九九 御乳母の大輔の、今日の (112) 2019.3.3
御乳母の大輔の、今日の、日向かへくだるに、給はする扇どもの中に、片つ方には、日いとはなやかにさし出でて、旅人のある所、ゐ中将のたちなどいふさま、いとをかしうかきて、いま片つ方には、京の方、雨いみじう降りたるに、ながめたる人などかきたるに、
あかねさす日に向かひて思ひ出でよ都ははれぬながめすらむと
ことばに御手づから書かせたまひし、あはれなりき。さる君を置きたてまつりて、遠くこそえ行くまじけれ。
◆◆御乳母の大輔が、今日の、日向(ひゅうが)に下るというときに、中宮様がお与えになるたくさんの扇の中に、片方には、日がぱっと差し出て、旅人が居る所、井中将の館などというありさまを、とてもおもしろく描いて、もう片一方には、京の方面のありさまで、雨がひどく降っているのに、物思いをして見つめている人などを描いてあるのに
(歌)映える日に向かっても思い出しなさい、都では晴れることのない長雨にじっと物思いにふけって見つめているであろうと
(中宮様が)言葉として御自らお書きあそばしたのは、しみじみと身に染みておぼえたことだった。このようなご主君をそのままお置き申し上げて、遠くへ行くことは、とてもできそうにないことだ。◆◆
■御乳母の大輔=中宮の乳母であろうか。伝不詳。
■扇=扇は再び「あ(逢)う」に因んで、餞別に送ったのであろう。
■ゐ中将=不審。
御乳母の大輔の、今日の、日向かへくだるに、給はする扇どもの中に、片つ方には、日いとはなやかにさし出でて、旅人のある所、ゐ中将のたちなどいふさま、いとをかしうかきて、いま片つ方には、京の方、雨いみじう降りたるに、ながめたる人などかきたるに、
あかねさす日に向かひて思ひ出でよ都ははれぬながめすらむと
ことばに御手づから書かせたまひし、あはれなりき。さる君を置きたてまつりて、遠くこそえ行くまじけれ。
◆◆御乳母の大輔が、今日の、日向(ひゅうが)に下るというときに、中宮様がお与えになるたくさんの扇の中に、片方には、日がぱっと差し出て、旅人が居る所、井中将の館などというありさまを、とてもおもしろく描いて、もう片一方には、京の方面のありさまで、雨がひどく降っているのに、物思いをして見つめている人などを描いてあるのに
(歌)映える日に向かっても思い出しなさい、都では晴れることのない長雨にじっと物思いにふけって見つめているであろうと
(中宮様が)言葉として御自らお書きあそばしたのは、しみじみと身に染みておぼえたことだった。このようなご主君をそのままお置き申し上げて、遠くへ行くことは、とてもできそうにないことだ。◆◆
■御乳母の大輔=中宮の乳母であろうか。伝不詳。
■扇=扇は再び「あ(逢)う」に因んで、餞別に送ったのであろう。
■ゐ中将=不審。