永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(114)

2019年03月19日 | 枕草子を読んできて
一〇一  かたはらいたきもの  (114) 2019.3.19

 かたはらいたきもの まらうどなどに会ひて物言ふに、奥の方にうちとけと人の言ふを、制せで聞く心地。思ふ人のいたく酔ひさかしがりて、同じ事したる。聞きゐたるをも知らで、人の上言ひたる。それは何ばかりならぬ使人なれど、かたはらいたし。旅立ち所近き所などにて、下衆どものざれかはしたる。
◆◆いたたまれない感じのもの 来客などに会って話をしている時に、奥の方でくつろいだ内輪話を人がするのを、止めないで聞く気持ち。自分の思っている人ひどく酔って偉そうにして、同じことを繰り返しているの。側にゐて聞いているのも知らないで、人のうわさをしているの。それはたいした身分の人でもない使用人であるけれども、いたたまれない感じがする。外泊してしる家の近い所で、下男たちがふざけあっているの。◆◆

■かたはらいたきもの=脇から見て苦々しい、いらいらして我慢しかねる感じだ、の意。
■旅立ち所=自宅以外に泊まるのが旅である。



にくげなるちごを、おのれが心地にかなしと思ふままに、うつくしみ遊ばし、これが声のまねにて、言ひける事など語りたる。才ある人の前にて、才なき人の、物おぼえ顔に、人の名など言ひたる。ことによしともおぼえぬを、わが歌を人に語り聞かせて、人のほめし事など言ふも、かたはらいたし。人の起きて物語などするかたはらに、あさましううちとけて寝たる人。まだ音も弾きととのへぬ琴を、心一つやりて、さやうの方知りたる人の前にて弾く。いとどしう住まぬ婿の、さるべき所にて舅に会ひたる。
◆◆可愛げのない乳飲み子を、自分の気持ちでは実に可愛いと思うままにまかせて、かわいがって遊ばせて、その子の声色をまねて、言ったことなどを話してるの。才学の優れている人の前で、才学のない人が、物知り顔に、史伝などに見える古人の名など言ってるの。取り立てて良いとは思われないのに、自分の歌を人に話して聞かせて、その人が褒めたことなどを言うのも、いまいましい感じだ。人が起きていて話などをしている側で、あきれるほどくつろいで寝ている人。まだ音も弾いて整えていない琴を、自分の心だけで満足させて、そちらの方面に通暁している人の前で弾くのも。さっぱり通ってくることのない婿が、しかるべき表舞台で、舅に出会ったの。◆◆

■琴(こと)=「琴」は弦楽器の総称。

*写真は「琴」