もう亡くなったけれど
近所に認知症のおばあさんが居て
すぐ人を泥棒呼ばわりするので
別のおばあさんが怒って喧嘩になっちゃうことがよくあった
今じゃ
怒ったおばあさんも認知症です
そういう時は当人が不安なんだから一緒に探してやればいいのだ
と
武蔵には教わって
他人事の時は 結構上手にできるようになったが
家族となると 難しいよ
だいたい
ボケ具合は私と武蔵はいい勝負で
しょっちゅうすごい喧嘩になる
お互いに物が見当たらないと人のせいにして
ガミガミ 言っちゃうのだ
優しくいってあげなきゃ と思うでしょ
でも武蔵だって優しく ぼけてかんちがいしている私を
あやしてくれるわけじゃなく
いきなり大声を出すし
糞! 蹴りを入れたくなる
さて 武蔵は違うけれど
武蔵の家系にはめちゃくちゃ記憶力のいい
虚空蔵菩薩の庇護下の人が時々輩出する
私の子供の一人もそうだ
自分では 無駄なチャラチャラしたことだけ記憶してしまうと言うが
こいつ 私の子かよ?と思うことがある
おばさんも その口だ
おばさんすごいね その記憶力
子供の時はさぞ優等生だったでしょ?
というと 勉強なんかできなかったよ という
謙遜ではなく実際そうらしい
でもなんで こんなに覚えていられるか?と思うほど
しまい込んだあれこれのありかが掌握できていたのだが
このごろ かなり あやしい
もうおばさんのものを探すのはやなこった!
しかも私と同じ 伝達能力が低く
あそこのひらきにある
むこうのひきだしにある
って それじゃ特定できない
向こうってどこよ!
それで 気の短い私の声がとんがってくると
武蔵が 馬鹿だな いちいちそういう声を出すな
ハイはいって探してやって
無かったよと言えばいいのだ というので
わたしは プッツンしちゃうのだ
しかし しっかり者のお母さんがそうなると
子供だと ひたすら賢かった親が あああああ
こんなになっちゃった
と悲しいことだろう と思うと
涙があふれてくる
私の場合 私の年で母は死んじゃったから
脳溢血で倒れた後 それほど後遺症はなかったので
鋭くコテンパンに私をやっつける母が少し丸くなった位だったなあ
と
思ったり
ともかく立っていられない
と床に這いつくばってまな板の上のものを刻んでいたなあ
など 思い出してた
でも 昨日のおばさんとのやり取りで
認知症になった人が 泥棒呼ばわりするわけ
少しわかった
あるはずのものがないと
見つかるまでは物すごく不安なのだ
私なんか振り回されてくたびれて
もういいよ 見つからないもの買ってあげるよ
と思うのだが
自分の記憶がどこかに行っちゃった それが我慢ならなかったのだな
昨日の別れ際
喉がむせてしょうがないおばさん
黒豆汁に蜂蜜入れて飲ませたが
武蔵にもらった薬飲む あれが すっとする
そこの引き出しにある 取ってクロ
というが ないよ!
おばさんは
いらいらして 立ち上がり 引き出しをあちこち開いて
探し始めた がない
あらら 近くのワゴンの上にあった
あああ この頃 すぐわすれっちまうとつぶやいている
可哀そうに
どれだけ心細いだろうか
見つからないと
しまいにはお前の家を探して来い と言い始めるので
あるわけないでしょ!と言いたくなるが
あ これが泥棒呼ばわりの初めだ と納得した
むきになっちゃいけないのよね
実践的に理解するのは 私には 大変なのよ