何かいないかとヤマナラシの下枝(顔より少し高いところ)を見て回っていて、薄緑色の新葉に混じって枯葉がついているところが気になりました。手元に引き寄せると、タテハチョウの仲間のような幼虫が付いていました。ヤマナラシはヤナギ科なので、てっきりヒオドシチョウの幼虫ではないかと思い込みました。(それでも、羽化させて確かめようとビニル袋に入れて持ち帰りましたが、帰宅すると袋の中はもぬけの殻。葉といっしょに入れるとき、落ちてしまっていたようです。)
写した写真を、図鑑やウェブサイトなどのミドリヒョウモンの幼虫と見比べると、どうも違っていたようです。幼虫がヤマナラシの葉を食べるタテハチョウの仲間はいないし、タテハチョウの仲間の幼虫で色形が似たようなものも見あたりません。
ふと思いついて、大阪市立自然史博物館の学芸員紹介のウエブサイトを見て、タテハチョウの仲間に詳しそうな学芸員の方(長田庸平さん)に写真を添付した問い合わせ文を送りました。その返事が、次のとおりでした。
「画像を拝見しました。おそらく、ミドリヒョウモンの幼虫だと思います。ミドリヒョウモンはスミレ類を寄主とし、この画像の個体はヤマナラシの枯葉で蛹になろうとしていたと思われます。」
これでわかりました。地面にはえたスミレ類を食べて終齢になったミドリヒョウモンの幼虫は、想像できないようなところに移動して蛹になるのです。
ウェブサイト『大阪市とその周辺の蝶/ミドリヒョウモン』2020/05/26にも、
「終齢になって飼育容器に蛹化のための枯れ枝を入れたところ、休息は常に枝に登って行なっています。メスグロヒョウモンでも同様でした。生態図鑑には枝に登るという記述はありませんが、これは自然にはないことなのでしょうか。枯れ枝に擬態しているのではないかと想像しています。休息する場所は決まっていません。」http://butterflyandsky.fan.coocan.jp/shubetsu/tateha/midorihyomon/midorihyo.html
と書かれ、枯枝で前蛹になった写真が載せられていました。
また、『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ)』には、ミドリシジミの幼虫が早い速度でよく地上を歩き回り、その行動半径が広いこと、また、自然状態での蛹化の観察例は少ないとしながら、蛹化場所としてササやワレモコウの葉裏、小川の木橋の敷板の裏側や山道のリョウブの枝先(地上1.5m)、サクラの古木の樹幹などが例示されていました。
やはり、世の中、ヒトが知らないことがまだまだいっぱいあって楽しいのだと思います。
《ヤマナラシの枯葉に隠れる(?)ミドリヒョウモンの終齢幼虫 2020/05/23》
《ヤマナラシの枯葉に隠れる(?)ミドリヒョウモンの終齢幼虫 2020/05/23》
(追記)今日(2020/06/18)、倉庫で探し物をしていたところ、うまく羽化できなかったヒョウモンチョウの死骸と羽化殻見つけました。2020/05/27のブログ「ミドリヒョウモン(終齢幼虫)(県森林研究所樹木園/立山町吉峰)」で紹介した幼虫が、帰宅してビニル袋からヤマナラシの小枝を取り出したとき逃げ出し、倉庫の中で蛹化、羽化したものです。
大阪市立自然史博物館学芸員の長田庸平さんのご指摘のとおり、ミドリヒョウモン♂でした。
《倉庫で見つかったうまく羽化できなかったミドリヒョウモン♂の死骸と羽化殻 2020/06/18》