「古都逍遥 京都・奈良編」「花の詩」「日常のこと」や花や風景写真

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「長谷寺」(はせでら)

2011年04月15日 07時30分10秒 | 古都逍遥「奈良篇」
 奈良と伊勢を結ぶ初瀬街道沿いにあり、「枕草子」「源氏物語」「更級日記」などに登場する「長谷寺」は、牡丹などの花の寺としてしても知られており、中でも牡丹は、本尊供花として1100年前頃から栽培されている。シーズンともなれば151種7000株が咲き乱れ浄土の世界を醸しだす。このほか、紫陽花、睡蓮、秋の紅葉と、四季を通じて境内は美しく彩られる。

 創建は奈良時代、八世紀前半と推定されるが、詳しい時期は不明とされている。寺伝によると、天武朝の朱鳥元年(686)、道明上人が初瀬山の西の丘(現・本長谷寺)に三重塔を建立し、続いて神亀4年(727)に、徳道上人が東の丘(現・本堂)に本尊十一面観音像を祀って開山したとあるが、確かなものが正史になく伝承の域を出ていない。

 平安時代中期以降、観音霊場として貴族の信仰を多く集めており、万寿元年(1024)には藤原道長が参詣したとあり、中世以降は武士や庶民にも信仰を広めている。元は東大寺(華厳宗)の末寺であったようだが、平安時代中期には興福寺(法相宗)の末寺となり、16世紀以降は興教大師覚鑁(かくばん)によって興され真言宗の流れをくむ寺院となっている。

 入口の仁王門から本堂までは399段の登廊(のぼりろう、屋根付きの階段)を上る。本堂の西方の丘には「本長谷寺」と称する一画があり、五重塔などが建つ。国宝の本堂のほか、仁王門、下登廊、繋屋、中登廊、蔵王堂、上登廊、三百余社、鐘楼、繋廊が重要文化財に指定されている。仁王門は明治18年(1885)、下登廊、繋屋、中登廊は明治22年(1889)に再建された。

■本堂(国宝)
 本尊を安置する正堂(しょうどう)、相の間、礼堂(らいどう)から成る巨大な建築で、前の部分は京都の清水寺と同じ「懸造」(かけづくり〈舞台造〉)になっている。近世前半の大規模本堂の代表作として、04年12月国宝に指定された。
 奈良時代の創建後、室町時代の天文5年(1536)までに7回焼失。豊臣秀長の援助で再建に着手し、天正16年(1588)に竣工。豊臣秀吉により根来山を追われた新義真言宗門徒が入山し、同派の僧正専誉により現在の真言宗豊山派が大成された。現存する本堂はその後、徳川家光の寄進を得て、正保2年(1645)に着工し、5年後の慶安3年(1650)に落慶したものである。
 全体の平面規模は間口25.9m、奥行27.1m。正堂は一重裳階(もこし)付きで、礼堂部分は入母屋造妻入りとなっており、礼堂の棟と正堂の棟はT字形に直交し、礼堂正面側には入母屋屋根の妻を大きく見せている。左右側面にはそれぞれ千鳥破風を付している。

■本尊木造十一面観音立像(重文)
 開山伝承に、神亀年間(720年代)、近隣の初瀬川に流れ着いた巨大な神木が大いなる祟りを呼び、恐れ慄いた村人の懇願を受けて開祖徳道が祟りの根源である神木を観音菩薩像に作り替えて祀ったとある。現在の本尊像は天文7年(1538)の再興したもので、10mを超える樫の「一木造」の巨像(三丈三尺六寸)は圧巻である。国宝・重文指定の木造彫刻の中では最大とされている。通常の十一面観音像と異なり、右手には数珠とともに、地蔵菩薩が持つような錫杖を持ち、方形の磐石の上に立っている。伝承によれば、これは地蔵菩薩と同じく、自ら人間界に下りて衆生を救済して行脚する姿を表したものとされ、他の宗派には見られない独特の形式とされ「長谷型観音」と称している。

■銅板法華説相図(国宝)
 「千仏多宝仏塔」とも称し、法華経の見宝塔品(けんほうとうほん)で、釈迦が説法していたところ、地中から巨大な宝塔が出現したという場面を表現したもの。縦83.3cm、横75.0cmの鋳銅の板に宝塔と諸仏が浮き彫り状に鋳出されている。銅板の下部には長文の銘が刻まれ、天武天皇の朱鳥元年(686)に「飛鳥浄御原で天下を治めた天皇」の病気平癒のため、道明が作ったと記されているという。(奈良国立博物館に寄託)
 この他、当寺には、初代徳川家康から13代家定まで13幅の肖像画が伝えられており、いずれも衣冠束帯姿で神殿風の室内に坐し、像主を神格化して描かれているいる貴重な遺例といえよう。中でも家康像は江戸時代初期頃に描かれたもの。やや丸顔で口髭をはやし、衣服に牡丹唐草葵紋を入れ、繧繝縁の上畳に打敷を敷いて、物静かに坐した姿には品格が感じられる。
 当寺のシンボルとなっている「五重塔」は、戦後(1954)に建てられたもので、均整のとれた端正な姿は、周囲の樹木、堂宇とよく調和している。

 所在地;桜井市初瀬731-1。
 交通:近鉄大阪線「長谷寺駅」下車、徒歩15分。

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