永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(108)

2016年03月14日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (108) 2016.3.14

「かくて忌みはてぬれば、例の所に渡りて、ましていとつれづれにてあり。長雨になりたれば草ども生ひ凝りてあるを、行ひのひまに掘り領たせなどす。あさましき人、わが門より例のきらきらしう追ひ散らして渡る日あり。行ひしゐたるほどに、『おはします おはします』とののしれば、例のごとぞあらんと思ふに、胸つぶつぶとはしるに、引き過ぎぬれば、みな人、面をまぼりかはしてゐたり。」
◆◆こうして物忌みが終わったので、我が家に帰り、以前にも増して何をするすべもなく過ごしています。長雨の季節になったので、庭の草が生い茂っているのを、勤行の合い間に掘って株分けさせたりしています。あのあきれた人が、わが家の門前をば、いつものように、きらびやかに先払いをして行く日がありました。私が勤行をしているときに、「お越しです お越しです」と大騒ぎして言うので、この前のように素通りするのだろうとは思いながらも、胸をどきどきさせていますと、さっと通り過ぎて行ったので、家人みな顔を見合わせていました。◆◆



「我はまして二時三時まで物も言はれず。人は『あなまづらか。いかなる御心ならん』とて泣くもあり。わづかにためらひて、『いみじうくやしう人に言ひ妨げられて、今までかかる里住みをして、またかかる目を見つるかな』とばかり言ひて、胸のこがるることは、いふかぎりにもあらず」
◆◆私はまして、二時も三時も物も言えません。侍女たちが「まあ、今までになかったことですね。どういうおつもりなのでしょう」と言って泣き出す者もいます。私はなんとか気をとりなおして、「ほんとうに悔しいこと。あなたたちに山寺参籠を引きとめられて、自邸の町住いをしているばっかりに、またしてもこんな辛い目に会ってしまったことよ」とだけ言ったけれど、胸の焼け付くような辛さは言葉では言い尽くせないことでした。◆◆

■例の所=道綱母邸

■面をまぼりかはして=顔を見合わせて

■二時三時(ふたときみとき)=一時は二時間。