猿倉山中腹の林の中にあるキャンプ場の炊事棟で、焦げ茶色の幾何的な模様が印象的なシャクガの仲間が、炊事台にとまっていました。この炊事棟は、キャンパーがいると一晩中蛍光灯がついているようで、その光に集まってきた蛾が、朝にも残っているのです。
帰宅後、翅の色、模様と発生時期とに注目しながら『蛾の生態標本図鑑』でシャクガ科の頁をパラパラめくっていると、ナカジロネグロエダシャクが目にとまりました。色、模様はそっくり、発生時期も秋です。
同図鑑によると、ナカジロネグロエダシャクは秋の蛾で、9~11月に出現。前翅、後翅とも白っぽい。前翅の中横線は中室近くで角張る。寄主植物(食草、食樹、食餌植物など様々に呼ばれますが、要するに幼虫の食べる植物です)は未知で、ホオノキでの飼育に成功しているそうです。
説明文に「中横線」「中室」などの用語がでてくると、素人の私はすぐにギブアップしてしまいますが、ウェブサイト『みんなで作る日本産蛾類図鑑V2/現代蛾学の基礎知識/成虫同定の初歩』には、蛾成虫の翅の各部位の名称がわかりやすく説明されていて、便利です。
《炊事棟の炊事台にとまっていたナカジロネグロエダシャク 2021/11/03》
《炊事棟の炊事台にとまっていたナカジロネグロエダシャク 2021/11/03》
※ 市立図書館から借りてきた『標本バカ』(川田伸一郎・著)を読みました。たいへん興味深く、一気に。イラストは、初め見たとき少し引けましたが、読み進めるうちに味わい深いものであることに気づきました。
「…博物館にとって一番大切な『もの』、それは標本・資料…標本がなければ博物館は成り立たない…。」(序文)
「…僕はモグラが分布する場所に行けば十中八九捕まえる自信があるが、ミズラモグラだけはそうはいかない。…僕はまだミズラモグラを拾ったことがない。モグラ研究者としての汚点の一つ…」(ミズラモグラをどうするか?)
「…ペットを標本にすることには、誰だって抵抗があるだろう…ペット動物というのは最も集めるのが難しい標本…国立科学博物館の収蔵品でも、ペットの代表であるイヌやネコに関しては、品種も数も標本はそれほど多くない…『うちの犬が死んだので標本にしてほしい』といった心理にはなかなかならない…」(ペットの標本)
「…この標本収集を実現するために、僕は『3つの無』をスローガンに掲げている。1つ目の無は『無目的』…2つ目の無は『無制限』…3つ目の無は『無計画』…」(3つの「無」)
「…普通種であるノウサギの死体はそのまま処分されることが多く、逆に蒐集するのがなかなか難しい。…」(普通種の珍品)
「…『無欲』というのもまた、標本集めの一つの指針…できるだけ『これが欲しい』ということを提供者に伝えないようにしている。基本的には受け身の姿勢で、『もし捨ててしまうのなら何でもください』と提供してくれるのを待つ…」(もう一つの「無」)
この本を読んだ私は、さっそく筆者にメールしました。その返事が、次のものです。
『メールをありがとうございます.標本バカ、楽しんでいただけたようで何よりです。あの本に書かれている通りの博物館生活です。どんな死体でもできる限りの標本にしますので、もし面白いものを見つけたらビニル袋何重かにして、ヤマトの冷凍宅急便「着払い」でお送りいただければ幸いです。住所は
川田伸一郎
〒305-0005 茨城県つくば市天久保4-1-1 国立科学博物館筑波研究施設
電話:029-853-8321
です。平日着に指定していただければ、僕がいなくても受け取ることができます。死体を拾った場所と日付を付けてください。メールなどでもOKですが。』
私は、ロードキルなどで見つけた動物遺体は、川田さんに送るつもりで、その機会が早くくればいいと思っています。
また、まだ本犬の了解はもちろん、家族の了解も得ていませんが、ペットの愛犬(ミニュチュアシュナウザー♀10歳)が死んだら、科学博物館に献体しようとも考え始めています。
《本犬の承諾なしに科学博物館への献体を計画されているのを知らない我が家の愛犬》
(少しだけ誇らしい気持ちがしますが)モグラ専門家の川田さんが拾ったことのないミズラモグラの新鮮な死骸を、昔4年間住んでいた立山室堂平2,49mで拾ったことがあります。
《私が拾ったミズラモグラの死骸 1999/07/22》