永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(114)

2016年04月08日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (114) 2016.4.8

「さて昼は日一日、例の行ひをし、夜はあるじの仏を念じたてまつる。めぐりて山なれば、昼も人や見んの疑ひなし。簾まきあげてなどあるに、この時すぎたる鶯のなき来て、軒ちかくに、ひとくひとくとのみいちはやくいふにぞ、簾おろしつべくおぼゆる。そも現し心もなきなるべし。」
◆◆さて、昼は日課の勤行を行い、夜はご本尊の御仏さまを祈念申し上げます。周囲が山なので、昼でも人に見られる懸念はありません。御簾を巻き上げたままでいるときなど、この時期はずれのうぐいすがしきりに鳴いて、軒近くにきて、「ひとくひとく」とばかり、早口に言うので、御簾を降ろしてしまいたい気持ちがします。それもきっと私の心がうつろになっているからなのでしょう。◆◆



「かくてほどもなく不浄のことあるを、出でむと思ひおきしかど、京はみな形ことに言ひなしつるには、いとはしたなき心地すべしと思ひて、さし離れたる屋に下りぬ。」
◆◆こうしていますうちに、ほどなく月の障りになりましたので、そうなったときは下山しようと思っていましたが、京では、皆わたしが尼になってしまったと噂しているだろうと思うので、帰るのも非常にきまりが悪いので、寺から少し離れた家に移りました。◆◆



「京より、をばなどおぼしき人ものしたり。『いとめづらかなる住ひなれば、しづ心もなくてなん』など語らひて、五六日経るほど、六月さかりになりにたり。」
◆◆京から、叔母に当る人が来てくれました。「まるで勝手のちがう住いなので、心が落着きませんで」などと話をしたりして、五、六日すぎると、もう六月も暑いさかりになったのでした。◆◆


■ひとくひとく=古歌「梅の花見にこそ来つれ鶯のひとくひとくといとひしもをる」鶯の鳴き声を、「人来人来(ひとくひとく)」と聞く。

■形ことに=かたち異に=普通の人と異なった姿、尼になること。