永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(916)

2011年03月27日 | Weblog
2011.3/27  916

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(93)

「人の見るらむもいと人わろくて、歎きあかし給ふ。うらみむもことわりなる程なれど、あまりに人憎くも、と、つらき涙のおつれば、ましていかに思ひつらむ、と、さまざまあはれにおぼし知らる」
――(匂宮は)人の手前、ひどく極まりが悪く見っともない気がなさったまま、歎き明かされたのでした。思いますに、中の君が私を一途にお恨みなさるのももっともながら、余りにも無愛想ではないか。しかし私でさえこんなに辛いのだから、ましてや中の君は長い間音沙汰なくすごされたのだから、そのお辛さはどんなだったであろう、と、あれこれと身に沁みて思い知らされるのでした――

「中納言の、あるじ方に住み馴れて、人々安らかに呼びつかひ、人もあまたして物参らせなどし給ふを、あはれにもをかしうも御らんず。いといたうやせ青み、ほれぼれしきまで物を思ひたれば、心ぐるしく見給ひて、まめやかにとぶらひ給ふ」
――薫がこの邸の主人風に住みついて、侍女たちを気楽に呼び使い、侍女も大勢でお食事を差し上げるなど、しておられるのを、匂宮はこのような山奥でお気の毒にとも、また薫らしく面白いともご覧になります。薫はひどくお痩せになり顔も青白く、ぼおっとして物思いに沈んでおられますのを、匂宮は心苦しくお気の毒で、懇ろに御弔問なさいます――

 薫は、

「ありしさまなど、かひなき事なれど、この宮にこそはきこえめ、と思へど、うち出でむにつけても、いと心弱く、かたくなしく見えたてまつらむにはばかりて、言ずくななり」
――大君の生前のご様子などを、今更どうなることでもないではありますが、この宮にはぜひ申し上げたいと、思われたのですが、打ち明け申したところで、何と気の弱い愚か者と見られますに違いないと遠慮されて、言葉少なにしていらっしゃいます――

「音をのみ泣きて日数経にければ、顔がはりのしたるも、見ぐるしくはあらで、いよいよ物きよげになまめいたるを、女ならば必ず心うつりなむ、と、己がけしからぬ御心ならひにおぼし寄るも、なまうしろめたかりければ、いかで人のそしりも恨みをもはぶきて、京にうつろはしてむ、とおぼす」
――(薫が)声も涸れるほど日数を重ねて泣き暮らしてこられて、お顔もやつれていらっしゃいますが、見ぐるしくはなく、憂いを含んだお姿がいよいよ美しくあでやかなのを、匂宮は、女ならば必ず心を惹かれるだろうと、ご自分の怪しからぬお心癖から薫と中の君のことが急にご心配になり、何とかして世間の非難や、夕霧左大臣のお恨みをも斥けて、中の君を京へお移しせねば、とお思いになるのでした――

◆かたくなしく=頑なし=融通がきかずがんこである。強情。

では3/29に。