚崎竜二と出会う。登は屈強な身体の竜二に強く惹かれるが、房子と竜二がベッドで抱き合う様子を
覗き穴から見てしまう。
やがて房子と竜二は結婚する。海を離れ、房子の経営するブティックを手伝うようになった竜二を、登は軽蔑する。
ある夜、房子と竜二は、登の部屋からの覗き穴を見つける。寛容な態度をとる竜二に対して、登はさらに憎悪を募らせ、
少年たちとともに竜二に裁きを与えることを決意する(チラシより)。
この日のために原作を読んだ。
最初の数ページで作者の才能に驚嘆。恥ずかしながら、ようやく三島の天才がわかったのでした。
(これまでに「憂国」と「金閣寺」を読んではいましたが)
読み進むうちに、当然ながら破局が待ち受けているのがわかり、もう怖くて怖くてたまらなかった。
こんな経験は初めてのこと。「カラマーゾフの兄弟」を読んだ時だって、全然怖くなかったのに。
房子と竜二が惹かれ合う様子をほほえましく思い、応援したい気持ちが芽生えたからなのか。
だがそれにしても二人は、あまりにもトントン拍子に現世的な幸福を築いてゆく。
いまどきの言葉を使えば、死亡フラグだらけだ。
登の友人たち、特に「首領」(このオペラでは1号)と呼ばれる少年は、留守がちな両親の所有する大量の書物を読破したという子で、
その結果、奇妙な思想に取りつかれている。
それは、奇怪で危険で、もはや化け物的で、精神科の医師にカウンセリングしてもらうべき代物だ。
彼の率いる仲間たちは、みな良家のお坊ちゃんで、学校の成績もよく、教師にも一目置かれている。
にもかかわらず、彼らは非常に危険な集団で、「血が必要だ」と言って、仔猫を探して来て殺したりする。
ラスト近くで「午後の曳航」というタイトルの意味するところがわかり、ようやく最後まで読む覚悟ができた。
さて、そのオペラ化である。
何と、この日も高校生の団体が!よっぽどチケットが売れなかったのか。
確かに2階、3階はほぼ空席。
まず幕に一つの瞳が大写しになり、カメラが引いてゆくと、実はそれは三島本人の(たぶん)中学生時代の顔の写真だった。
開幕時の音楽が、早くも不穏!
青っぽい登の部屋と赤い母の部屋が、壁1枚隔てて現れる。
ダンサーらしい黒子たちが何人も動き回って目まぐるしい。
船はいくつかの三角形で簡潔に作られている。
登の友人たちが変だ。
制服の前をはだけ、目つきも悪く、見るからに不良。先に書いたように、原作では全員、いいところのお坊ちゃんなのに。
そして、登との関係も変だ。
彼らは仲間なのに、登はみんなにいじめられたり脅されたりしているようだ。
一番驚いたのは、母の恋人・塚崎が外で登を襲うこと!
なぜそんなシーンをつけ加える??意味不明。
だからなのか、夏の別れの日、登は塚崎に対して「早く行け」と心中を歌い、彼を突き放し、母にひっぱたかれる。これも変だ。
猫を殺すシーンで幕。
<休憩>
正月に塚崎帰還。外で母にプロポーズ。
母は赤いドレスを着て、部屋に一人でいる。登に結婚のことを告げ、「パパと呼ぶのよ」
洋服屋(貸衣装店?)にウエディングドレスが並んでいる。
母が来て、幸せそうに、一つ選ぶ。女店員が相手をする。
夜、母は登に覗かれていることに気づき、急いで隣の部屋へ。
塚崎は拳を振り上げるが、思い直して登を許す。
登は仲間を集め、「塚崎竜二の罪状」を読み上げ、仲間たちはそれをメモし、1号がそれに点数をつけ、奥に、その点数が表示される。
合計150点。
塚崎と少年たち。塚崎が、差し出された睡眠薬入りの紅茶を一口飲むと、ダンサーたちは縄を手に近づいて彼を縛る。
彼はよろよろしつつ海について歌い続ける。
ついに彼らは塚崎を、奥に斜めになったところに寝かせ、登が1号からナイフを渡され、腕を大きく振り上げる。
そこに赤いドレスの母親が来てひざまずき、手を祈りの形にする。
そこで幕。
以上、書いてきたように、全体に演出が変だ。
登の仲間たちの描き方。
彼らと登との関係。
最後に母親を登場させたのもいただけない。
特に原作にない塚崎の暴行シーンをつけ加えているのが理解できない。
歌手では1号役の加来徹が好演。張りのある声が素晴らしい。演技も切れがある。
演出:宮本亜門、指揮:アレホ・ペレス、オケ:新日本フィル)。
二期会創立70周年記念公演、日生劇場開場60周年記念公演。
少年・黒田登は、父を亡くし、夜毎自分の部屋の秘密の穴から寝床にいる母・房子の姿を覗いていた。
ある日、登と房子は航海士の塚崎竜二と出会う。登は屈強な身体の竜二に強く惹かれるが、房子と竜二がベッドで抱き合う様子を
覗き穴から見てしまう。
やがて房子と竜二は結婚する。海を離れ、房子の経営するブティックを手伝うようになった竜二を、登は軽蔑する。
ある夜、房子と竜二は、登の部屋からの覗き穴を見つける。寛容な態度をとる竜二に対して、登はさらに憎悪を募らせ、
少年たちとともに竜二に裁きを与えることを決意する(チラシより)。
この日のために原作を読んだ。
最初の数ページで作者の才能に驚嘆。恥ずかしながら、ようやく三島の天才がわかったのでした。
(これまでに「憂国」と「金閣寺」を読んではいましたが)
読み進むうちに、当然ながら破局が待ち受けているのがわかり、もう怖くて怖くてたまらなかった。
こんな経験は初めてのこと。「カラマーゾフの兄弟」を読んだ時だって、全然怖くなかったのに。
房子と竜二が惹かれ合う様子をほほえましく思い、応援したい気持ちが芽生えたからなのか。
だがそれにしても二人は、あまりにもトントン拍子に現世的な幸福を築いてゆく。
いまどきの言葉を使えば、死亡フラグだらけだ。
登の友人たち、特に「首領」(このオペラでは1号)と呼ばれる少年は、留守がちな両親の所有する大量の書物を読破したという子で、
その結果、奇妙な思想に取りつかれている。
それは、奇怪で危険で、もはや化け物的で、精神科の医師にカウンセリングしてもらうべき代物だ。
彼の率いる仲間たちは、みな良家のお坊ちゃんで、学校の成績もよく、教師にも一目置かれている。
にもかかわらず、彼らは非常に危険な集団で、「血が必要だ」と言って、仔猫を探して来て殺したりする。
ラスト近くで「午後の曳航」というタイトルの意味するところがわかり、ようやく最後まで読む覚悟ができた。
さて、そのオペラ化である。
何と、この日も高校生の団体が!よっぽどチケットが売れなかったのか。
確かに2階、3階はほぼ空席。
まず幕に一つの瞳が大写しになり、カメラが引いてゆくと、実はそれは三島本人の(たぶん)中学生時代の顔の写真だった。
開幕時の音楽が、早くも不穏!
青っぽい登の部屋と赤い母の部屋が、壁1枚隔てて現れる。
ダンサーらしい黒子たちが何人も動き回って目まぐるしい。
船はいくつかの三角形で簡潔に作られている。
登の友人たちが変だ。
制服の前をはだけ、目つきも悪く、見るからに不良。先に書いたように、原作では全員、いいところのお坊ちゃんなのに。
そして、登との関係も変だ。
彼らは仲間なのに、登はみんなにいじめられたり脅されたりしているようだ。
一番驚いたのは、母の恋人・塚崎が外で登を襲うこと!
なぜそんなシーンをつけ加える??意味不明。
だからなのか、夏の別れの日、登は塚崎に対して「早く行け」と心中を歌い、彼を突き放し、母にひっぱたかれる。これも変だ。
猫を殺すシーンで幕。
<休憩>
正月に塚崎帰還。外で母にプロポーズ。
母は赤いドレスを着て、部屋に一人でいる。登に結婚のことを告げ、「パパと呼ぶのよ」
洋服屋(貸衣装店?)にウエディングドレスが並んでいる。
母が来て、幸せそうに、一つ選ぶ。女店員が相手をする。
夜、母は登に覗かれていることに気づき、急いで隣の部屋へ。
塚崎は拳を振り上げるが、思い直して登を許す。
登は仲間を集め、「塚崎竜二の罪状」を読み上げ、仲間たちはそれをメモし、1号がそれに点数をつけ、奥に、その点数が表示される。
合計150点。
塚崎と少年たち。塚崎が、差し出された睡眠薬入りの紅茶を一口飲むと、ダンサーたちは縄を手に近づいて彼を縛る。
彼はよろよろしつつ海について歌い続ける。
ついに彼らは塚崎を、奥に斜めになったところに寝かせ、登が1号からナイフを渡され、腕を大きく振り上げる。
そこに赤いドレスの母親が来てひざまずき、手を祈りの形にする。
そこで幕。
以上、書いてきたように、全体に演出が変だ。
登の仲間たちの描き方。
彼らと登との関係。
最後に母親を登場させたのもいただけない。
特に原作にない塚崎の暴行シーンをつけ加えているのが理解できない。
歌手では1号役の加来徹が好演。張りのある声が素晴らしい。演技も切れがある。
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