“否認” は、アルコール依存症(アル症)に特異的な症状です。
自分はアル症ではないとする直接的な “否認” と共に、酒を飲まずにいられないのを他者の所為にする(他罰的)という二重の “否認” が特徴です。なかなか酒をやめられない原因はここにあります。
その “否認” について最近、こんな話をしてくれた仲間がいました。AAのミーティングは休止中ですが、もしやと思って会場の様子を見に行ったとき、偶然出会ったのです。
「ヒゲジイさんは、定年まで頑張られた上での円満退職ですから、
私からみたら実にラッキーですよ。
それに比べ、私なんて定年まで10年を残して、
完全に、全ての関係を断たれた上、会社から放り出されたんですよ。
そのとき初めて厳しい現実を突き付けられました。」
こんな切り出しから始まった “否認” の話、続いて核心部分に移りました。
「土木関係の工事現場では酒が付きもの、酒ナシではやっていけない
職場なんです。
アルコール依存症と診断された1回目の入院のときは、
私に3つの選択肢がありました。
一つ目、少し酒を控えさえすれば、従来通り仕事ができる。
二つ目、同じ社内で、酒を飲まずに済む職種に異動を申し出る。
三つ目、何もかも一から出直しての転職。この3つです。
資格を5つ持っていたので、二番目、三番目なんて論外です。
せっかく取った資格なのに、それを生かせない仕事なんて、
とても耐えられるもんじゃなかったですよ。
是非とも、同じ職種の仕事を続けたかった。
だから、少しぐらいの酒なら大丈夫だろうということにして、・・・
結局、酒をやめられずに元の木阿弥に、・・・
案の定、アルコール癲癇で再び入院、全てがオジャンとなりました。
これが私にとっての “否認” です。
“どっちつかず” が一番悪い。本音のところ、これが私の結論です。」
この話をしてくれたのは Y さん、67歳。内省を重ねた結果、今は “否認” 体験をこう率直に語れるまで回復しています。大規模送電工事の現場監督をしていたY さん、努力して資格を5つも取り、かつても今も勉強のできる人です。
酒が付きものの職場を離れて転職すれば、せっかくの資格も生かせなくなります。資格という仕事上の柵(しがらみ)に囚われていたことも事実でしょうが、結局、自分のプライドが一番、それが異動や転職を拒絶させたのでしょう。
たとえ資格の要らない職種に変わったとしても、自分のほんの一部を否定される(部分否定)に過ぎません。それを自分が全否定されるものと思い込み、従前の仕事にしがみついたという次第。かくも典型的な “認知のゆがみ” もあったようです。
仕事上の様々な柵(しがらみ)、自分のプライド、これらに “認知のゆがみ” も絡み合っての “否認”。アル症者には、こんな “否認” が誰にでもあるのです。
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