新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

余命の話

2013-03-13 21:53:21 | 医学系

こんばんは

 

3月5日から4月5日までの間に血液学会総会の演題投稿をしなくてはなりません。一応、先日倫理委員会に提出したものを解析して提出するつもりですが、その解析+αに基礎実験のほうは試薬が来るのを待っているというところです。

 

まぁ、いろいろやることは探せば山のように出てくるというところです。ついでに医局旅行の計画をついに2人の教授の承諾を得、医局長の指揮(医局旅行幹事に任命されました)のもと発動させました。

さしあたり、時期などをアンケート調査して(場所はいろいろと考えて決めてしまいましたw)計画を立て、実行する予定です。

 

さて、このBlogもいろいろな記事があり、どういう検索キーワードが引っかかって、どういう記事を読んでいるかもわかるのですが…ちょっと気になることがあったので記載させていただきます。

 

今日、たまたま外来輸血時にお話しした患者さんも「余命」のことを言っていました。このBlogの検索ワードにも「骨髄異形成症候群+余命」「悪性リンパ腫+余命」「急性白血病+余命」などのワードが並んでいます。

 

僕は以前書いたかもしれませんが、まず余命に関してはいうことはあまりないです。なぜなら個人個人の命なんて神様でもなければわかりませんので。

悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方)

という記事にも書きましたが、僕は悪性リンパ腫も急性白血病も「標準治療をやり遂げる」ことをまず考えればよいと思っている人間で、効かなかったらどうしよう・・・とか、再発したらどうしようというのは患者さんに考えてほしくないと思っています。

前向きに治療を進める。

予後を患者さんが知る必要性があるとすれば、患者さんが家族の方や、知り合いの方々に対して亡くなった場合の対処をしないといけない場合、もしくは死ぬまでの時間をある程度把握して、その時が来るまでの計画を立てる場合など…だと思っています。

 

僕は病気を診断し、告知した時に…当たり前ですが「この病気でこういう状態だと、一般的に5年生存率はこのくらいです。ただ、○○さんが治るかどうかは1か0です」とか言ったりします。

 

僕は本当にそれ以上のことを聞かれたら「統計学的なお話はできますが、○○さん個人の話はできません。僕は神様ではないので、○○さんの予後についてはわかりません。まずは行うべき治療を行い、病気をやっつけて治ることを考えましょう」というような答えをします。さらにどうしても細かく知りたいと言われれば、いくらでも細かく言いますが…その時点で患者さんのメリットはないという判断をしています。

 

偶然かどうかはわかりませんが、僕が2008年から2011年までの間に主治医として治療にあたった急性白血病の患者さんのうち、一般的な標準治療を行った患者さんって8割以上ご存命だと思います(もし、思い出していない患者さんがいたらごめんなさい)。まぁ、再発のリスクが高いと思った方は移植をしていますし、再発してもどうにかして第2寛解期で移植している(これは後輩が主治医で行った移植ですが)し・・・。

ついでにこの時期に診療していた悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)の患者さんの一部を統計解析してみたんですが、一般に言われているよりも成績いいんですよね。

そういうことも含め・・・僕は統計学的に「生存に影響を与える因子」として解析することはできませんけど、「治るんだ」「再発することは考えないようにしよう」と思って治療をするのと、「50%の確率で再発するんだ」と思って治療をするのでは違うのではないかと思っています。

 

今日、話をした患者さんにも

「確かに統計学的に▽■さんの病気は生存中央値が0.4年という風に言われてしまいます。しかし、その解析は昔の良い薬がなかった時代の数値です。良いか悪いかで言えば、性質が悪いものというのは間違いないですが・・・余命何年と決めつけるのはよくないです。ついでに言うと同じような病気の状態でも2年、3年と長生きされていた患者さんも知っています(まぁ、その方は僕もびっくりするくらいですが)。個人個人については病気の性質も違いますし、薬の反応性も違います。そういうことも含めてわかりません。▽■さんの病気は完治するというたぐいのものではないので、余命を考えて生きることは非常に大事で素晴らしいと思いますが、もっともっと生きられるかもしれないと考えたほうがよいです」

と、お伝えしました。

 

医師は完治する類のものでない場合生存中央値×年とか・・・、あとは説明責任という意味では積極的な治療では「5年生存率」は▽%とかと説明をすると思います。

しかし、本当に医師も神様ではないので「個人」の余命を判断することはできないのです。

 

僕たちは「同じようなグループを解析した結果、グループとしてこのくらいの生存確率です」ということはわかっても、「個人としてどのくらいか」というのは言えません。

 

それ故僕が担当したすべての患者さんには、例えば・・・

「(急性白血病の患者さんに)抗癌剤治療で病気が検査でわからない状態になる可能性は7割~8割くらいです。その後の抗癌剤だけで治るかどうかというのは追加の検査をして分類しますが、4~5割程度でしょう。抗癌剤だけでは治る可能性が低いと思われる人には骨髄移植を検討します。

予後は神様ではないのでわかりません。5年生存率というのを統計学的にお伝えはできますが・・・たとえば最初の治療はがん細胞がいっぱいあるのでリスクが高いわけですが、これがうまく消えた人と消えなかった人では予後に差が出てきます。あえて言うなら○○さんが5年後に生きているかいないかは、まさに0か1しかないです。寛解に入らなかったらいろいろ考えなくてはならないですが、まずは寛解を目指して頑張るのがよいかなと思います。」

・・・まぁ、どちらかというと「0か100かしかないので、治る方目指して頑張りましょう」というような感じで終わりますけど。

 

ともかく、予後というのは気になると思いますが…統計学的(こういうグループの・・・)には言えても、個々人の余命というのはなかなか言えません

本当に積極的な手が出なくなったときに…初めて「もしかすると、このくらいしか生きられないかもしれない」とは言います。それは先程も言いましたが、患者さんや家族がいろいろな準備をするのに絶対に必要な時間だと思うからです。

 

しかし、それ以外では…特に最初の段階ではあまり「余命」とか「予後」という言葉を気に掛けるよりも、「できることがあるならまずはやろうじゃないか・・・」という考え方のほうがよいのではないかと思います

 

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P.S:これにもいろいろ批判があるとは思いますが、患者さんにもよると思いますが僕は前向きに治療に取り組むためには、あまり余命とかを言わないほうがよいのではないかと思っています。

 

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アザシチジン(ビダーザ)の話

2013-03-11 21:38:18 | 医学系

こんばんは

 

昨日は当大学の卒業パーティがありまして、二次会から参加してきました。二次会といっても各診療科ごとにやっているわけですが、血液内科は6年生3名と5年生2名が来てくれて、それなりに盛り上がっておりました。

 

血液内科の若手が少ないというのは事実ですが、最近うちの大学(血液内科)はコンスタントに人が増えていて、第二次黄金期に向かっているのかもしれません

 

まぁ、そうなるといいなぁと思っています。

 

さて、ずいぶん昔に「アザシチジンで困る・・・」という記事を書きました。

実際に保険適応がしっかりあって・・・ある意味エビデンス(根拠)がしっかりしている治療薬は他にないですよね(実はエビデンスではタンパク同化ステロイドやビタミンDやビタミンKよりも免疫抑制療法のほうがありますが、日本では保険適応はないし)。

 

アザシチジンについては昔も書いたような気がしますが「高リスクの骨髄異形成症候群(MDS)」に対して使用する薬剤です。高リスクというのはIPSSという分類法でInt-2、High riskに分類される患者さんたちで、生存期間中央値(50%の患者さんがなくなる期間)が診断されてInt-2が1.2年、Highが0.4年です。

 

これらの患者さんたちに対し、それまでの一般的に行われてきた治療法では15か月で半分の患者さんがなくなりましたが、アザシチジンのグループは24.5ヶ月と明らかな生存期間の延長を認めました。

それ以来、高リスクのMDSの標準治療とされています。

 

最近、低リスクにもアザシチジンを使用する臨床試験などもやっている施設があるようですが、今のところは様子見をしたいところですね。理由は何もしなくても生存期間中央値が5.7年(low)、3.5年(int-1)はある低リスクMDSの患者さんたちにアザシチジンを使用して、有害事象が多くなると嫌だからです。例えば成おzン中央値が10年以上になった…というなら考えます。あとは輸血依存がほとんどないならば考えますが、有害事象がない薬ではないので二の足を踏みますね。

治療というのはメリットがデメリットを大きく上回るからこそ行います。抗癌剤治療の類や手術、放射線治療などすべてそうです。体に少なからずダメージがいきますので、それを超える効果がないといけません。

ですので、メリットが確実に出るだろうと思う「高リスク」群はともかく、低リスクに使用する根拠はまだないですし…。低リスクでも特殊な状況(輸血依存で、それをどうにかすることが大きく患者さんのメリットになるなど)なら、メリットがデメリットを上回ると思いますが。

 

さて、アザシチジン。学生さんには説明するときにはこんな風に言っています。

「アザシチジンは脱メチル化薬と言われる仲間なんだけど、どういう薬かわかりますか?」

だいたい・・みんなよくわからないといいます。

 

簡単に書きますが脱メチル化…というのにはこういう意味があります。

「遺伝子」というもののなかに「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」というものがあります。

 

「がん遺伝子」というのは増殖を高めるようなものが多く、「増えろ~。増えろ~」と命令してきます。

 

がん抑制遺伝子は「あれ、これはおかしいぞ。増殖ストップ」とか「あぁ、もうこのままではがん化して、皆に悪い影響を与えてしまう。そうなる前に死んでしまおう」など…どうにかしてがん化を起こさせなようにするグループです。

 

そりゃそうだろうといわれると・・・こまるのですがw 

 

メチル化…というのは遺伝子に「メチル基」というのが引っ付いたときに、うまくその遺伝子は働けなくなります。そういうのをエピジェネティックな異常…とかって言いますが、要はメチル基を取り除けば「がん抑制遺伝子が復活!」ということになるわけです。

 

骨髄異形成症候群やそこから進展した白血病などは「増殖がゆっくり」であることが多いです。どちらかというと異常な細胞が死ななくなったようなグループが多いので。

がん遺伝子…の異常というよりは「がん抑制遺伝子」の異常のような感じがしませんか?

 

まぁ、実際に調べてみるとMDSの細胞では、がん抑制遺伝子のCpGアイランドと呼ばれる領域にメチル化が起きていることがわかってきて、アザシチジンを使うようになったわけです。

 

すなわちアザシチジンの狙いは「メチル化によって機能しなくなったがん抑制遺伝子を復活させること」です

 

他にも殺細胞効果があったり・・・もしかするとBloodなどの有名な雑誌には出ていますが、骨髄移植後に使用するとGVL効果を高めGVHDを減らす(要するにいいことばっかり)とかいうデータも出てきています。

 

まぁ、アメリカのほうで治験が動いているみたいですが。

 

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Surviving Sepsis Campaign 2012 の簡単な記載

2013-02-19 22:36:49 | 医学系

こんばんは

 

いや~今日は寒かったですね。雪も降りましたし・・・。

まぁ、それ以上に寒い話もあるのですが・・・・

 

さて、本日は先ほどもコメントをいただきましたので「Surviving Sepsis Campaign」の記事を簡単にまとめてみようかと思います。ただ、専門的すぎる内容なので医療従事者むけになっているかもしれません。

 

・・・・まぁ、医療従事者はBlogではなくて自身で論文を見て確認されるのだと思いますが

ちなみにらでというのは推奨度でGrade1は「するべきである」、Grade2は「したほうがよい(推奨)」です

 

Sepsisというのは簡単に言いますと敗血症(菌が血液中に存在し、それにより体に有害な反応が生じている状態)のことです。専門用語では「感染症に伴うSIRS」と書けますが、基本的に今回は敗血症と診断されなくても「感染による全身性炎症」があることが疑われる(実際に血液培養を2セットとっても陽性率は半分程度と言われて:この論文中にも書かれています)状況であれば、これに従い対応します。

 

特に今回のSurviving Sepsis Campaignに関わってくるのは「ショックになった場合(血圧が低下し、重要な臓器に血液が流れなくなった状態)」と「臓器不全(腎臓、肝臓、肺、血小板減少、凝固異常)」を認める患者です。

今回、血圧の低下については「収縮期血圧が90mmHg以下」「平均動脈血圧(MAP:収縮期と拡張期の中間くらい)が70mmHg以下」などです。

 

初期対応として大量の輸液を行うのですが、1) 中心静脈圧(CVP) 8-12 mmHg 2) MAP 65以上 3) 尿量 0.5mg/kg/hr以上 4) 中心静脈 もしくは 混合静脈血の 酸素飽和度が各々70%, 65%以上 (grade 1C)
となっています。これはショック状態であれば酸素がより使われるので、これらは低下しています。あと上昇した乳酸値が正常に戻る(grade 2C)というのもありますが、これもショック状態では嫌気性解糖状態になるので乳酸が上昇します。それを指標にしています。

その後感染源をルーチンで検索し、早期治療を行います。

敗血症の診断のために、血液培養を最低2セット(1セットは経皮的に、もう1つはできれば中心静脈カテーテルから)採取し、45分以上の抗菌薬の投与開始が遅れてはならない(grade1C)。

侵襲性のCandida(カビ)感染が疑われるならば、β‐Dグルカン(grade 2B)とマンナンの検索(grade2c)を行ってもいいかもしれない

 

抗菌薬の投与は1時間以内に開始し(ショック状態はgrade 1B、重症Sepsisはgrade 1C)、当初は推定病原菌にきくような「広域抗菌薬」を含んだ単剤 or 併用抗菌薬治療を実施する(grade 1B)

状況を見てde-escalation(耐性菌を増やさないように、偽膜性腸炎やVREなどの感染を起こさないように)抗菌薬の変更を考慮する(grade 1B)

 

だんだん寒くなってきましたw

ちなみにこの抗菌薬の領域は併用療法のことやプロカルシトニンなどのマーカー、免疫不全患者やグラム陽性球菌の感染を除いて7-10日間程度で終了するなどの記載が書かれています。

 

実はこの辺は常識の範囲で収まってくるレベルです。

すいませんが長いので、少しとばします。

 

基本的に解剖学的な感染源がわかれば、そこをコントロールする(当たり前ですね。grade 1C)

細胞外液を初期輸液として用いる(grade 1B)が、HES(などのデンプンというか・・・、そういう溶液)を用いてはならない(grade 1C)

 

で、大きなポイントは昇圧剤ですね。これまでもノルエピネフリンが第一選択(grade 1B)は変わってませんが、ドーパミンがここまで否定的に書かれたのは…いろいろ理由が書かれています

 

心負荷がかかることが推測され、RCTで生存に有意差が付いてしまったので推奨できない…という状況ですね

 

そういうこともあり、今日は第一三共のMRさんに「ノルエピネフリンをどうやったらうまく希釈できるか、推奨のやり方を体重別にわかるようなものを作ったら、これからすごく使われると思うよ(本社に言ってくださるそうです)」と言ってみました。

できたらいいなぁ・・・。現場としてはそのほうが・・・・。今まではキット製剤があるドーパミンが多用されていた日本ですが、ここまで書かれたら使いにくい。

低用量のドーパミンは腎保護で使うべきではない(grade 1A)

 

など、昇圧剤はいろいろ書かれています

DOB(ドブタミン)の仕様についても記載がありますが、個人的にショック患者で昇圧剤を使用するときは、僕は今までステロイドを併用していました。

低用量のステロイド(僕はヒドロコルチゾン 50㎎を1日4回)を使用していましたが、今回も輸液と昇圧剤でコントロールができるなら使用しない(grade 2C)。使用するなら持続点滴で(しかも今までは300㎎以下だったのに、200㎎と量が限定された)・・・などですね。

 

他に輸血のことや呼吸器の設定、腎臓などいろいろ書かれていますが、それは確認してください。

 

右手の小指が冷たくなって、痛くなってきましたw

 

個人的にあと1つ、血糖管理が昔は150㎎以下が目標設定だったのが、180㎎/dl以下・・・すなわち高血糖でなければよいとなっています。

110-140と140-180で差がつかなかった…というのが根拠です。

 

他にもいろいろ書かれていますが、たぶん明確に違うのは「昇圧剤」「ステロイド」「血糖管理」だと思うのですが。僕の戦略は他は変更することがなかったので・・・。

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溶血性貧血の話(患者さん向け)

2012-11-18 22:24:57 | 医学系

こんばんは

昨日は雨だったので家の中で論文書いたり、嫁さんと話したりしておりました。今日は以前から気になっていた「悪の経典」の映画を見に行きました。

ネタバレはしませんが・・・僕の中では原作が面白かったので、ちょっと…と思いましたw

おおむね面白い原作の本を映画化するとうまくいきませんよね。特に長編のものは・・・。難しいですよね。

 

さて、本日は少し溶血性貧血に関して書いてみようと思います。

 

よく貧血というと「鉄欠乏性貧血」など、材料が足りないことで起こるものを思い出す方がいらっしゃると思います。鉄以外にも「ビタミンB12 」「葉酸」などが足りなくても貧血は生じます。

 

材料が足りない以外にどのような理由で貧血が生じるかというと、工場である「骨髄」に何かが起きた時です。例えば白血病などの腫瘍性病変があれば、工場の稼働率が悪くなってしまい貧血が進行します。

他にも再生不良性貧血のように「工場」が減少(造血幹細胞が減少)したり、骨髄異形成症候群のように不良品ばかりできるため出荷できないようなものもあります。

 

溶血性貧血というのは基本的には正常なものができるのに、出荷後に外で壊されてしまうから貧血が起きるものを言います。基本的にと書いたのは「先天性溶血性貧血」というものがあります。

 

先天性の場合だと大人というよりは小児の疾患で、僕はたまたま会社に入る時の健康診断で指摘されて受診されたひとを診ましたが、どちらかというと小児科で見られることが多いです。

 

 

 

あとは発作性夜間血色素尿症という造血幹細胞レベルで防御力が低下してしまい、ちょっとした変化で赤血球が壊れてしまう病気もあります(赤血球の表面にある『補体』を抑える物質をつなぎとめられなくなることで起きます)。

 

しかし、ここでは自己免疫性溶血性貧血を中心に書いていきます。

本来赤血球は120日の寿命がありますが、溶血性貧血ではそれよりも早く壊れてしまいます。そのため、工場は赤血球を大増産状態です。そして賄えなくなると貧血になっていきます。外で壊れる原因にもいろいろあり、先ほどから書いている赤血球に問題があるもの、そしてたとえば心臓の手術で人工弁が入ると、そこで機械的に赤血球が壊れて溶血します。この場合、よっぽどひどくなければ貧血にならないかもしれませんが溶血はします。

 

自己免疫性溶血性貧血というのはこの外で壊れる原因が、自分の抵抗力にあるものを言います。要は自分で自分の赤血球を壊してしまっている病気です。自己抗体という赤血球を壊してしまう物質を作ってしまいます。本当は抗体というのは体を守る物質なんですが、なんかの拍子に自分の中のものを壊すことがおきたりします。

 

赤血球が壊れると、赤血球の中にあるヘモグロビンがビリルビンという「黄疸」の原因物質になるので、黄疸が生じます。また、それらは胆石の原因になったりします。貧血が生じれば息切れなどの症状も出てきます。

 

さて、自己免疫性溶血性貧血には基本的に「温式」と「冷式」があります。温式は体の内部の温かいところ…具体的にいうと脾臓で壊されるタイプです。冷式というのは体温が低いところ、具体的にいうと指先や耳たぶなどで生じます。

 

温式と冷式にこだわる理由はいろいろあるのですが、基本的には温式抗体が原因の溶血性貧血は

1、ステロイドによる免疫抑制療法が効きやすい

2、上記が効かなくても脾臓を取れば壊される場所がなくなるので改善する

ことが多いです。

 

逆に冷式抗体だと基本的にはステロイドは効きにくいし、壊れる部分が四肢末梢なので脾摘は無効です。まぁ、体を温めておけばよいのですが、なかなか難しいですよね。手袋や耳あてをして保温に努めるのが一番です。

一応、冷式抗体の一つ寒冷凝集素症の患者さんにRituximab(リツキサン)が効くという報告もあり、2人の患者さんと相談してやったことがありますが効果はあったように思います。ただ、温式抗体のようにてきめんというわけではなく、費用対効果が厳しいと言われました。

 

温式でもステロイドを切れるかどうかはわからないです。溶血性貧血の試験の一つにクームス試験というのがありますが、これが陰性になってから僕は切ってますが、そういう患者さんは再発していません(今のところ)。けど、だいたい2.5㎎前後で溶血し始めたりするんですよね。

 

ということで、今日は溶血性貧血の話でした。

 

P.S 2017年に新しく更新した記事も参考にしてみてください

 僕の自己免疫性溶血性貧血の説明(患者さん向け)

僕の先天性溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症)の説明

 

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西洋医学の限界?:パラダイムシフトは重要だが、その段階ではまだないと思う

2012-07-23 21:31:10 | 医学系

こんばんは

 

今日は夕方から健康診断で異常のあった方々のところへ出向き、健康指導を実施して回りました。その前にもいろいろやることがあって(明日中に終わらせなくてはならない仕事が2つあるのですが、明日に回しましたw)、午前中はそちらをしていたのですが・・・・。

 

健康指導をして回り、何年かにわたって異常のある方々がようやく認識してくれたということがあり「生活指導」や「健康診断の説明」の重要性を改めて認識したところです。

 

ほとんどの方々は異常があるといわれても症状がなければ「指示がないから大したことはないのだろう」と思ってしまいます。そして症状が出たときには手遅れになってしまう。これでは何のための健康診断かがわからない。

今日は一人短くて5分、長い人だと20分ほどしゃべっていたのですが…それでもかなり「事実」を理解してもらえたと思います・。

 

やる僕もかなり根気がいるのですけど…(何十人と健診結果を持ちながら異常を言って回るわけですから)

 

さて、本日はこちらの記事が気になったので紹介します。

 

「西洋医学は限界」、自然治癒力の見直しを

 

 一般社団法人「国家ビジョン研究会」が20日に開いたシンポジウムでは、医師や看護師らが参加したパネルディスカッションが行われ、統合医療や看護、臨床研修制度など、幅広いテーマで意見が交わされた。シンポジストからは、「西洋医学は限界に達している」との声が上がり、薬に頼らない食事療法や、患者を内面から支える看護ケアなど、自然治癒力を高める治療の効果を見直す必要があるとの意見が出た。

 東京都新宿区の丹羽クリニック院長で、同区医師会理事の丹羽正幸氏は、治療法におけるパラダイムシフトの必要性を繰り返し強調した。開業後、4万人以上の難治性疾患患者を診察してきたという丹羽氏は、西洋医学だけの治療法が限界に達しているとした上で、「自然治癒能力がこれからのテーマになる」と指摘。体の各組織や精神までを多面的に治療する「融合医療」で、可能な限り医薬品を使用しないことが望ましいとした。

 また、社団法人「生命科学振興会」理事長の渡邊昌氏は、日本の医療費が増え続ける中で、経済的な観点から「食べること」の意義を指摘。糖尿病や高血圧など生活習慣病の治療では、食生活の改善の方が、医薬品の投与よりも効果が高い場合がある上、それが医療費の節約にもつながるとし、「患者が自己の治癒力を知ることが大事だ」と述べた。

■「日本版ACGME」の創設求める意見も
 一方、臨床看護学研究所の所長で、日本赤十字看護大名誉教授の川嶋みどり氏は、患者の高齢化や病院の在院日数の短縮化などで、看護の現場が危機に陥っているとし、「(患者の)手に触れ、癒やし、慰める方法から遠ざかっている」との懸念を表明。その上で、患者の生活を支える「療養上の世話」の重要性を指摘し、厚生労働省が検討している看護師の認証制度については、改めて反対の立場を示した。さらに、看護職員の配置人数によって入院料が決まる現行の診療報酬体系を改め、費用対効果や患者のQOL(生活の質)に基づいた看護の報酬に見直すよう求めた。

 このほか、野口医学研究所理事長でハワイ大教授の町淳二氏は、米国での臨床経験から、日本の臨床研修制度の問題点を指摘した。町氏は、米国では1980年代に、医師会の主導で「ACGME」が設立され、卒後の臨床研修の認可制が導入されたことを説明。学会が認定する日本の専門医制度では、臨床レベルの「標準化」が進まないとして、研修施設の認定を行う第三者機関が必要だとした。【敦賀陽平】

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さて、この話はとても重要なことだと思いますが、正直まだ早いと思います。何を持って西洋医学の限界としているかはわかりませんし、なんの疾患群が対象かもよくわかりません。

ただ、ここで書かれている「生活指導」「食事指導」などを本当にじっくり行うことは重要だと思います。

 

また、僕も西洋医学と東洋医学の両刀使いでありたいと勉強しています。

理由は二つ

1つはものの見方が全く異なる二つの考え方を知ることは僕の見識を広げ、患者さんへの治療方法を広げてくれると思うから。実際に西洋医学を中心に漢方医療を少し加えることでかなりよい結果を得ていると自分では実感しています。まぁ、独学なので(少し手ほどきを受けたり、ツムラのセミナーには参加しましたが)すべてを漢方でというわけにはいきませんが・・。

以前も書きましたが漢方医学は「もっともよい状態」が中央にあるとすれば、病気の状態はいずれかの方向にずれているという考え方です。原因はいろいろありますが、ずれる方向と症状などで薬をチョイスしている感じでしょうか。同じ風邪であってもずれている状況(患者さんの体力だとか、時期だとか・・・・。これは西洋医学的にも説明できるんですよ)で使用する薬は違います。

また、前も書きましたが診察するにも西洋医学的な「原因」を中心に考える考え方と、東洋医学の「証」を見る考え方は診方、考え方が異なるので非常に診療している側としても面白いですし、患者さんには失礼ですが一粒で2度おいしい感じです。そしてそれが患者さんのためになるなら両刀使いが一番・・・という僕の結論です。

 

ただ、自然治癒力を高める・・・という「ちょっと気になる」書き方の記事だったので、記事の先生をGoogleで調べてみました。

http://www.niwa-clinic.com/chouatsumennekiryouhou.html

 

実際に免疫力というのは重要です。僕が血液内科医になったのは「免疫療法」に興味があったからと以前も書きました。免疫療法も調べると…例えばがん腫によって自然免疫が効きやすい癌の種類と、特異免疫が効きやすい癌種とがあります

なんとなくわかってきていますが、まだまだ何もわかっていないとも言えます。逆にこれが解明できれば「がん」に関してはどうにでもできると思います。僕が目指すのはそこです

 

西洋医学では原因にターゲットを絞るので「個々のがん腫」に対する薬剤を作る方向になると思います。薬剤のオーダーメイド化ですね。それは恐らく進めば癌を駆逐していくかもしれませんが、限界があるといえばその通りです

 

がんは一部はウイルスなどが原因のものもあります(ATLLやEBVが絡む各種のがん(咽頭がんや一部のリンパ腫、ホジキンリンパ腫など)、子宮頸がん、肝臓癌などなど)。しかし、基本的に「がん」という異常ができてしまったものを除去する機能が加齢とともに低下したり、がんが免疫から逃げる能力を防ぐことができれば・・・おそらく「がん」は駆逐できるのだろうと思います

 

僕は感染症や膠原病よりは「がん」は駆逐しやすいものだと思っています。

 

かといって、今の時点で免疫療法を主体にやろうなどというのはナンセンスに尽きると思います。

 

皆免疫も重要だというのはわかっていると思います。ただ、大きな枠組みよりは今は細分化した方が攻めやすいというのも事実だと思います。

慢性骨髄性白血病のように「異常な遺伝子」が作り出す物質を抑えてしまえば癌自体をコントロールすることができるようになるかもしれません。今はその流れです。

 

それがすべてではないのは事実ですが、免疫療法だけでどうにでもなるというのは今の時点では無理です。あくまで現時点での標準療法が上手くいかない人が「試すべき」ものだと思っています

もちろん、記事にも「可能な限り薬物を使用しない」としか書かれていませんがw

 

皆様はいかが思われますか?

 

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兄弟間移植?それとも血縁不一致移植(NIMAやNIPA)?

2012-07-06 09:25:32 | 医学系

おはようございます

 

今日は結婚式の細かい準備、二次会のこと、ハネムーンのことなどをやります。まぁ、夜は今度職場を離れる後輩の送別会を行うらしく、呼んでもらったので参加してきます

 

さて、先程

「息子がRCMDで移植をすることになりましたが、ドナー候補に父親(HLA-B,C,DRB1の1つずつがミスマッチ。Hapioidenticalで、GVHD方向適合HVG不適合)と、1歳2ヶ月の妹(HLAidentical sibling)でどちらで移植をするかで大変悩んでおります」
「父親をドナーとして移植をした場合(3/8拒絶があるとだけの説明は受けました)と妹をドナーとして移植をした場合とのそれぞれのリスク、成功率などを教えていただきたく投稿しました」

とコメントをいただきました。

同種骨髄移植に関してはこちらの記事を参考にしてください。

造血幹細胞移植のイメージは?:同種骨髄移植に関する説明

 

さて、上の記事では書いていなかった専門用語が結構並んでおります。RCMDというのは骨髄異形成症候群の一つの疾患です。症候群=疾患の集まりですよね。

HLAというのはヒト白血球抗原で、白血球の血液型です。血小板にもHLAのA、B,Cは存在しています。

 

同種骨髄移植を行うときに注目するのはこの白血球の型です。

白血球の型は言ってしまえば「旗指物」です。これで敵と味方を識別しています

 

このHLAは両親からもらってきます。染色体というものに遺伝子は乗っかっています。ヒトの染色体は2本ずつ、両親から一本ずつもらってきます。息子さんであればお父さんから22本+Y染色体、お母さんから22本+X染色体で46本になります。ちなみにHLAは22の常染色体のうち6番目に長い「第6染色体」に乗っかっています。

で、親が完全に一致する確率は0ですが、兄弟は25%の確率で一致します。

けど、初期研修医の時に初めて検査したあの家族は・・・HLAが兄弟全員+親が一致というすごい家族だったな…・(汗

 

追加して言うとHLAで重視されるものは「A、B、C、DR」ですが、他にもあります。全部合わせるのは不可能ですが、兄弟間は完全一致の可能性があります。A24などは日本人の35%くらいが持っているはずなので、これをご両親が持っていて…という確率はありますが、細かいところが一致するとは思えません。

で、GVH方向とかHVG方向と言われてもわからないと思いますが、Gはグラフト・・・すなわち骨髄とか臍帯血とか、Hはホスト・・すなわち患者さんです

GVHD(Graft versus Host Disease)は移植した骨髄が患者さん側に攻撃する病気で、GVH方向に○○というのは生着後に患者さんが攻撃を受けるリスクを、HVG方向というのはその逆で生着しないリスク…すなわち拒絶される可能性を示しています。

ここで困るのはお互いがお互いを敵と認識するのもどうかと思いますが、運が悪いと・・・一方は味方と思っているのに、もう一方は敵と認識して攻撃をかけ続けることがあります。それが非常に面倒なことです。

 

 

もう一つは骨髄異形成症候群と急性白血病の移植ではちょっと趣が違う印象があります。

同種骨髄移植って

前処置

生着まで

生着後

と分かれます。前処置でできるだけ細胞(腫瘍細胞も、患者さんの良い細胞も)を減らすことが1つめです。あくまでイメージとしてですが、入れる骨髄にとっては競争相手や敵が減るわけです。競争相手である患者さん本人の細胞が多かったら負けてしまう可能性がありますし、腫瘍細胞などが多ければ先に腫瘍細胞が増えて負けるかもしれないし、無事増えることができた(生着)としても敵が多ければ戦いに負けるかもしれない。

 

白血病だとそういうことを本当によく考えますが、骨髄異形成症候群は血液の不良品なので敵との戦いよりは「確実に生着させること」を考えるような気がします。もともと相手は「不良品」なので血液が増える速度は遅いです。そういうイメージを持ってください。

 

あと、血縁間HLA不一致移植に関して…これの情報が多いのは実は一人っ子政策をしている「中国」なんです。兄弟がいないので親からの移植をせざるを得ないということですね。そういったのも含めていろいろ情報はあるのですが、自宅のPCがそういう情報を拾えるようになっていない(すいません、大学のPCでいつもやっていたので)ので、わかる範囲で情報を提供いたします。

ちなみに僕も1回だけ血縁間HLA不一致移植をしたことがありますが、あの時はGVH方向にミスマッチで結構白血病はうまく抑えることができましたが、GVHDがやはり強いですね。

 

 

まず、難しいと思いますが血縁間非HLA一致同種骨髄移植のガイドラインがあります

http://www.jshct.com/guideline/pdf/2009HLA.pdf

 

ここにまず「HVG方向の不適合抗原数がGVH方向の不適合抗原数よりも多い場合(すなわちレシピエントが同型(homozygous)のHLA座を有する場合:右表のB#、C、D#)は、そうでない場合に比べて有意に生着不全が多い」と書かれています。これも元論文があります。

 

今回のNIPA移植を行うのであれば生着不全が多いことになります。

 

で、HVG方向の2-3座不一致の場合です

そのまま抜粋します。
「HLAがGVH方向には適合ないし1抗原不適合であるが、HVG方向に2ないし3抗原不適合であるドナー(表のC)からの移植は、十分な前処置を行えばHLA適合ないしHLA1抗原不適合移植に準じて行うことが可能であると考えられるが、多数例を解析した報告が無いため、臨床試験として行うなど慎重に施行されるべきである。: CⅢ(注1)
根拠:
HLAがGVH方向には適合ないし1抗原不適合であるが、HVG方向に2ないし3抗原不適合であるケースが存在する(表のC)。この場合、生着不全のリスクは上昇するが、理論的にはGVHDのリスクはHLA適合ないし1抗原不適合移植と同等である。そのため、これらに対する移植と同様のGVHD予防により移植が可能であると考えられ、一部の施設では施行されている。しかしながら、これらを多数例解析した報告は無く、その位置づけについては、今後の検討の結果を見て判断されるべきと考えられる。また、毒性を軽減した前処置(reduced-intensity conditioning, RIC)を用いる移植、いわゆるミニ移植、では生着不全のリスクが高くなるため、施行には特に慎重であるべきである」

 

ちなみにCⅢと書いているのは「エビデンスレベルに乏しく、専門家や権威者の意見に基づくもの」ということです。

 

あと僕があまりNIPA移植に関しては知りませんが、NIMA移植というのはよく言われています。

NIMAというのはIMAがお母さん由来の抗原でIPAがお父さん由来ということなんですが、お母さんのおなかの中にいる間に触れたことのないお父さん抗原に対して、何らかの免疫寛容(敵じゃないのだという認識を持つ)ことを利用した骨髄移植です。

 

そういうアメリカでやった骨髄移植の結果でNIMA移植とNIPA移植はNIMAの方が生着率が良いということですが、今では免疫抑制剤が良くなったのでそのNIMA効果はないのではないかという話もあります。ただ、今の時点ではIMAの方が有利という話で落ち着いているのではないかと思うのですが・・・。

 

小児の領域での移植と成人領域での移植は僕の中ではイメージが大きく違います。ですのであまり適当には書けないのですが、今言ったようなことがPointになってくると思います。

お子さんの体重あたりで骨髄のとる量は決まってくると思いますし、そのあたりのことは成人領域の移植を行う僕たちとは考え方が少し違うと思います。Dataで示すわけではないのですが、

 

1、もともと小児領域ではGVHDが起きにくい印象があること

2、MDS(おそらくRCMDなので芽球の増加はないでしょうし、あくまで染色体異常がどのレベルかによりますよね。RCMDだから血球の減少は2系統以上で0.5点・・・の移植であり(成人だったらRISTで十分)生着することを念頭に置きたい

3、HVG方向3座ミスマッチだと前処置をかなり強力にしないといけない

 

などから、もし妹さんの負担が許容範囲内であると小児科の先生が判断されているのであればそちらの方が良いような気がします

あと感覚的にですが・・・成人であればSibling Donorが得られなければ骨髄バンクなどをまず探します。HLA不一致移植はそれでもダメなときにやるか、兵庫医大みたいに再発を繰り返す例にやるなどですかね・・・。小児領域はよくわからないのですが・・・

 

あくまで参考程度に考えていただいて、主治医の先生とよく相談して決めていただければと存じます。

不明なことがあればまたご連絡いただければと存じます。

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血液内科ってどんな診療科ですか?:後半は血液内科の奨め

2012-07-05 07:59:46 | 医学系

おはようございます

 

今日から結婚式披露宴準備で休みです。

午後には会場にいないといけないので、10時過ぎには出発しますがさしあたり簡単な記事を書かせていただきます。

 

実は旧Blogを書き始めたのが2006年7月6日で今日で丸6年経過…ということになります。その間、一般の方(患者さんやそれ以外のいろいろな医療従事者以外の方々)によく聞かれたのが

 

血液内科ってなんですか?

 

でした。ちょうど6年ということもあり、いまさらですが血液内科ってどんなところか書いてみようと思ます。

 

血液内科って…と聞かれたときにまず答えるのは

白血病とか悪性リンパ腫とかの治療をしている診療科ですよ。抗癌剤治療の得意な医師が多いです

ということです。

 

血液・・・というのは赤血球という酸素などを運搬するもの、白血球(好中球とかリンパ球など種類はありますが)という外敵と闘うもの、血小板という「血を止める」作用を持つものをまずあげます。これらは「細胞成分」と言われますが、水に溶けていない成分です。

採血した後、放っておくと上澄みと下に赤血球を中心とした赤い色の部分(よく見ると白っぽいのもあります)ができますが、そちらの成分を細胞成分と言います。

 

一方で上澄み液の方も血液です。そういうのを「血漿成分」といいます。様々なたんぱく質などを含み、特に我々が良くターゲットにするのは「凝固因子」と言われるたんぱく質です。

 

ですので、血液内科というのは「赤血球、白血球、血小板」という細胞成分にかかわる疾患と「凝固因子」にかかわる疾患を中心に診療しています。

 

赤血球の病気…と言われると貧血(鉄欠乏性貧血貧血(鉄欠乏性貧血)の患者さんに対する説明(患者さん向け)を中心に、さまざまな貧血があります)や多血症(二次性もあれば真性多血症(骨髄増殖性疾患(真性多血症)の説明(患者さん向け)):赤血球のがんもあります)があります。

貧血の中には「溶血性貧血」と言われる分野もあり、その中にも「自己免疫性(自分で赤血球壊してしまう)」だったり「発作性夜間血色素尿症」など赤血球の防御能力に異常が生じて壊れていくような疾患もあります。先天性溶血性貧血など、他にもいろいろな病気があります。

 

血液が作れなくなっていく疾患があります。例えば再生不良性貧血(量の異常)や骨髄異形成症候群(質の異常)など(骨髄異形成症候群の説明(患者さん向き))です。

これらの疾患は造血不全ということばでくくられますが、上に書いた「血液の細胞成分」が作れなくなり、貧血になったり、抵抗力がなくなったり、出血しやすくなったりします。骨髄異形成症候群は数だけではなく、質も悪いので大変ですし、白血病の前病変という一面もあります。

 

そして有名な急性白血病や慢性白血病慢性骨髄性白血病に対する説明(患者さん向け))などを中心とした白血病、リンパ節を中心に比較的「分化」したリンパ球が増える悪性リンパ腫悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方))、形質細胞という後方支援部隊(免疫グロブリンを産生し、体を守る)の癌化である多発性骨髄腫など様々な病気があります。

白血球というのは「増殖速度が速い」ことに加えて、「全身に存在する」ため手術で取るというわけにもいきません。それ故、抗癌剤治療が中心となります。この血液悪性腫瘍は他の「がん」とはことなり、抗癌剤治療で比較的治る可能性が高い腫瘍です。

急性白血病の中にもさまざまなグループがあり、抗癌剤だけで70%から治る可能性があるAPL:急性前骨髄性白血病など予後良好群から、抗癌剤だけでは10%も治らないようなものまでいろいろあります。その抗癌剤だけでは治らない人たちを治すために行っているのが同種骨髄移植造血幹細胞移植のイメージは?:同種骨髄移植に関する説明)です。

他にも周期性白血球減少症、原発性免疫不全(個人的に診断したのは一度だけ。普通は小児科領域だし)など様々なものがあります。

 

そして血小板関係の疾患や凝固系の疾患があります。本態性血小板血症(骨髄増殖性疾患(本態性血小板血症)の説明)のような増えるもの(こいつが血栓傾向だけでなく、増えすぎると出血を引き起こします)や特発性血小板減少性紫斑病のような血小板が減っていくものまでいろいろあります。凝固因子に関連するものは先天性(血友病など)のものや播種性血管内凝固(DIC)のような様々なところで見られるようなものまで多々あります。

あとは珍しいところと言えばヘパリン関連血小板減少症(HIT)とかもありますね。

 

こういった疾患の特徴は外来治療でも入院治療でも病状の悪化に伴い救急対応の必要性があること。

出血などはもちろんのこと、普通の人は発熱したくらいでは何も思わないかもしれませんが、抵抗力のない患者さんたちには致命的になりうる。それ故、いつでも救急対応できるように備えています

 

また、種々の急変に対応できるようにベッドサイドの手技はだいたいできるようになっていると思いますし、知識も持っている必要があると思います。基本的に重症患者さんの管理はICUのようなレベルになるので、患者さんの管理能力も高いです。

ただ、血液内科医はきつい診療科の一つ(いつぞやの医師アンケートでは「きつい診療科部門第1位」(笑・・・・)であり、医師数はあまり増えていないといいます。

 

しかし、きついながら面白い診療科の一つです。

 

僕がこの診療科を選んだのはわけがあります

1、医師として腫瘍を相手にしたかった

これだと本当にたくさんの分野がでてきます。

2、手術ではなく、抗癌剤治療を中心に治療を行いたかった。

これも血液内科だけでなく、腫瘍内科もそうですし、乳癌や婦人科癌などは抗癌剤治療の必要性が高い分野です。

3、免疫療法などに興味があった

腫瘍の治療はいま進んでいっていますが、基本的には「細分化」です。個人個人に合わせた治療を、オーダーメイド化した治療を行っています。ただ、基本的に悪性腫瘍は免疫から逃げたことで大きく成長します。それ故、免疫のことをよく知らなくてはならないと思いました。そうすると免疫、つまり白血球のことを詳しく知る必要があります

悪性腫瘍を克服することは僕はできると思っています。癌が発生する原因には様々なものがあります。ただ、異常が発生した直後にそれが除去されれば癌化はしません。まぁ、少なくとも認識される前に消滅します。よって他の遺伝学的な話や分子生物学的な分野はもちろん重要ですが、その中でも免疫が最も重要と思っています。

4、血液内科では診断から治療までほぼ完結できる

消化器内科でももちろんEMRなどで早期胃癌をとったりしますが、進行がんは手術が必要になります。血液内科では診断から治療までずっと患者さんを診ていけますし、付き合い続けられます

5、研究と臨床がつながりが深い

血液という比較的とりやすい検体であること、臨床分野に「分子生物学」をはじめ、基礎的な内容が多いこと(それだけ難しいかもしれませんが、患者さんの病態をミクロの分野からも推測できます。楽しそうでしょう)があります

6、急変が多いため、さまざまな医療能力、医療技術が身につけられる

これは実際のところは若いうちだけかもしれませんが、若い時に血液内科を学ぶことで心不全、呼吸不全、ショック、敗血症をはじめとした各種感染症、腎不全・・・何でも対応できるようになっていきます

 

血液内科医は基本的に手術のようなことはほとんどしませんが(骨髄採取術くらいですね)、ベッドサイドでは様々なことをしなくてはなりません。その能力はどの診療科に行っても役立つと思っていますし、総合内科医としてもやっていく能力はつくと思っています

 

ということで、血液内科はこんな診療科で、非常に楽しいので来てください(笑

 

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頭痛の患者さんへの説明

2012-06-21 21:25:12 | 医学系

さて、続けます。

 

ちょっと前に頭痛に関して職場の方が相談に来ました。その時の会話を使って、簡単にどう説明しているか書いてみようと思います。

いつもの医学系、説明シリーズです。

---------------------------------------

「先生、おはようございます」

「○○さん、おはようございます。どうしました?」

「いや、頭痛がひどくて・・・。たまにあるんですよ、こういうズキズキした頭痛が」

「なるほど、ズキズキした頭痛なんですね。どんな感じで起こりましたか?きっかけとか・・・。あと、他には吐気とか他のつらいところはないですか?

「いや、ないですね。起こったというか・・・たまにある・・・いつもの頭痛です」

「たまにあるとおっしゃいましたが、いつもと同じくらいの頭痛ですか?いつもより強くて、今までには経験したことのないような頭痛ですか?

「いつものやつです。先生、薬をもらえませんか?」

「薬をだすのはよいのですが、薬によって大事な何かを隠してしまわないかの判断だけ先にさせてください。まず熱を念のためはかってください。その間に少し話をしましょう」

「はい。」

「いつもということでしたが、どのくらいの頻度で起きているのですか?」

「だいたい・・・2,3か月ごとくらいだと思います。」

「何時間くらいつづきますか?」

「1日は続かないですが・・。結構つらいですね

日常生活に支障はありますか?

「少し生活に支障はありますが、仕事ができないほどではないです。」

「○○さんは強いですからね。普通の人はダウンじゃないですか(笑」

「(笑)」

「先程ズキズキと言いましたが、脈打つ感じなんですかね?」

「そうですね・・・。そんな感じだと思います」

「吐気はないといっていましたが、なんか頭痛の前にサインみたいのがあったりしますか?目の前が暗くなるような(結構片頭痛に的をし追っている)」

「いや、ないですね」

「多分、違うと思うのですけど・・・頭痛の頻度が増えたり、痛みがどんどん強くなったりはしませんか?

「いや、そういうのはないですね。高校とか大学くらいからありますよ」

「なるほど、体温は…36度で平熱ですね。少し診察をさせてください。それが終わったら薬を飲んでいいですよ。診察の後、もう少し質問させてください」

「はい」

------------------------------------------------

こういうと問題があるかもしれませんが、僕は「ファーストインプレッション」がもっとも重要だと思っています。多くの先生もそう思われていると思いますが・・・。

あとは危ないものを除外する。基本的に頭痛で怖いのは「くも膜下出血」「脳腫瘍(慢性だが、徐々に増悪。朝型が一番症状が重い)」「髄膜炎」などでしょうか。これらを除外するために必要なのは「急性発症か、否か」「痛みの程度は?」「徐々に悪化する頭痛ではないか」「発熱などを伴っていないか」などでしょうか。

 

あとは話している間に手足の動き、顔全体…いろいろ見ながら「麻痺はない」とかを判断します。

危ない頭痛ではなさそうだと考えたら、あとは機能性頭痛(慢性頭痛)である「片頭痛」「緊張型頭痛」「群発頭痛」などを判断します。

そういえば、群発頭痛と言えばこんな記事がありましたね

ハリポタ役ラドクリフさん「群発頭痛」 「目の奥がナイフでえぐられる!」」

http://www.j-cast.com/2012/06/21136612.html

 

片頭痛は…簡単にいうと「日常生活に大きな支障を与えうる慢性頭痛」であり、多くは片側性(両側もある)、拍動性(ズキズキ)で、気持ち悪くなって吐いたりすることがあります。日本人は20%以下と言いますが前兆をともなう場合があります。頻度は様々ですが連日ではなくて、1両日くらいで収まることが多いです。

いっぽう緊張型頭痛は連日続くようなタイプの頭痛です。痛みは非拍動性で、両側に痛みが出ることが多いとも言われています。

群発頭痛は数分から2,3時間の持続時間で、痛みのあまりのた打ち回るほどと言いますが…どうやら動いた方が痛みが良くなるというのが理由のようです。痛みが出やすいのは「上」の記事にもありますが夜中に起きることが比較的多く(片頭痛が寝たら治るタイプとは逆ですね)、目の奥がズキズキするといわれます。あと流涙をともなうと言いますね

実は片頭痛や緊張型頭痛は大勢診ていますが、群発頭痛の患者さんに出会ったことはまだありません。比較的まれな疾患です(くも膜下出血とか、脳腫瘍の方が数回あるから・・・)。

 

ちなみに片頭痛は若い時期(20代くらいまで)に発症する方が多く、あまり高齢発症というのはありません。そういったこともチェックしながら話を聞いていきます。

 

---------------------------------------

「診察結果と今までの話の内容からは片頭痛でよさそうですね。今まで病院を受診したりしたことありますか?」

「いや、市販の頭痛薬で対応していました」

「片頭痛には特効薬があります。実は片頭痛はズキズキしますけど、これは血管が広がったときに起こる痛みなんです(絵をかいて説明。僕は必ずA4の上を使用して絵をかいています)。だから、血管を縮こまれさせれば痛みは改善するわけですね」

「なるほど」

「これらをトリプタン製剤と言いますが、同系薬剤の片頭痛の特効薬が数種類あります。値段が高くて、だいたいどれも1錠1000円からします。痛みが非常に強ければ…使う価値がありますね。使用して80%の人に効果があるといいますが、効かない人も当然出てきます。また、血管を縮こまらせるということは…ある種の病気には病気を悪化させる可能性があるわけです」

「なんですか?」

「心臓ですよ。狭心症とか心筋梗塞とか。そういう副作用がります。だから普通の痛みどめで対応できるなら、無理に特効薬を使用する必要はないです。ただ、痛みのために日常生活が大きく支障をきたすなら使用するべきでしょう。薬物治療によるメリットがデメリットを超えるときに常に内科医は薬物治療を考えます

「今のお話を聞く限り、普通の痛み止めで大丈夫です」

「話しているうちに少し顔色が良くなられましたね」

「そうですね。薬ありがとうございました」

-------------------------------------------

これでだいたい20~30分くらいです。

意外と時間かかるものですよ。

 

 

和田秀樹医師に伝えたいですね。内科医だって説明や治療の同意はしていると

和田秀樹医師の「内科医が説明・同意取得を怠っているのは怠慢」発言に対して

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造血幹細胞移植のイメージは?:同種骨髄移植に関する説明

2012-06-12 22:52:14 | 医学系

さて、追加します。

 

CBの記事にこのような記事がありました。

 

造血幹細胞移植の法案を参院に提出- 野党4党議員

 自民党・公明党・共産党・新党改革の4党の国会議員は12日、白血病などの患者への造血幹細胞移植治療に関する法案を参議院に提出した。移植治療の安定的な推進や質の向上を目指すもので、今通常国会での成立を目指す。

 移植に用いられる造血幹細胞は、骨髄、末梢血、さい帯血から採取される。このため、法案では、「骨髄移植推進財団(骨髄バンク)」が行っている、骨髄・末梢血幹細胞のドナー(提供者)探しや、「さい帯血バンク」が行っている、さい帯血の凍結保存などの事業に対し、国が予算補助する規定を設けて、両バンクの運営の安定化を図る
 また、両事業を許可制にし、骨髄バンクには、ドナーの健康を保護するための措置、さい帯血バンクには、さい帯血の品質確保を、それぞれ求めることで、移植治療の質を向上させる。

 さらに、国が必要な施策を策定し、実施することで、高齢化などで今後の需要増が見込まれる移植治療に必要となる造血幹細胞の確保を目指す。【佐藤貴彦】

----------------------------------------

さて、個人的には骨髄バンクや臍帯血バンクを国が補助してくれるのであれば、ありがたい話だと思っています。実際に必要としている患者さんは大勢いますので。

ただ、高齢化で需要増が見込まれるような生易しい治療法ではないということだけは言っておきたいような気がします。まぁ、最近のはやりは70歳オーバーのミニ移植ということですが…(汗

 

なぜなら、多くの患者さんは「移植は魔法の治療」のようなイメージを持たれているように思うからです。移植ができれば治るのだ・・・と。まぁ、もちろんそんな患者さんばかりではなく、シビアに考えすぎな方もいます。そんなに簡単な治療ではないからと、移植をしたくないと考える人もいます。

僕の患者さんで論文で調べたら5年生存率0%になる組み合わせの「染色体異常」を持っていた患者さんが4年経過してもまだ元気です。多分、治っていると思います。

 

まぁ、そういった患者さんに合わせて「同種骨髄移植」の説明は変わるのですが、急性骨髄性白血病の患者さんを想定してどのような説明をするか書いてみようと思います。

 

-------------------------------------------

○○さんは急性骨髄性白血病(M0)と診断され、寛解導入療法という「白血病細胞を減らし、見た目を正常にする」という目標を持った治療を行いました。治療中に感染症などの合併症は予想通りありましたが、それらを抑え込むことに成功し無事治療を終えました。治療の評価のための骨髄穿刺では芽球の数が5%未満、当初も目標であった「完全寛解」を達成しました。

 

今後の治療としては最初の説明でもお話をしましたが「地固め療法」というダメ押しの治療を行っていきます。

完全寛解…という状態は「見た目が正常」と説明しましたが、まだ多くの白血病細胞が残っている状態で放置していれば早晩再発してしまいます。そこで白血病細胞が少ないうちにだめ押しの治療として地固め療法をやっていきます。

 

これが基本方針であることには変わりはありません。

しかし、今回の治療中に「治療前に行った骨髄の検査」の結果が出そろってきました。それも含めて○○さんとご家族の皆さんと今後の大きな方針について話し合いたいと思っています。

 

最初の治療の時に「骨髄移植はできますか?」と○○さんは尋ねられましたが、そのことに関してです。

 

急性白血病には大きくリンパ性と骨髄性があることは説明したと思います。その急性骨髄性白血病の中にも「性質の良いタイプ」から「性質の悪いタイプ」までいろいろなものがあることも説明しました。性質の良いもの(それでも白血病ですから・・・)は抗癌剤治療だけで完治する可能性が高いグループでt(15;17)という異常やt(8;21)という異常を持ったグループは「最初っから骨髄移植をしてはいけません」と言われています。

逆にたちの悪いグループもいます。そういうグループは通常はいくつかの評価をもとに、移植を行うかどうかを決定します(というか、予後不良群はほぼ移植でしょうけど)。白血病としてはそこそこのグループも同様に評価をしていきますが、明らかに移植をしたほうが良いという評価にならない限りはこのグループはやらないほうが良いかもしれません。御兄弟間で移植ができるのであれば別ですが。

 

○○さんは残念ながら性質の良いグループではなく、他の様々な情報を待っていました。今回それらの情報が出そろってきました。情報の中には抗癌剤の効きやすさというのもあるので、治療をしてみないとわからないところもあるのです

 

話を元に戻しましょう。

 

○○さんは今回1回の寛解導入療法で「完全寛解」という状態を達成しました。70~80%の人がこの状態に入るとは言われていますが、抗癌剤治療が効きにくい白血病細胞はどうしても1回では完全寛解に入らなかったり、見た目で「白血病細胞が残っている」というのがわかるなど、さまざまなことがあります。今回は抗癌剤にそれなりに効果があるということが「治療の結果」からわかりました。

しかし、いくつかの評価から移植を行った方が良いかもしれないと考えています。
http://www.jshct.com/guideline/pdf/2009AML.pdf

JALSGによる層別化スコアというものがあります

芽球のペルオキシダーゼ陽性≧50%:2点、、年齢50歳以下:2点、、初発時白血球数20,000以下:2点、、FAB分類M0,M6,M7以外:1点、PS 0〜2:1点、初回治療で寛解:1点、染色体異常t(8;21)又はinv(16)あり:1点の合計点数により予後良好群(8-10点)、予後中間群(5-7点)、予後不良群(0-4点)と分類する方法があったり、染色体や遺伝子異常などで評価する方法もあります。

 

○○さんの白血病細胞には7番染色体の欠失(-7)を含んだ複雑な染色体異常を認めています。この染色体異常は予後不良群と言われているものです

予後不良群というのは抗癌剤治療だけでは『完治』の可能性が低いグループを指しています。AML92という昔行われた臨床試験では10%前後の生存率でした。今は抗生物質が良くなったり、移植を予後不良群には行っているということもあると思いますがもっと良いと思います。

この後説明を詳しく行いますが、細かいことを抜きにして簡単に言いますと「同種骨髄移植」は完治率(5年生存率)を50~60%に上げる治療です。

 

先ほど申し上げた予後良好群は抗癌剤だけでも同じような成績になるから骨髄移植はしてはいけない。再発した場合はいろいろ考えますが(APLとM2t(8;21)で対応は異なるので、そこらへんはまた)、抗癌剤が効きにくかった奴らが増えてきたという評価になりますので、再発が治療後から1年もたっていなければ移植をするほうが良いと考えます・。

 

予後不良群は明らかに抗癌剤治療よりも移植をしたほうが生存率、完治率が上昇するグループです。ただ、この後説明しますが、リスクは抗癌剤治療よりもはるかに大きいのです。

 

中間群は抗癌剤だけでの治療成績は40%台なのです。しかし、再発後に寛解に入ったグループ(第2寛解期)で移植をした場合、最初の治療での完全寛解の時の移植と成績があまり変わらないので、血縁者でドナーさんが得られない場合は様子を見ることが多いです(基本様子見)。予後不良群は再発した時に完全寛解に入る可能性が低いですから、僕はこのチャンスをものにするべきだと思っています

 

骨髄移植に関して簡単に説明していきます。この治療は二つの側面があります。1つは大量の抗癌剤や放射線を使用できるという面、回復を考えなくてよいという面ですね。2つ目は免疫療法という面です

普通の抗癌剤治療は「白血病細胞を大量の抗癌剤」で殺していき、このくらいでよいだろう…とされている既定の回数を終えたら様子を見ていきます。イメージとしては味方の兵士がほとんど敵にとってかわられてしまったので、とりあえず味方の勢力を回復するために長距離ミサイルで敵(も味方も)をやっつけてしまおうという作戦(抗癌剤治療)をひとまず終了し、勢力を回復した味方が敵の残存勢力を探し出して

「えぃ」

ってやっつけている状況です。ただ、白血病細胞も馬鹿ではないので、何とかやり過ごして勢力を回復しようとします

完治する人は「減った白血病細胞」を味方の抵抗力(T細胞やNK細胞など、腫瘍細胞を駆逐する免疫系)が全滅させたということです。

再発したグループは「白血病細胞」が味方をやり過ごして、勢力を回復してしまったということです。

 

(ちなみに抗癌剤の量や回数は、過去の臨床試験で「長々治療を続ける」と「ある程度の量を短期間で投与」するのとで成績が変わらなかったという結果があり、今の治療法になっております)

 

何故、あれだけ減った白血病細胞が多数の味方の兵士から逃げおおせるのか・・・というともともと白血病細胞は「裏切り者」なので、味方の兵隊に似ているんです。もともと旗指物が同じ兵士です。いきなり裏切った白血病細胞軍は巧妙にも「数が減っているうちは味方のふりをしてやり過ごそう」とします。

 

正確にいうといろいろあるのですが、そういうイメージを作って下さい。

 

この敵残存勢力に対して効果的にやっつける方法が「同種骨髄移植」です。

 

敵の数は減った。しかし、どうもこの白血病細胞は「隠れるのが上手い」奴ららしい。このまま味方から隠れてしまうかもしれない・・・。じゃぁ、どうしよう・・・って・。

そこで自分と似ているけど違う兵隊さんを投入してやっつけよう・・・という考えですね。

 

自分ではやっつけきれない。それは敵と味方の識別が困難だから。HLAという旗指物が基本的には同じであり、敵か味方かの識別も困難である。そこでHLAが合致、もしくは1個違うくらいの他人の抵抗力に頑張ってもらおうというのが同種骨髄移植。

 

敵の数が減っていれば、新しく投入した味方が先に増えればやっつけてくれそうな気がしますよね。

(ちなみに非寛解状態では成功率は10%程度です。それでもやはり実施すると完治する人が出てきますからやるのですが・・・。敵が多ければ、味方の新しく入れたドナー細胞軍は増えてくる前に鎮圧されて死んでしまいます)

じゃぁ、みんなやればいいじゃないかと思うかもしれませんが、この同種骨髄移植はいろいろな合併症があり、若くて元気な人でも10%も治療関連で死んでしまいます。長期的な合併症もあり、そういうものも含めるともっと多くの方が亡くなる可能性があります。だから魔法の治療ではなくて、骨髄移植に体が耐えられるのか、入れるドナーさんの細胞はどうか、病気の状態はどうか、移植をしたほうが良いのかどうかなど、さまざまなことを検討します

 

同種骨髄移植には「前処置」と言われる大量の抗癌剤や放射線で白血病細胞も自分の抵抗力の細胞もすべて殺してしまう期間(実際はすべて死なないから再発するんだけどね)、移植してから生着(白血球などが増えてくる期間)、生着後の時期に分かれます。

 

この大量の抗癌剤や放射線は今まで使用していたものとは性質が違います。今までは1か月くらいすると回復するような量の抗癌剤を入れていますが、今回の治療は回復しないように大量に入れています。それだけの抗癌剤や放射線に体が耐えられるのか

口内炎、下痢、嘔気、食欲低下…。白血球は0の状態が続きます白血球が低く、腸などの表面はただれています。細菌は必ず入ってきます(と言いながら、僕は一度発熱もないまま移植が終わった方も経験しましたが、そんなことは普通はないと思います)。今までよりもシビアな状態で、白血球と細菌が喧嘩して細菌が勝ってしまったらそこで終わりになってしまいます。

前処置から生着までの間は抗癌剤や放射線による障害と、それらによる合併症、そして感染症との闘いです。

生着してからも戦いは続きます。一つはやはり感染症との闘いです。

 

骨髄移植によって新たに入れられた兵隊たちは、イメージでいうと「烏合の衆」です。好中球という兵隊は回復しましたが、作戦・指揮するグループはまだまだ回復していません。それだけでなく、この後いうような合併症を防ぐためにドナーさんの細胞をいれる前日から免疫抑制剤(抵抗力を抑える薬)を投与します。それも感染症から体を弱くする原因になります。

 

先ほど申し上げた免疫抑制剤はGVHDと言われる合併症を防ぐのに使用します。GVHDとは先ほど言いましたが、他人の血液を入れることで白血病細胞を駆逐することを考えている治療法です。白血病細胞だけを敵と認識してくれればよいのですが、実際は○○さんの体も敵と認識して攻撃を仕掛けてきます。これにより初期は肝臓にダメージが行ったり、皮膚がやられてきたり、ひどい下痢や嘔気が続いたりします。これにより死亡する方もいます。ある程度落ち着いてきますと、一般的に自己免疫疾患と言われている病期と同じような症状が出てきます。前者を急性GVHD、後者を慢性GVHDと言いますが、このような合併症があったりします。この合併症のリスクは兄弟間だとかなり低下します。

 

他にも細菌だけでなく、カビの感染症やウイルス感染症が増えるのもこの時期です。実施は予防投薬をしますが、それでも100%予防できるものではありませんし、感染症でなくなる方もいます。

 

他にもさまざまな合併症があり、普通の抗癌剤治療とはリスクが全く違うのです。しかし、○○さんの白血病を治すためには同種骨髄移植が必要だと思います。同種骨髄移植によるメリットは、さまざまな合併症によるデメリットを凌駕していると考えています。

 

○○さんに対して僕は完治のために同種骨髄職という治療をお勧めしたいと思っていますが、今すぐ決めるのは難しいかもしれません。まずは検査をしてみませんか。白血球の型であるHLA検査を行えば、同じ型の兄弟がいるのか、もしいらっしゃらなかったら同じ型ドナーさんが骨髄バンクにいるのか、臍帯血バンクはどうかなど調べることはできます。

次の地固め療法を行いながら、考えを整理してください。わからないことがあれば僕にまた聞いてください。ここに資料は持ってきましたが、インターネットなどでいろいろ調べてみたりして、何がわからないか、何が知りたいかを考えてみてください。

 

ただ、僕としては○○さんの病気を治すためにも、骨髄移植を行いその後まで一緒に頑張っていきたいと思っています

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臨床からほぼ1年離れると、なんか説明文章が上手くかけていない気がするなぁ。

 

実際は1時間以上かけて説明をします。ここに書いていないことも含めて患者さんの家族が納得するまで話をし、疑問点もすべて洗い出して決めます。

それが必要なリスクの高い治療が同種骨髄移植です。

 

けど、僕は移植後生着する前に再発してきたパターン(非寛解での移植)で亡くなられた患者さんはいるけど、移植関連死は実は0なんですよね。まぁ、合併症に対して保険度外視して攻めたりします。レセプト書くのは大変ですが…患者さんのためなら、えんやーこりゃ

ということで・・・・

 

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職場の人との会話より:簡単な急性胃腸炎の説明

2012-05-30 21:42:10 | 医学系

さて、これも予約投稿です

 

先日、職場の方が急性胃腸炎になりまして、何故急性胃腸炎は起こるのかと聞かれました。

 

その時のちょっとしたやり取りです

 

---------------------------

「先生、あのあと近くの病院に行ったら「急性胃腸炎ですね」といわれました」

「そうですね。水様性下痢が続いて、発熱もそれほど高くなくというのであれば・・・」

「なんで、急性胃腸炎は起きるのでしょうか。熱もないのに」

「まず、いくつかの要素があります。まず、胃腸というところから、食事に加えて胃液や腸液というのが出て・・・10lくらい水が入ってくるのですけど、それが何らかの理由で吸収できなかったら下痢になります

「その理由が僕の場合はウイルスだったということですね」

「そうですね。いろいろ菌やウイルスによって吸収できなくする理由は違います。イメージしやすいのは10lの水を本来は吸収できるはずなのに、吸収能力を持つ腸の機能が下がった場合ですね

腸粘膜がダメージを受けたりすれば吸収効率は下がります。仮に腸粘膜が正常でも、通過速度が速くなれば吸収する前に下痢として出ていってしまいます

「腸の機能が落ちていたんですか?」

「まぁ、結果的には落ちていたんだと思います。理由ははっきりとはわかりません。おなかが痛くなったり、軽減したりしたということですから、かなり腸の動きが早かったんだと思います体が防御反応としてウイルスなどの有害なものを外に排泄しようと頑張って動いた結果かもしれません

「腸が逆に頑張りすぎたと?」

「そういう可能性もあります。ウイルスによって腸粘膜がやられていたかもしれません

(要はよくわからないということです。それでも対応が変わらないの、どちらが主因かというのは意識していません)

「なるほど~」

「熱が出なかったのは基本的に消化管というのは『体外』なんです。すなわち血液中に入って来なければ発熱はしないです。膀胱炎とかもそうですね。ただ、胃腸炎なのに熱が出るタイプのものもあります。侵襲性大腸菌とかサルモネラ菌などの腸粘膜を通過してくる・・・、まぁ体内に侵入するタイプの菌ですね。これは抗菌薬を使用する必要が出てくるかもしれません。特に子供は」

「他には」

「抗菌薬という意味なら、血便とかもそうですが・・・。発熱というならノロウイルスやインフルエンザは発熱+下痢のパターンですね」

「対処法は?」

基本的には水分をしっかりとって、下痢が止まるまでおとなしくしていることです。下痢を止めるとウイルスとかの排泄が遅れるので、やらないほうが良いです

「あぁ、今回診てもらった先生にも言われました」

僕は寝る前だけOKと言っています。寝れなくて体力消耗するというのも問題なので

「で、整腸剤とか胃薬で対応して回復するのを待っていればよいわけですね」

「そういうことになります」

「ありがとうございました」

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実際は分泌を更新させるタイプの下痢(腸液などを過剰に出させる・・・コレラとかですね)や、出血による下痢(大量の出血は吸収しきれない)、脂肪の吸収能力が低い人が脂肪分の多いものを食べた後にする下痢などいろいろなタイプがありますが・・・。

 

一日に何回も下痢をするというのは多くの場合はウイルス性などの急性胃腸炎(一言で言ったらお腹の風邪)が一番多いのではないでしょうか。

 

ちなみにストレスなどで生じる過敏性腸症候群などもありますが、この場合は寝ている間は下痢しないという特徴がありますね。ストレス性なので・・・。

 

意識障害が出ているとか、他の症状が何があるのかは大事です。ただ、急性胃腸炎による下痢などが主体であれば水分だけでもきちんと摂取できるかどうかは重要なポイントだと思います。それができなければ入院になってしまうでしょうし、食事ができなくても水分がある程度取れれば普通は入院しないのではないかと思います。

もちろん、年齢や合併症なども考えて対応はしますが。

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