<刑事裁判で真実を知る者は神様のほかにいる。それは目の前の被告人である>とこの本の一節が朝日新聞・天声人語で紹介されていた。神様は別にしても被告人本人がことの一部始終を一番良く知っているのは間違いない。著者は東京高裁時代に20件を超える逆転無罪を言い渡した元裁判官。だが自身も<無実の者を有罪にしている可能性がある><どんなに頑張っても誤りが潜む危険がある>その本質的なおそろしさを理解してもらいたいと書いた動機を述べている。ていねいに審理を行なった結果というが、その内容は<事実認定は、刑事裁判の基本である>から始まる「えん罪を防ぐ審理のあり方」や「控訴審における審理のあり方」の中に詳しい。特に最初の場面「人定質問」における被告人との人間関係・信頼関係に意を尽くした具体的内容は大いに頷ける。本題の「逆転無罪の事実認定」で取り上げている16判例の判決文は難解なところもあるがコメントと対照し、繰り返し読むことで理解できる。裁判官も人間であり様々であろう。著者のような姿勢で臨む裁判官が今、どれだけいるのだろうか。そうした疑問も頭の隅に置いて裁判報道を読むことが大事と思わされる本だった。
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