永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(187)その1

2017年04月27日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (187)その1  2017.4.27

「二日ばかりありて、ただ言葉にて『侍らぬほどにものしたまへりけるかしこまり』など言ひて、たてまつれて後、『いとおぼつかなくてまかでにしを、いかで』とつねあり。『にげないことゆゑに、あやしの声までやは』などあるは、許しなきを、『助にものきこえむ』と言ひがてら、暮れにものした。」

◆◆二日ほどして、私の方から口上として、「留守の間においでになったそうで、大変失礼をいたしました」と使いの者をやりましたところ、その後で、「先日はお目にかかれずお暇いたしましたが、どうぞお目もじのほどを」と始終言ってきます。「どうも不似合いであるから、私のお聞きぐるしい声までお耳を汚すことはどうも」と言っているのは、許さないということなのに、「助の君にお話があります」と言いがてら、夕暮れにやってきました。◆◆



「いかがはせんとて格子二間ばかり上げて、簀子に火ともして廂にものしたり。助、対面して、『はやく』とて椽にのぼりぬ。妻戸をひきあけて『これより』といふめれば、あゆみ寄るものの、又たちのきて、『まづ御消息きこえさせたまへかし』と忍びやかにいふめれば、入りて、『さなん』とものするに、『おぼし寄らんところにきこえよかし』など言へば、すこしうち笑ひて、よきほどにうちそよめきて入りぬ。」

◆◆どうしたものか、仕方がないと格子を二間(ふたま)だけ上げて、簀子に灯火をともし、廂の間に招き入れました。助が会って、「さあ、どうぞ」と勧めて、右馬頭は縁に上がりました。助が妻戸を引き開けて、「こちらから」というようなので、歩み寄ったけれど、またあとへ下がって、「まずは母君にお取次ぎください」と小声で言っている様で、助が来て、私に「そのようにおっしゃっています」と言うので、「思し召し(養女)のところで申し上げなさいよ」と言うと、少し笑って、程よく衣ずれの音をさせて、廂の間に右馬頭が入ってきました。◆◆


■椽(えむ)=たるき。縁

■二間(ふたま)=「間」は柱と柱の間のことをいう。