ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

再びアルコール急性離脱後症候群(PAWS)について(中)

2016-02-19 08:27:21 | PAWS
【急性離脱後症候群】
 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。
  ○ 思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い
    思考、因果関係を理解できない)
  ○ 情動障害(情動の揺れ)
  ○ 記憶障害(短期記憶の障害)
  ○ 睡眠障害
  ○ 身体的協働性に問題
  ○ ストレス感受性に変化

                   (アルコール依存症専門クリニック教育資料より)


 今回は、6番目の“ストレス感受性の変化”についての具体的な事例 ―― “情動の揺れ” を伴った実例とも言うべき典型的なエピソードをご紹介します。

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 酒を断って飲まない生き方を始めて1年6ヵ月経った頃の話です。“憑きモノが落ちた” 体験を経てからも、すでに8ヵ月経っていました。アルコールの軛から解放されたと有頂天な気持ちはまだ続いていました。その経験をひけらかしたくて仕方なかったのだと思います。ある日、自助会AAミーティングで司会のT氏から久々に発言の機会が与えられました。これを機会にと、アル症の初診断時から “憑きモノが落ちた” 体験までを夢中になって一気に語りました。

 会社勤務の現役時代、会社で毎日の深夜残業後に居酒屋通いが始まり、飲み方の異常(な習慣)が本格的に定着してしまったこと。その結果として医者から振戦を診咎められ、アルコール依存症と初めて診断されたこと。定年まで何とか勤務を続けられたものの、退職を機に連続飲酒状態に陥り、“底着き” を経て専門クリニックに毎日通院が始まったこと。断酒後、ひどい記憶障害を自覚したことから酒害を忘れないように叙述し始め、併せて回復期の症状をも記録に残そうとしたこと。それが自分史執筆のキッカケとなったこと。ドライドランク状態から性的妄想に悩まされ、嵌ってしまったAV動画の内容を文章で描写し始めたこと。その結果として “憑きモノが落ちた” ように妄想から解放され、頭にヴェールを被ったようなモヤモヤした感覚が消えたこと。この出来事以降は、平常心が得られプラス思考になれたこと。こんな盛り沢山の内容だったと思います。

 私としては端折りに端折って話したつもりでしたが、閉会時刻を大幅(?)に超過してしまいました。盛り沢山の内容をしかも端折られて話されては、聞いている方も堪ったものではなかったと思います。語りまくりで気分が昂揚していたので、時間超過がどれだけだったのか覚えていません。体験談を語ることは、アルコールの残渣でモヤモヤしたままの脳を活性化させるのに必ず効くと確信していました。胸に秘めた欲求不満の悩みや不安の単なる捌け口としての効用だけではないのです。ですから、自分の体験を是非皆に聞いてほしい、少しでも皆に共有してもらいたい、という一心だったのです。

 2~3日後の別のAAミーティング会場でのことです。会が始まる少し前、T氏がすっと私の坐っていた隣に腰かけ、こう話しかけて来ました。
「なぁヒゲジイさん、話が長すぎるよ。時間超過には注意してくれ。会の運営者として時間の割振りが狂って困る。」
「失礼しました。途中で打ち切ってよかったのに・・・。これからは途中で打ち切ってもらって結構ですよ」
と苦笑いしながら答えたのですが、話の途中で打ち切るという提案にT氏は何も答えないまま、自分の席に戻って行きました。これにはこちらも気分を害しました。

 AAミーティングはガイドブックの朗読から始まります。いやな気分を引き摺ったままでは発言する気分にもなれなかったので、発言機会を放棄する意志表示を兼ねて、ガイドブックの朗読を志願しました。ガイドブックの朗読者には発言を求めない、という暗黙の了解がAAにはあります。

 私は、AAミーティングでの時間の按分は司会者の務めで、発言者は時間に配慮しなくてもよいものと勝手に考えていました。“自分に正直に” 自己の体験談を話すということとは、発言者が臆せず、取り繕わず、躊躇もせずに思い切って胸中を曝け出すことであり、時間も気にせず無我夢中になり切らなければ意味がないと単純に思い込んでいました。そうすることが眠っている記憶を呼び覚まし、ひいては脳(前頭葉)の活性化に繋がるのだと固く信じていたのです。

 断酒歴が10年以上と長いベテランのT氏ですから、当然回復のプログラムにある “棚卸し” を済ませており、体験談を発表する意義も効用も理解しているものと思っていました。つまり、私とまったく同じ考えを共有している人物だと勝手に思い込んでいたのです。ですから、T氏の発言が無理解にみえ、妙に腹が立ったのです。

 休診日を挟んで4日経っても、件のシコリが残ったままで、AAミーティング出席を止めようとさえ考えていました。そこで専門クリニックの相談員(ソーシャルワーカー)に鬱憤を聞いてもらうことにしました。
「そう・・・、後から注意を受けたんですか。自助会の運営については意見の対立がよくあるそうですよ。それで所属グループを転々とする人もいると聞いています。で・・・、どう考えてみるつもり?」
その言葉でT氏が自分の思い通りにAAミーティングの運営がしたい、そういう考えの持ち主であったことを思い出しました。AAミーティングの運営方針で仲間と衝突したことがある、と以前何度か体験談で語っていたのを聞いたことがあったのです。
「へぇー、同じようなイザコザ結構あるんですね!? せっかくのよい機会ですから、文章に書いて気持ちを整理してみます。」
「そう、いつものように得意の “言語化” ですね? 成果を期待してますよ!」

 私は、AAミーティングについてT氏が心にシコリのようなものを持っているのだと初めて気付かされました。ミーティング会場を借りている手前、司会者として時間厳守は尤もですし、発言者に自律を求めるのも尤もなことです。多くの参加者に発言の機会を持たせたいという考えなのかもしれませんし、発言者に中断を強いるべきではないという主義なのかもしれません。他にも何か固執(こだわ)りがあるのかもしれませんが、分からなくてもいいのです。

 あの場では、もう一歩引いてみて、T氏の立場にも思いを馳せるべきだったのだと思い至りました。私も、自分の考えばかりが正しいと一方的に固執(こだわ)っていたのです。気持ちの整理がついた私は、多少シコリが残ったままでしたが、今まで通りミーティングへ参加し続けようと心に決めました。

 “憑きモノ”  が落ちて、得体の知れない妄想がすでに晴れていましたので、自分自身が救われたいという強い動機がなくなっていました。何が何でもシャカリキになって話さなければならないという道理は最早なかったのです。考え方も受け止め方も共に偏っていたことだけが浮き彫りになって来ます。今振り返ってみると、些細なストレスに随分過敏になっていたものだと思わずにいられません。

 その後しばらくは、AAのミーティングでT氏と目を合わさないようにしていました。その頃、ミーティングの最後にT氏はよく言ったものです。「発言の機会がなくて、不満の人もいるかもしれません。そんなことで酒に手を出すことがないようにお願いしたい。・・・」この言葉には苦笑いするしかありませんでした。

 ストレスを少しでも軽く受け流すためには、どうしても角度を変えてモノを観る、複眼的な見方が必要です。
 “一歩引いて 一息ついて 一歩引いて” 
 “冷静に、角度を変えてモノを観る”
 “ありのままを ありのままに受け容れる”
複眼的な見方の経験を積むためにも、まだまだこの “呪文” を唱える必要があるようです。


PAWSについての概論はこちらをご参照ください。
“情動の揺れ” を伴ったストレスへの過剰反応については、こちらのエピソードもご参照ください。今回ご紹介したものより強いストレスを受けた事例です。
思い込み” の逸らし方 “ありのままに受け容れる


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