新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

防風通聖散の肥満に対する効果解明:追加で漢方医学と西洋医学を少し紹介

2013-10-21 21:53:37 | 医学系

こんばんは

 

今日は輸血学会のシンポジウムに参加されている(というか大学の代表者会議ですかね)先生の外来の代診(新患は閉めていたのですけど、来ちゃった人は診ていました)を少しやっておりました。やっている間も思っていたのですが、体がだるい。なんでかしら・・・と思っている今日この頃です。

 

そういう疲れていて頭が回らないときは、単調作業をやることにしています。患者さんのリストの情報収集などですね。なんも考えずに情報を打ち込むだけですので、ずれたりしていなければOK.いつもなら苦痛に感じる単調作業もこういう時は気になりません。

 

で、こういう「疲労感」を感じるときには補中益気湯を飲むんですが、通常数日で回復します。

 

ということで、今日は漢方薬のこんな記事からです。

 

横浜市大が肥満への漢方薬効果を解明/神奈川

2013年10月20日
 横浜市大医学部の研究チームは19日までに、内臓脂肪型肥満に対する漢方薬の改善効果を科学的に解明することに成功した。食欲増進ホルモンを低下させるメカニズムを世界で初めて発見、24日から開催される日本高血圧学会総会で発表する。

 肥満症はメタボリック症候群を経てさまざまな生活習慣病の原因になるが、治療は食事、運動療法による減量が中心で成功例が少ないのが実情。一方、漢方薬は日常診療で広く使用されているが、効能のメカニズムは大部分が不明。今回の研究成果によって、西洋医学の知見と組み合わせた統合医療が前進しそうだ。

 発見したのは田村功一准教授ら循環器・腎臓内科学の研究グループ。肥満症、動悸、肩凝りなど高血圧の随伴症状に効能・効果があり、医師が処方した場合には保険が適用される漢方薬「防風通聖散(つうしょうさん)」を対象に、厚生労働省の助成研究として2010年度から12年度まで効能・効果のメカニズム解明に取り組んできた

 研究グループは、内臓脂肪型肥満、高血圧などの生活習慣病を発症させたマウスに防風通聖散を投与。体重、餌を食べる量、血圧、脂肪組織、糖脂質代謝に対する治療効果を検証した。

 試験観察では、脂肪を燃焼させる基礎代謝を担う褐色脂肪細胞が活性化した一方、皮下脂肪などの白色脂肪細胞の小型化が促進されることが分かった。血液検査では、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の低下、脂肪細胞から分泌される抗動脈硬化ホルモンの上昇も認められた。餌の摂取量が減少したことから、食欲抑制のメカニズムを解析したところ、食欲増進ホルモンのグレリンの血中濃度低下を確認。体重や食事量の増加、血圧上昇が継続して抑えられた。

 漢方薬は日常的な診療でさまざまな疾患に対して処方されており、厚労省が設置した「『統合医療』のあり方に関する検討会」は「食生活やストレスなど複合要因によって起こりうる疾患については、近代西洋医学だけでなく、漢方、健康食品など各種の民間療法が広く患者、国民に利用されている実態がある」との認識を示している。

 田村准教授は「肥満症は、薬品や手術による治療法もあるが、副作用などから適用はごく一部の重症患者に限られている。処方されることが多い漢方薬の作用メカニズムの一端が解明されたことで、西洋医学との併用によって効果的な治療につながる」としている。
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ということで、僕は漢方薬の勉強を少しだけした程度の人間でしかありませんが、少しだけ。
 
まず、漢方医学と西洋医学では大きく異なるのが漢方は治療が優先、西洋医学では病態が優先です。わかりやすいので西洋医学から行きますと、西洋医学は病態を解明(病理診断)して、病気の原因に対して治療を行います。漢方医学は積み重ねてきた治療の歴史が中心で、「こんな人にはこの薬が効く」という経験から始まった治療医学です。
 
X軸とY軸があって、理想が中心だとすると病気はどちらかの方向にずれているので、そのずれを戻してあげる感じでしょうか。すなわち同じ系統の疾患でも、ずれた方向が異なれば違う治療薬が来ます(同病異治)。逆もあるわけですが(異病同治)。
 
 
まぁ、簡単に書きすぎかもしれませんが西洋医学は「病気を中心に患者さんを診る」感じで、漢方は「患者さんに合わせて処方する」感じだと思います。病気の症状や患者さんの状態に合わせて処方する感じでしょうか。
 
さて、ここで出てきた防風通聖散、昔僕も務めていた病院に入れてもらったりしましたw
僕がいなくなった後誰も使わないといわれていたらしいですが・・・。
 
さて、この薬は昔から内服開始後の最初の2ヶ月で基礎代謝が上昇するというのは言われていました。その効果が「褐色肥満細胞の増加」なのかもしれません。
 
他にも機序不明だった漢方薬の機序が有名雑誌に投稿されたりしたものはいくつかあります。僕の大好きな五苓散とか。溢水状態では利尿作用なのに、脱水では水分貯留(尿量減少)に働く機序がわからない・・・と思っていたら、血管内外の水の移動を妨げる効果だったということでしたね。
 
 
さて、防風通聖散の基礎代謝を上げる効果、僕も太った高血圧の患者さんで、若干便秘がちな人には好んで使用していました。ちなみに防風通聖散は一般的に「熱証」で便秘がちな方の下剤です。石膏が入っているから体を冷やす方向に持っていきますので、寒がりな方が飲んでもね・・・という気はします。まぁ、熱証って「熱がりで冷房を入れたがり、赤ら顔で乾燥した舌をしていて、高血圧、高体温の傾向がある便秘がちな人」といわれるんですがね。
 
 
 
ということで、漢方薬は証がありますので全員が同じ効き目ということはないかもしれません。ただ、証を考えて使うと結構いいです。
 
ちなみに実家の犬(先日死にましたが)が僕が研修医終わったくらいの頃(札幌にいたので、実家住まいでした)に腫瘍ができて、食事も食べられなくなりやせ細っていきましたが、先ほど言った補中益気湯を飲んだ後は元気になりました。正直、「動物でも効くんだなぁ」と思ったものです。
 
 
僕は西洋医学中心ですが、二番煎じとして漢方薬を使用できるようにしています。前も書きましたが、そのほうが診察時に2倍楽しめる(と書くと怒られそうですが、西洋医学の診察方法と同時に漢方医学の診察も考えられる)ので、よいと思っています(患者さんにとっても)。
 
 
時間があったらもう一度漢方の本を読み直そう。体調の悪い時は本を読むに限る(考えずに吸収するのみ)。
 
 
さて、明日は少し調子が良くなっているとよいなぁ。
 

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骨髄腫の維持療法:追加でpubmedが…(汗

2013-10-01 23:06:19 | 医学系

こんばんは

 

昨日(というか、帰ったのは今日の夜中ですが)は学会の予演会があり、2演題しゃべっておりました。その後指摘事項などを修正していたら、日をまたいでおり、今日もその補備修正に当てておりました。

学会発表がWindowsなのでメールで自宅のパソコンに送り、確認したら文字化けしていました(汗

 

明日再確認ですね。

 

さて、先程このような質問がありました(非公開)。

 

多発性骨髄腫に関しての質問で、ご家族がベルケイドを5クール終了しなんとかCRに行けそうだ・・とのことでした。主治医がすごく血液状態が良いので、ベルケイドの容量を減らして維持を提案されているが、副作用もあり全身状態が少し悪いため、継続するべきかどうか悩んでいる・・・・という内容でした。

多発性骨髄腫の治療に関しては本当に定まったところはありません。もうすぐ、日本版のガイドラインが出る予定ですが、それにも維持療法に関してはやったほうが良いとは書かれない予定だったと思います。

 

では、維持療法をしないほうが良いかといわれると意見は分かれると思います(ガイドラインにどう書かれているかは知りませんが)。理由は骨髄腫が完治するのがまだ難しい疾患であり、どういう形でお付き合いをしていくのかは患者さん個人個人によると思います。

例えば60代の方が骨髄腫になられたのであれば、僕は自家移植、地固め療法、維持療法をやると思います。今後も数年後には新しい薬が出る予定になっており、できるだけ様々な手立てが使えるところまでは引っ張りたいと思うと思います。

しかし、一方で80代の方で、少し元気がないような感じであれば・・・治療を継続した方が生きる時間は長くなるかもしれませんが、元気な時間は短くなるかもしれません。それを考えたら、よい状態まで持って行ったあとは様子を見るというのも選択肢なのかもしれないと思います。

ちなみに、維持療法で有効性が認められているのは恐らくレブラミド(レナリドミド)ではないかと思います。MPR-RとMPRの比較試験でレナリドミドの維持療法をするところから、生存に差が出てくるので維持療法の有効性は間違いないだろうと思います。

ベルケイド(ボルテゾミブ)の維持療法(うちの大学病院としてはボルテゾミブの維持なんですけどね)は基本形がいつぞやのJCO(Journal of Clinical Oncology)に掲載されたボルテゾミブベースの治療の後自家移植をやって、その後に2週おきに維持療法を行うというやつがありますが、逆側の治療法が初期治療の時点で異なっているので、維持療法が良いのかなんなのかわからない内容だったと思います。

ちなみにベルケイドの維持療法を月1回というのも一部の施設(少なくとも2施設以上はあります)では行われています。

 

そういうことで、維持療法をするかしないかというのは難しい判断になると思います。「こうすることになっている」という疾患ではなくて、患者さんごとに合わせた治療になります。

患者さんの情報を細かく知っているわけではないですので、これ以上は書けませんが参考になればうれしいです。

 

さて、先程帰る前にPubmedを見て愕然としました。アメリカの予算の関係で・・・・(汗

 

気になる人は見てみてください(笑

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed

 

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抗癌剤治療後の妊娠はいつからならよい?

2013-07-05 22:33:18 | 医学系

こんばんは

 

先程「非公開希望」で、少しコメントをいただきましたことのお返事を書かせていただきます。

 

悪性リンパ腫の治療後の方で若干強い治療を受けられた方からのご質問で、抗癌剤治療後いつから妊娠してもよいのか・・というご質問でした。

 

このいつからということに関して、明確な答えはないと思います。過去に実際の臨床現場でも同じような質問がありました。

 

僕は患者さん個人個人や疾患によって答えは違うと思っていますが、やはり高リスクのリンパ腫や白血病などでは再発リスクの高い期間(DLBCLなどは2年くらい経過すると再発の曲線が緩やかになります)に妊娠するのはお勧めしないかもしれません

理由は「お子さんがお腹の中にいた場合、抗癌剤治療が難しくなるから」です。

例えば「低悪性度」リンパ腫に該当する「濾胞性リンパ腫(FL)」であれば、まずあまり細かいことは言わないと思います。生理が回復し、ある程度の期間が経過すれば妊娠するのは構わないのではないかと思います。

濾胞性リンパ腫は昔は状況が悪くなるまで「経過を見る」のが重要とされてきた、『年単位で進行する』腫瘍です。仮に妊娠中に再発がわかったとしても「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」などに形質転換していなければ、出産まで待てると思います。

 

このDLBCLは月単位で進行し、半年くらいの経過で命にかかわってきます。例えば妊娠週数がある程度たっていて、あと1,2ヶ月で出産予定(もしくは24週くらいで2~3か月くらい頑張ってみる…そしてタイミングを見て帝王切開)というのであれば、そういうことも考えると思います。もちろん、母体の命を優先するという考えであれば、もう少し早めに帝王切開などをして、お子さんの方は小児科の先生と協力して対応し、母体の治療は傷が治り次第開始するというのもできるのかもしれません。

 

高悪性度のものになると白血病並みなので、治療開始はそれほど待てません。しかし、そういう悪性のものの再発はやはり早期に来る確率が高いです。進行が速い腫瘍であればあるほど、基本的に残存腫瘍があればそれだけ早く出てくるはずなので。再発までの時間がある程度空いているのであれば、少しは待てるかもしれないという期待を持つかもしれません。

 

同じ疾患・・・でもいろいろ性質が異なることもあります。

バーキットリンパ腫(BL)は「C-myc」という遺伝子の異常を持ち、進行速度はかなり早いですが治る可能性も高い腫瘍です。だいたい特徴もみな同じことが多いのですが、DLBCLというやつは「その他大勢」的な要素があり、患者さんによって全然治療反応性なども異なってきます。

FLも基本的にはBCL-2という「死なせない」遺伝子の発現があり、死ななくなってしまったからゆっくり増えてくるという特徴があります。要は増殖促進の「アクセル」は踏まれていない人が多いです。

BLとDLBCLの中間型・・・というような微妙なものもあります。僕の中ではやはりタイプが全然異なる印象があります・・・。本来、「c-myc(増殖のアクセル)」が出ていることが多いのですが、検出できないのにこのタイプという診断を受けた患者さんの一部はDLBCLとほぼ同じような印象を受けます。実際に、当時少し迷ったのですがあまりに反応性が良かったので、形態的にはこのタイプですが遺伝子異常のなかった患者さんをR-CHOP6コースで治療を終了しました。抗癌剤を終了して経過を見ていますが、3年間は無再発で元気に過ごされていらっしゃいます。

c-mycとbcl-2、追加でbcl-6なども出ている場合(ダブルヒット、トリプルヒットなどということもあります)は再発の可能性を考えて対応するかもしれません。

 

そういういろいろな要素を考えて対応すると思うのですが、あとは患者さんご本人の気持ちではないでしょうか。どのタイミングで妊娠しても、再発の危険が消えるとすれば5年以上の経過…ということになると思います。低悪性度であれば生理の回復後半年から1年以内、DLBCLなどの中等度悪性度以上ならば2年前後の経過を見てからの方が良いかなぁ…と個人的には考えますが、妊娠の希望が強く、5年も待ちたくはないと考えているのであれば、1年程度経過したら妊娠の努力をしてみるというのも方法かもしれません

要するにどのタイミングで妊娠しても再発しないとは言えないのです。確率論で初期の方が再発の確率が高いとは言えますが、神様ではないので「個人個人」の未来を予想できるわけではないです。

1年経過を見たほうが良いというのは、1年以内の再発の場合は増殖速度が早かったり、薬の効きが悪い腫瘍がそれなりに残っていることになるので、すぐに治療に入るべきだからです

1年以上たてばよいという明確な根拠を僕は今持ち合わせていませんが、少なくとも1年は経過を見たほうが良いのではないかと思っています。

 

答えになっているかが不明ですが、質問があったことに関しての個人的な考えを書かせていただきました。

 

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アジュバントで不妊にはならない(笑

2013-06-16 22:33:38 | 医学系

こんばんは

 

先程、部屋の中にハエがいたので、とろうと思って手を出しました。だいたいの場合、つかめるのですが今回のハエはスピードが速く・・・しかも

「なにぃ・・」

マンガだったら、こんなコメントが出そうですが…伸びきった手にハエが止まってくださいました(汗

ハンドスピードはそんなに遅くないと思っていたのに…orz

 

ニュータイプのハエですかね。3倍速度が速いとかw

 

さて、先程こんな記事を読みました。

もともとは子宮頸がんワクチンの、この話からです。

子宮頸がんワクチン積極勧奨せず 厚労省、呼び掛け中止へ

http://www.47news.jp/medical/2013/06/post_20130614213611.php

 子宮頸がんワクチンの安全性を検討する厚生労働省の専門部会は14日、ワクチン接種が原因で慢性の激しい痛みの副作用が低い頻度ながら起きている可能性が高いとして、接種を積極的に勧めることを一時的に差し控えるべきだとする意見をまとめた。意見を受け、厚労省は積極的に接種を呼び掛けることを一時中止するよう全国の自治体や学校に求めることを決めた。

 子宮頸がんワクチンは4月の予防接種法改正に伴い原則的に無料の定期接種となったばかり。同部会の桃井真里子座長は「接種中止ではなく希望者は今まで通り受けられる」と強調するが、医療現場や保護者に混乱が生じることは必至だ。

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そしてこちらの記事が続きます。

 

子宮頸がんワクチン接種は「日本民族を亡ぼす」、厚生労働省もようやく気づいたのか、接種推奨を控える

http://bylines.news.yahoo.co.jp/eikenitagaki/20130616-00025726/

板垣 英憲 | 政治評論家、板垣英憲マスコミ事務所代表

2013年6月16日 4時2分
 

◆子宮頸がんワクチンには、「アジュバンド」(免疫賦活剤、免疫増強剤)が添加されている。「アジュバンド」は、輸入されている新型インフルエンザ・ワクチンや風疹ワクチンにも含まれており、ワクチンの効果の元である抗原を免疫細胞に取り込みやすくさせ、効果を強めるために用いられるといわれる。しかし、ワクチンとしての効果が高まる分、強い痛みなどの副作用が生じるといわれている。ところが、さらに恐ろしい問題がある。この「アジュバンド」、もともとペットの去勢・避妊薬として開発されたもので、人間に与えると妊娠できなくなるばかりか、不妊治療もできなくなる危険性を孕んでいるといわれている。このため、「断種ワクチン」、あるいは「民族を絶滅兵器」とまで呼ばれる恐ろしいシロモノなのである。

◆こうした事実は、なかなかマスコミに取り上げられてこなかったが、4月から予防接種法に基づく定期接種が始まって以降、子宮頸がんワクチンの接種後に長期的な痛みやしびれを訴える人が相次いでいることを受け、厚生労働省が6月14日、「一時的に接種の推奨を控える方針」を決めたという。朝日新聞と読売新聞が6月15日付け朝刊1面で報じた。

子宮頸(けい)がんワクチンの接種の危険性については過去(2010年9月12日)に、拙ブログで「子宮頸がん予防ワクチンと『民族滅亡』」という見出しをつけて記事にし、厳しく警告していた。

ここへきて厚生労働省の検討会も、ようやく「危険性」に気づいてきたということである。しかし、「一時的に接種の推奨を控える方針」に止まっており、全面禁止措置には、ほど遠く、まだ手ぬるい。それは、副作用により被害者が発生するのを容認していることを意味しているからである。被害者に対して、どう償うのかが、はっきりしておらず、無責任である。

◆とりあえず、2010年9月12日拙ブログ記事「子宮頸がん予防ワクチンと『民族滅亡』」から以下抜粋しておこう。

「『子宮頸がん予防ワクチン』が、『断種ワクチン』の危険をはらんでいるという。一説には、これは、『第3次世界大戦』と並び、フリーメーソンによる『世界人口調整計画』の一環であるというから、恐ろしい。

英国の製薬会社『グラクソ・スミス・クライン株式会社』(略称・GSK)は、「断種ワクチン」として普及させようとしている。

子宮頸がんは、HPVというウイルスが感染して起こるというのが、定説だが、それ自体に疑問視されている。アメリカでも論文が発表されている。にもかかわらず、「HPV感染ワクチン」の接種について、日本国内では2009年10月にワクチンが認可された。「サーバリックス」というワクチンが承認されていない段階から、公的資金による接種の推進をしてきたのが、共産党系の団体『新日本婦人の会』や公明党・創価学会、野田聖子元郵政相を中心とする自民党議員、そして民主党国会議員だった。

ところが、子宮頸がんが必ずしも『HPV感染』により感染するとは言えず、『サーバリックス』というワクチンを接種することによって、死亡例や重篤な副作用を生み出す事例、さらに、このワクチンのなかに、スクワレンなどが含まれたアジュバント(もともとペットの去勢・避妊効果のあるものとして開発)が含まれていることから、人間に投与すると妊娠できなくなる危険をはらんでいることが判明している。つまりは、このワクチンは、「断種ワクチン」であるということである。これを10歳~14歳の女の子から公的資金で強制的に摂取することは、日本民族滅亡につながりかねず、極めて危険であるという。それどころか、厚生労働省は、さらに危険度の高い米国メルク社製『ガーダシル』という子宮頸がん予防ワクチンの認可申請を受けて、審査中で、認可しそうな気配だ。

だが、製薬会社との関係から、マスメディアは、この問題を一切取り上げようとしていない」

◆子宮頸がんは、他の癌と同様、早期発見により治療することができる。しかも、癌細胞になる前の「異形成」という前癌状態から発見することができ、その後は5年から10年かけて癌細胞になっていくといわれる。しかも、「異形成」になった患者でも、約50%はそのまま自然治癒するのだそうだ。

効果の信憑性が、今ひとつはっきりしないワクチンをむやみに打つよりは、やはり定期健診を怠らないことが大切であり、定期健診こそもっと推奨すべきである

(引用終わり)

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この記事の中で「断種」と書かれていますが、それを証明したものはないことと、安全性に関してはある程度確認が取れていることがまず重要です。

アジュバントというのは「アジュバント」という物質名ではなくて、記事の中にも触れられているように「免疫賦活化」のために加えられた物質で、本来『数倍』必要であるウイルス抗原を減らすために使用されています。アジュバントが去勢のために開発された・・・と書いているのであれば、それは目的が異なっています。精子などを免疫に攻撃させるために、精子抗原を加えるときにより強力に反応させようとしているだけです。実は精子や卵子のある精巣・卵巣は免疫から隔絶されています。血液脳関門というものがありますが、精巣にも似たようなものがあり、通常は免疫から隔絶されているのです。

 

鳥インフルエンザのパンデミックが起きた場合には、アジュバントを使用することをWHOは推奨しています。もちろんこれはウイルス抗原量が少なくて済み、効果も高いということからでしょうが、もし記事に書かれているように「不妊」になっていくのであれば世界中で使用されることはないです。ペットの不妊用のワクチンにもスクワレンが使用されているのかもしれませんが、それは恐らく赴任させるための成分(精子抗原など)は別で、それを増強するなりなんなりではないかと思います。こっちは裏は取っていませんが、この製品を含めスクワレンが入っている多くの製品の安全性は別に疑われていません。

スクワレンが入っているワクチン関係の安全基準を証明した論文はいろいろありますが、少し添付しておきます。

http://www.expert-reviews.com/doi/abs/10.1586/14760584.6.5.699?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub=pubmed&

MF59 はスクワレンが入っているアジュバントです。アジュバントの一成分としてスクワレンが5%入っています

スクワレンのことをいろいろ書いてありますが、医療従事者から言わせると基本的には体内にも存在しており、一日に一定量必要な物質です。

 

そのスクワレンの免疫賦活の性質が悪い反応を起こすかもしれないとされているのは、自己免疫疾患(自分の免疫が悪い方に向いていて、それを抑えるためにステロイドなどを使用しているような膠原病などの患者さん)に関しては「病状を悪化させる可能性が0ではない」とされながらも、臨床試験での膠原病患者ではそういったものは認められませんでした。

 

書いている人は中途半端な知識でいろいろ大げさに書いていますが、百害あって一利なしだと思います。

 

厚労省が辞めたのは当たり前ですが、副作用が思ったより多く発生している可能性を考えてだと思います。

不妊の事なんか、この短期間で分かるはずがないではありませんか(笑

 

それならば、むしろ諸外国で昔から使われているアジュバントを使用しているので、そちらで問題が発生していないことの方が根拠として強いように思います。

 

唯一良いことを言っているのは「ワクチンは万能ではない」ということです。ワクチン接種をしたから大丈夫とは考えずに、健診と併用した方が良いと思います

 

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ホジキンリンパ腫の説明(患者さん向け)

2013-06-10 21:44:50 | 医学系

こんばんは

 

今日も実験を中心に、後輩や他の診療科の先生からの相談の対応をしながら1日を過ごしておりました。最近、外来に復帰したせいもあるかもしれませんが、1日に1回は他の診療科からの相談を受けているような気がします。ちなみに今日は3件でした。

 

細胞のソーティング(目的としている細胞を集めてくる)をしている間に、一冊の本(教科書)を読んでいるのですが、知識が少し増えると疑問が生じたり、何かを思いついたりします。先日の講演会も話を聞いて「はっ」と気が付くことがいくつかあり、そういった情報をかき集めてみているところです。

 

勉強するのは「自分で考える土台」を作るためであって、勉強しなければそういったこともできない。だから勉強は大事だし、面白いと思っています。

 

さて、本日は少しホジキンリンパ腫の説明に関して僕なりに書いてみようと思います。

 

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○○さんはリンパ節が腫れ、熱や寝汗などの症状があったため当院を受診されました。診断をつけるためにリンパ節生検を行い、本日は結果を説明するために来ていただきました。

 

○○さんの病気はホジキンリンパ腫という病気です。

ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫の一つの種類です。悪性リンパ腫は「リンパ球」という抵抗力の一成分が悪性化して、どんどん増えていってしまう病気です。リンパ腫というのは基本的にある段階の細胞が「リンパ節」で固まりを作って増えていきます。

悪性リンパ腫は大きく分けると「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2つに分けます。これらは標準治療が異なるからです。ホジキンリンパ腫の標準治療は「ABVD療法」と言います。もう片方の標準治療は「CHOP療法」と言います。

 

(ホジキンリンパ腫には「古典的ホジキンリンパ腫」と「結節性リンパ球優位型(NLPHL)」に大きく分け、前者はさらに細かく分かれます。NLPHLは予後良好と言われますが、基本的な治療は一緒です。)

 

○○さんの病気はわかりましたが、病気の状態、どこに病気がいるのかがまだわかっていません。治療前にどこに病気があるかというのは、治療のやり方(回数、放射線を併用するかなど)に大きく影響します。その為、治療を行う前にしっかり確認する必要があります。

 

一つはPET-CTという検査を行います。PET-CTは現在実施できる検査の中で「固まっている」癌細胞を見つける力が一番高いです。造影CTではStageⅡと言われてしまう病変が、時々StageⅢとして見つけることができたりします。これで見つけられないような小さな病変であれば、それまでの治療で消えてくれるだろうと思っています。

ただ、リンパ球というのは血液の一成分なので骨髄というところに入ってしまうことがあります。それはばらばらに入り込んでいるので、PET-CTでも見つけられないことがあります。それに対して骨髄の検査を別に行います

 

これらの検査で「治療前にどこに腫瘍があるのか」を確認して、治療に入っていきます。

 

治療法ですが、先程も申しあげましたが「ABVD」と呼ばれる治療法が標準治療です。世界中で様々な取り組みが行われましたが、この治療は多くの患者さんを治し、かつ有害事象(副作用)が少なかったのです(さらに強い治療でよい結果が出ている報告もなくはないですが、現実的に日本ではABVDが行われていますし、治る確率も比較的高いです(7~8割くらいだと思いますが、2年くらいあいての再発であればABVDで再寛解を目指した後に自家移植を行ったりします。逆に10%くらいで治療抵抗性の方がいて、治療法に悩むことがあります。僕も1人の患者さんは同種移植まで行いました)。

 

ABVDというのは「ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン」の4つの抗がん剤の併用療法です。ドキソルビシン(アドリアシン)は骨髄毒性といって血液の数値が下がることが問題になります。白血球が低下すると肺炎などになりやすくなります

また、脱毛は人によってはかなり抜けますが、必ず生えてきます。

ドキソルビシンやダカルバジンは嘔気も出たりしますので、吐き気止めを使ってそれを抑えます。また、ダカルバジンは血管痛が出ることもあります(というか、多いです。遮光することで出にくくなるといいますが、どうしてもだめなときは・・・本当にしょうがないので中心静脈カテーテルを入れたこともあります)。

ブレオマイシンは肺のダメージ(肺線維症など)が出たりすることもありますし、アナフィラキシーを起こすことが比較的よくある(一度ひどい喘息症状でSpO2 60%とかまで低下した患者さんもいたので、油断はしないことにしています)します。

ビンブラスチンは神経毒性と言って、手足のしびれなどが出たりします。

 

他にも長期的には2次発癌と言って他のがんが出る可能性も0ではありません。しかし、この治療法が最も副作用が少なく、治療効果も高いことがわかっていますので、まずは頑張って治療をして病気を治してしまいましょう。

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と、こんな感じでしょうか。

 

病期(Stage)がわかれば、ABVD療法の回数なども説明できますし、大きな腫瘍があると放射線療法を行ったりします。

ちなみにうちでは進行期ホジキンリンパ腫には4コース目終了時にPET-CTを行い、病気が確認できなければ(完全寛解)、ABVDをあと2回追加して合計6コース。もし病変があれば4コース追加して8コースにしています(まぁ、だいたいの場所は同じでしょうけど)。

限局期であればABVD療法は4~6コースで十分です。

 

なお、限局期に加えて予後良好群(NEJM 2010のやつですが、細かい設定を忘れました)であれば、さらに治療強度を下げてもよいという報告もあります(ただ、まだまだ微妙です。恐らく、PET-CTだったり、さらに病気を細かく見つける能力があればそうなっていくと思います)。

 

この治療は


第1群:最も強力な治療を受けた、ABVD(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、およびダカルバジン)化学療法を4サイクル投与後に総照射量30GyのIFRTを実施。
第2群:第1群と同量・同サイクルのABVD化学療法の後に、照射量を20Gyに抑えたIFRTを実施。
第3群:ABVD化学療法を2サイクル投与後に総照射量30GyのIFRTを実施。
第4群:ABVD化学療法を2サイクル投与後に照射量20Gyの放射線治療。

で、有効性は同等で、副作用は抗癌剤の量が少ない方(放射線ももちろん)が少ないという結果でした。

 

治療強度を減らすというのは大変なことです。

どういった患者さんにはこの程度の治療でよい・・・ということはなかなか難しいです

 

先週の土曜日の講演会で「GCB typeのDLBCLにたいしてR-EPOCHがとても有効である」というような話がありました。R-EPOCHの有効性は確かに高かったのですが、R-CHOPで治る人と治らない人・・・すなわちR-EPOCHの方が良い人が誰か・・・というのがポイントになってくるはずです

 

あの試験デザインは初発の患者さんなので再発の場合(再発すれば死にやすい腫瘍はすべて死んで、たちの悪い腫瘍が増えてきます。同じ結果にはなりません)とは違います。どの患者さんがR-CHOPで治らないのかを調べる必要があります。

 

検査の能力が高くなったり、この治療が効くか効かないかのバイオマーカーが見つかるというのはとても大切なことなのです

 

近藤誠医師が「がんもどき」という言葉を使われます。「がんもどき」であるかないか、それを見つけるものがあれば素晴らしいことですが、今の医療はそれを見つけていません。

 

人生に「もし」はないので、その患者さんが治療を受けなかったらどうなるのか・・・というのと治療を受けたらどうなったのか…ということは比べられません。それ故に臨床試験というものが組まれていますが、せめて「がんもどき」はこの性質がある、この分子マーカーが発現している・・など根拠を持って行ってくれたらどれだけ立派な先生に見えるかと思ってやみません(それを見つけた人がいれば、多くの患者さんに貢献した人ということになりますが・・・・)。

 

話を戻しますが、ホジキンリンパ腫には予後因子がいくつか報告されています。

  • 血清アルブミンの値が4g/dl未満である
  • ヘモグロビンの値が10.5g/dl未満である
  • 男性である
  • 臨床病期がIV期である
  • 年齢が45歳以上である
  • 白血球数が15,000/μl(1μlあたり15,000個)以上である
  • リンパ球減少がある(600/μl未満または白血球数の8%未満)

というやつですが、ホジキンリンパ腫は基本的に炎症を伴っていることが多いので、アルブミン・貧血・白血球数などはそれを反映しているのだろうと思っています。

しかし、僕は前も書きましたが患者さんにそれを言うつもりはないですし、経過観察時にマーカーや様々な数値のデータは渡しますが、診断時のデータは病理検査の結果など以外は渡しません。

CHOP療法を使う悪性リンパ腫の説明(悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方))でも、白血病に関してもそうですが、治療法が変わるならともかく変わらないなら、患者さんが「治るんだ」と思うことが最も重要だと思っています

 

それゆえ「効果に乏しい」というような状況にならなければ予後の話は一切しません。したとことで患者さんのメリットになるかならないかといえば、僕はメリットはないと思っています。

 

まぁ、そんな感じで話をしています。

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僕の骨髄線維症に関する説明(患者さん向け)

2013-06-02 10:23:35 | 医学系

おはようございます。

 

今日は雨という予報でしたが、今のところは雨は降っていません。今のYahooの天気予報を見ると、結局このあと1週間は降らない予報のようですね。

 

さて、本日ですが先程コメントに骨髄線維症に関して書きましたが、いままでそれに関しては書いたことがなかったので、書いてみようと思います。この疾患に関しては専門用語を使用せずに説明することが難しい(上に10万人当たり1人以下という稀な疾患)のですが、できるだけ書いてみようと思います。

 

-----------------------------------------

○○さん(50歳、女性)は今回、おなかの張りと貧血の症状で近くの病院を受診されて、かなり大きな脾腫があるということで紹介されました。

 

診察をするとおへその近くまで脾臓という臓器が腫れており、肝臓に関しても脾臓ほどではありませんが腫れてきています

血液検査では芽球とよばれる細胞が少数見受けられ、他の若い白血球系細胞を認めました。また赤芽球系の細胞や赤血球が涙のような形に変形したような細胞(涙滴赤血球)などが見られました。軽度の貧血はありますが、白血球数・血小板数は正常で。LDHと呼ばれる数値が上昇していました。

血液中に出ている異常細胞は骨髄で基本的にできるものなので、先日骨髄穿刺(骨髄を針で刺して、シリンジで吸引する)を施行しましたが、吸引不能(dry tapといいます)で、骨髄生検(吸引できないので、針で削り取る)を行ったところ骨髄が線維化していました。

以上の結果から骨髄線維症という診断になります。

 

骨髄線維症とは骨髄という「骨の中にある血液の工場」が硬くなって血液が作れなくなるような病気です。骨の中にある工場が硬くなっていることを線維化と言いますが、線維成分や骨の成分が増えていて、血液を作る場所がなくなってしまいます。そのため、脾臓や肝臓という生まれる前に血液を作っていた場所で、仕方がないので血液を作りはじめます。その為肝臓や脾臓が大きくなります。

肝臓や脾臓には成長(分化)する前の血液を血液中に出さないシステムがないので、血液中に幼弱細胞というのが流れてきます。

 

通常骨髄線維症はどちらかというと二次性に起こす患者が多く、「骨髄の線維化」を起こす疾患を除外する必要があります。どのような疾患かというとまず最初に骨髄増殖性腫瘍と言われる疾患群になります。

 

骨髄増殖性腫瘍とは慢性骨髄性白血病や真性多血症、本態性血小板血症、そして骨髄線維症などを含んだ疾患の総称です。すべての疾患で「血液よ増えなさい」という命令が出る遺伝子に異常があるといわれています。

慢性骨髄施白血病ではbcr-ablという遺伝子異常が、他の3つにはJAK2遺伝子の異常が認められます(ちなみに真性多血症はほぼ100%、本態性血小板血症と骨髄線維症では50%くらいです)。

骨髄線維症以外の3つの疾患から骨髄線維症に移行する可能性があります。しかし、○○さんは以前にそういう疾患と診断されたことはありませんし、現時点での血液検査でも疑わしいところはありません。他の血液腫瘍(急性白血病や骨髄異形成症候群では年に1人くらいは線維化を伴っている人を診る気がします)でも線維化を生じることがありますが、骨髄生検標本では芽球の増加はないですし、末梢血液中に異形成のある細胞(不良品とわかる細胞)もありません。一部の膠原病などでも線維化をきたしますが、そういう所見もなさそうです。

 

以上より原発性(特発性)骨髄線維症と診断しました。

 

この疾患に関して○○さんの現在の状況ですが、2つの指標を参考に話をさせていただきます。

今、世界で言われている国際予後分類(DIPSS plus)では

1、年齢が65歳以上

2、白血球数>25000/μl

3、予後不良の染色体異常

4、末梢血液中の芽球が1%以上

5、全身症状を有する(体重減少、発熱、1か月以上持続する盗汗)

6、貧血(Hb<10g/dl) 

7、血小板減少(血小板数<10万)

で、○○さんは芽球が末梢血液中にあるほかはこの基準には当てはまりません。

 

日本で行われた解析では

1、男性

2、Hb<10g/dl

3、発熱、盗汗などの全身症状

4、体重減少の持続

5、末梢血液中芽球>1%

を予後因子としていますが、これでも○○さんは1つしかあてはまりません。

 

現時点では日本の分類では低リスク群、国際分類ではInt-1という分類になります。

つまり5年以上の長期予後を見込めるグループということになります。

 

この疾患を完治させる可能性のあるものは骨髄移植造血幹細胞移植のイメージは?:同種骨髄移植に関する説明)のほかありません。

 

しかし、骨髄移植は魔法の治療でもなんでもなく、かなりのリスクを伴う治療法です。そのため、どのような疾患であっても「患者さんを選んで」行います。

○○さんは骨髄移植が可能な年齢ですので、常に注意深く骨髄移植の必要のある病態にならないかは診ていく必要がありますが、今は適応はないと判断します。

(How I Treat myelofibrosis. Blood 2011ではInt-2やhigh riskの骨髄線維症で65歳以下は移植の適応があるとしています。)

 

他の治療法ですが、日本国内では症状がない低リスクの患者さんは様子を見ますが、○○さんのように脾腫による症状があるなど何らかの治療適応がある患者さんには、ハイドレアというお薬(など)を使用したりして増えている悪い細胞を抑えに行きます。脾腫だけが問題であれば脾臓への放射線照射や脾臓摘出も考慮します。他に発熱などの炎症が問題であればステロイド剤を使ったりもします。

 

また、日本では骨髄腫以外に使用できないのですが、レナリドマイド(レブラミド)やサリドマイドも欧米では有効性が報告されています。他に先程いいましたが、JAK2遺伝子の異常に対してその阻害薬(ruxolitinib)などの治験も欧米では行われています

 

今はまだ使用できませんが、こういった治療薬も出てくると思いますので、今は症状を抑えながら病気と共存していき、状況に応じて移植を含めた治療を検討していきましょう。

---------------------------

こんな感じでしょうか。

骨髄線維症の研究は宮崎大学医学部(下田先生、幣先生)のところが盛んだと思うのですが、たぶん。

 

基本的に巨核球系の細胞から出てくるサイトカイン(TGF-βなど)で線維化してくるのだと思われますが、この巨核球系の細胞は腫瘍で、線維化している方は正常の細胞です。ですので、腫瘍細胞をどうにかできれば最終的に線維化していたものも、ゆっくりと元に戻ってくるといわれています。

 

今は新規治療薬(レナリドマイドやサリドマイドは国内にあるのにねぇ)が使えませんが、将来的には使えるようになってほしいものですね。

 

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P.S レナリドマイドはリンパ腫でもいろいろ有用性が報告されていて、適応拡大してほしいと心の底から思う今日この頃です。

P.S2 りーさんへ

僕は以上の所見をコメント内で質問してきましたが、そういう話はなかったと思います。肝脾腫だけであればいろいろな疾患が想定できますので、疑うのであれば骨髄穿刺・骨髄生検の再検などは必要かもしれません。しかし、そこは診断確定してから動き出しです。

脾臓が大きくなってきて・・・といっても診断つける前に放射線照射というのはどうかと思います。放射線照射後の発癌(血液腫瘍含む)は当然上がります。ですので、脾臓が大きくなったから当てる(そこに腫瘍細胞などがいない疾患、肝疾患や・・たとえば血液疾患でも自己免疫系などで放射線照射をすることはありません)というのはおかしいと思います。

おそらく主治医の先生も「診断をつけに行って、必要があれば」という意味合いでお話しされていると思いますが、念のため。

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好中球減少時の感染症予防に関して

2013-05-20 22:52:48 | 医学系

さて、少し追加します。

 

先日、ちょっと不思議:制吐剤「アロキシ」という記事のコメントで、乳癌の抗癌剤治療中の患者さんからコメントをいただきました。

この中で抗菌薬の予防投与に関しては不用ではないかと書きました。

 

抗癌剤治療を行うことで、好中球という「細菌」や「真菌(カビ)」と闘う兵隊の数が減るという事象が発生します。白血病や悪性リンパ腫などでは、特に血液に作用する抗癌剤を使用するので発症頻度が高いのですが、他のがん腫に対する治療でも当然起きうるものです。

 

その兵隊が副作用で減ったときに抗菌薬を投与することがどれだけメリットがあるのか…というようなことも検証されています。メリットは感染症による死亡の減少ですし、デメリットは恐らく耐性菌の増加の問題が中心で、他にも抗菌薬そのものによる副作用などもあると思われます。

 

ちなみに好中球数500/μl以下の患者の半数で発熱に関するエピソードがあり、その多くは感染症と言われています。また、好中球100/μl以下になった場合は、80%に発熱のエピソードがあり、その20%は敗血症と言われています。

 

昔はよい薬がなかったので死亡率が高かった「発熱性好中球減少症」も現在では5%以下になったとされています(実際は積極的な治療のできている人は少ないと思いますが、慢性的に好中球が回復しない疾患だときついことがあります)

 

まぁ、そういう実情があり「好中球が減ったら、予防投与しよう」という発想に行くわけですが、基本的に現在は全例での予防投与は推奨されていません。まず、さまざまなRCT(ランダム化比較試験)の結果の解析がありまして、抗癌剤治療による好中球減少に対して予防投与を行ってもグラム陰性桿菌による菌血症の発症頻度に有意差がでなかったり、95のRCTのメタ解析の結果では死亡率は予防投与群の方が良かったのですが、非予防投与群の感染症による死亡が10%(急性白血病の寛解導入療法や、地固め療法の大量シタラビン療法でも5%ないくらいですが・・・汗)と高いことが問題で・・そういう疾患群を対象に証明されているというのが事実です。

 

その為、2011年のIDSAガイドラインでは「好中球100/μl未満が7日以上続く患者」に限定してキノロン系抗菌薬の予防投与を推奨しており、7日未満(100/μlが)の患者に対する予防投与は推奨しない…となっています。

 

はっきり言うと急性白血病や骨髄移植時以外では基本的に予防投与は推奨されていません。あとは再生不良性貧血のATG+CyA以外では不用という意味です。

ということで、予防的抗菌薬投与に関してでした。

 

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僕の再生不良性貧血の説明(患者さん向け)

2013-04-10 22:40:37 | 医学系

こんばんは

 

先程コメントに再生不良性貧血に関することをいただきましたので、少し僕なりの患者さんに対する説明の仕方を書いてみようと思います。

骨髄異形成症候群(MDS)とは異なる疾患ですが、低形成(細胞数が少ない)MDSでは診断がはっきりしないこともあります

(MDS関連記事)

アザシチジン(ビダーザ)の話

骨髄異形成症候群の説明(患者さん向き)

 

あとは僕も再生不良性貧血のような見えたCD55かCD59かのどちらかが欠損していたタイプのPNHもどきのような(PNHとは発作性夜間血色素尿症という骨髄不全や溶血発作などを起こす病気です)患者さんもいますので、実際に患者さんを診ていたらそういうのを全データをみて否定しながら、話をしていきますが・・・。

ということで、少し書いていきます。40歳以上の設定です

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

○○さんはこのたび息切れや出血しやすいということで近くの病院を受診されて、当院に紹介という形になりました。

 

血液検査では白血球という体を守る抵抗力、兵隊のような存在ですが、これが500/μlと少なく、そのうちの菌と闘う成分(好中球など)が20%程度と減少しています。また、ヘモグロビンという貧血に関する値が7g/dlと普通の人の半分ほどで、血小板という止血のための成分も1万/μlと減っています。

そして赤血球の若い方の細胞「網状赤血球」というものも普通は数万/μl単位であるはずが、2000/μlと減少しています。

 

この血が作れていない原因を調べるために、骨髄という血液を作るところを調べました。骨髄の中は細胞の数が少なく、好中球や赤血球の若い成分、血小板というものをつくる巨核球という成分が減っており、リンパ球という成分がhっ血球の中では多くしめておりました。

 

検査結果を聞いても難しいと思いますが、○○さんの病気は再生不良性貧血という病気です。

○○さんのように血液がうまく作れないものを総称して「骨髄不全」というような呼び方をしますが、その中に大きく分けると2つのグループに分かれます。

一つは血液の質が悪くなって、作っても作っても不良品ばかりで出荷できないから血液の量が減ってしまう病気で、骨髄異形成症候群というものです。

もう一つが今回最も疑わしいのですが、造血幹細胞と言われる血液のもとになる細胞が自分の免疫で攻撃されてしまい、数が減ってしまう病気です。こちらは作りたくても創れない病気です(量の病気)。

 

先程申し上げましたが、骨髄の検査をした時に細胞の数が著しく減っていました。しかし、全くないわけではありませんでしたので、それらをよく観察しましたが「不良品」のようなおかしなものは見られませんでした

骨髄異形成症候群というのは血液の質が悪くて出荷できない病気ですので、普通の血液中に不良品がでていることもあれば、出ていなくても骨髄の中では壊される前の不良品を認めることがよくあります(通常、低形成MDSでなければ血液の数値が減っていても、骨髄中にはそれなりに細胞はいます)。

 

今回○○さんの骨髄には明らかな不良品は認めませんでした。そして全体の数が少ないだけではなく、リンパ球というものを多く認めました。これは攻撃する側の細胞が多く存在すると言うことです(実際は形質細胞や肥満細胞なども目立ちますし、寿命が長かったり、主に攻撃受ける側ではないからリンパ球が多いというのもあると思いますが)

 

実際には、まだSLEなどの自己免疫疾患を否定したり、染色体検査(染色体異常がある場合は低形成MDSの可能性があります)の結果を待つ必要がありますが、これほどの骨髄の様相を自己免疫疾患で起こす可能性は低いですし、低形成MDSであれば国際的には免疫抑制療法はきちんとした根拠がある治療ですので、同じ治療であれば行うのに確定診断を待つ必要はないと思います。

 

さて、再生不良性貧血の病状に関してStage1(軽症)からStage5(最重症)の5段階に分かれますが、○○さんは最重症に区分されます(分類はネットなどで見てください)。好中球という先ほど申し上げた「菌」と闘う成分が100/μlていどで、網状赤血球が2000/μlと減少し、血小板も2万以下です。

 

治療の基本的な考え方ですが、大きくは免疫抑制療法と骨髄移植に分けます。軽症の患者や免疫抑制療法に加える形でタンパク同化ステロイドと言われる造血作用を持つ薬を使うこともあります。

 

免疫抑制療法というのは先ほども申し上げましたが、自分の免疫が自分の血液の大本を攻撃することでこの病気は発生していると考えられています。であれば、この攻撃を止めてあげれば自分の血液は作れるようになってくるはずです。

中等症の患者さんや高齢の患者さん(患者さんの状況によりますが、個人的には80歳代にATGはやりにくいです)ではシクロスポリン(CyA)という薬剤を使用します。

やや重症(Stage3)~最重症(Stage5)の患者さんではATG(抗胸腺細胞グロブリン)+CyAで治療を行うか、若い患者さんで兄弟間でドナーがいる場合は同種骨髄移植を行ったりします

40歳未満で兄弟間のドナーが得られる場合は積極的に同種移植を行います。同種移植はリスクが高い治療(造血幹細胞移植のイメージは?:同種骨髄移植に関する説明)のため、若い患者さんのほうが耐えられる。また、兄弟間のほうがよい理由は1つ目に「バンクドナー」では調整に時間が必要であること、2点目に抗腫瘍効果などは不要なため、できるだけ変な免疫反応が起きにくいほうがよい(GVHDのことです)からです。

 

実際にこのATG+CyAという治療法での奏効率は70~80%程度あり(最近ウサギのATGになって半分程度になったようなイメージも・・・)、40歳以上の患者さんではまず行う治療法です。

 

ATGという薬は点滴で入れるのですが、ウサギの抗体(異種タンパク)なので免疫反応が起きやすいです(血清病といいます)。そのため、同時にステロイド剤も投与します。さらにシクロスポリンも内服します。

 

この3つはかなり強力な免疫抑制剤です。現時点で菌と闘う兵隊がいないところに、さらに免疫力を落とすな治療を行います。そのため、細菌や真菌(カビ)などの感染を予防する薬を内服していただきます。また、当院ではG-CSFという好中球を増やす薬を使います。

 

このような治療を行い、約3か月で治療効果を判定します。

この間、出血しないように血小板の輸血を、貧血に対しては赤血球の輸血を、感染症のリスクが高いために予防していても感染した場合はさらに強い抗菌薬で治療を行っていきます。

 

治療効果が十分出た場合は少しずつシクロスポリンを減量していきます(やめることができる人も出てきます)。

 

あと、この病気は難病指定を受けていて、公費で治療費を賄ってくれます。これについては保健所(もしくは市役所・インターネットなど)で申請用紙をもらってきてください。必要なものを入力します。

リスクの高い治療ですが頑張って治療していきましょう

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんな感じでしょうか。

40歳以上で免疫抑制療法と骨髄移植の奏効率は同等、非血縁ドナーの場合は免疫抑制療法のほうが高くなります。移植での死亡率が上昇するからですが・・・。

そのため一回目は通常免疫抑制療法です。

しかし、1回目の治療不応の患者さんでは2回目の奏効率は30%程度(Blood 2006)と低いので、通常は移植の準備をしながら(兄弟間であればともかく、バンクドナーであれば迅速コースで申し込んでも80日くらいですので)もう一回治療ですね。

 

20歳未満とかであれば通常は移植

40歳未満までなら兄弟でドナーが得られれば移植(最近はバンクドナーのの成績もよいです)

 

あと、免疫抑制療法が奏功した後、他の病気がわかってくることもあります。骨髄異形成症候群とかさっき書いたPNHとか。骨髄異形成症候群はきっと壊されなくなってくるからなのだろうなぁ・・となんとなく思っています。

 

そんな感じでしょうか。

 

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P.S 2017年にアップデートしました

僕の再生不良性貧血の説明(患者さん向け)2017年版

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がん検診は必要か?

2013-04-06 12:37:59 | 医学系

さて、続けます。

 

実はこの検診の記事を書いてみようと思ったのには理由があります。

先程、少しインターネットで近藤誠医師の発言内容を確認しておりました。なんといっても僕は2冊程度立ち読みしただけですので。

 

その時にこんな記載を見つけました。

http://www5.ocn.ne.jp/~kmatsu/gan046.htm

引用

有効性は世界中で概ね否定されています
それが証拠に富裕で健康に関心が深いアメリカですら肺ガン検診、胃ガン検診など殆どのガン検診の制度がありません

肺ガン検診は結核が過去の病気となりつつあったので、検診従事者の失業対策として、肺ガン検診の有効性を否定した大規模試験の結果が出てから始められたものです。

企業や健保がガン検診に消極的なのは、肺ガン検診等への補助がうち切られたなど、ガン検診の無効性が認められつつあるからであり、企業や健保の意志に依るものではありません。

がんもどき理論の検証をする前に、検診をしたらどう良い事があるのかを検証する必要があります。世界中で効果がないと完全に証明されている肺ガン検診についてはこの作業は必須でしょう。

今日まで築き上げられてきた膨大な癌研究の知見とは何のことでしょうか?日本での数十人規模のデータのことでしょうか?海外からまともなデータと評価されていないことにはどう考えるのでしょうか?海外での数万人規模の複数の試験結果を無視しているのは暴論ではないのでしょうか?

検診推進の裏付けとなる理論は早期発見・早期治療と云うものですが、上に書いたように、この論理を裏付ける統計学的数字、ないしは数式もなければ、厳密な論理展開もありません。逆にそれを否定する統計学的数字はあるのです。

悪性度はさまざまであるといいながら、ほとんどのガンが大きくなるほど転移する・・・と一括りに云っている。近藤氏が2種類に分けているのに対し、推進派は全てはガンだ(ガンは一種)と云っているかのような理屈だ。
手術は無効、早期発見により命を救えないというのが海外での結果の現実です。癌検診の有効性を検証することは、その意味で不可能ですし不要です。観察的方法では有効性は評価出来ないと云うのが医学の常識の筈です。」

引用終わり。

 

これに関してきちんとした情報をもとに提供するためにどうすればよいかを考えてみました。

 

以前も紹介したと思いますが、検診だけでなくすべての検査を行うかどうかは、いろいろ考えなくてはなりません

例えばHIVのスクリーニング検査があります。これの感度はも99%以上です。加えて特異度も99%以上です。こんな検査はほとんどありません。ちなみに感度というのは「陽性のものを陽性と診断できる力」であり、特異度は「陰性のものを陰性と判断できる力」です

ちなみに肺がん検診で胸部単純写真の感度は36~80%と幅があり、特異度は90%。胸部CTでは感度が90%で特異度が49~89%と報告されています。

胸部単純写真は見落としが多くて(大きくなるまでわからない)、胸部CTは癌じゃないのもひっかけるので偽陽性が多いということです。

それを考えるととんでもない検査です。そういうことで肺がん検診は打ち切りになりました(アメリカで)

 

それはさておき・・・有名な話ですが検査にはすべて検査前確率というものがあり、これが検査後の確立に大きく影響します。一般診療では検査前確率は僕たち医師が患者さんから情報を聞き出し、その結果としてそれぞれの病気がどの程度の可能性があるかと判断してきます。

ここでは検診、スクリーニングですので検査前確率は「有病率(病気の人の割合:日本でも10万人当たり○○人と出されています)」となります。ではもう一度HIV検査に戻ります。感度・特異度が極限までよい検査ですが、有病率によってこれだけ検査の意味に影響します。

 

有病率が1%程度でもあればよいのですが、有病率は0.01%と低いです(学生の皆さんに計算させているのは、有病率0.01%ですのでHIVを想定して出しております)

http://georgebest1969.cocolog-nifty.com/blog/files/hivtest.pdf

この記事では統計学的な有病率よりも高いことを想定していますが、仮に10倍あったら偽陽性率67%、陽性率33%になります。統計学通りだと下のようになります(これは特異度を99.9%に上げて計算しているので0.1%の時の陽性的中率が50%になっていますが、要するにこれより低くなります

これが医療世界の常識であり、すべての医師は検査の意味を考えながら「検査前確率はどの程度と踏んで、この検査の結果でどう変わるのか」ということを考えるわけです。

 

すなわち検査前確率という意味での有病率が重要ということになります。

 

アメリカの話が出ていますので少し書きますが、アメリカは予防医療に力を注いでいる国ですが無駄もできるだけ省こうとしています

アメリカの側が出している検診やスクリーニング検査の意味に関して統括しているのは「米国医療研究・品質調査局」のしたにある米国予防医療専門委員会(http://www.ahrq.gov/professionals/clinicians-providers/guidelines-recommendations/uspstfix.html)や米国指針情報センター(http://guideline.gov/)になります。

いつ、どのようにスクリーニングを、どのような人間が受けるかを示しています。

アメリカではすべての人が同じように検診を受けることは有病率の上で無駄であるという考えから、すべての人のルーチンの検診を推奨していないのは事実です。しかし、がんのリスクがある人を対象にスクリーニングをするのは重要だといっています。

そこのデータを示しているのがアメリカのすごいところで、日本はルーチンにやっている。それだけです。要は無駄が多いという話ですね。

 

ちょっとわかりやすいように例を挙げますと、前立腺がんにはPSAという簡便で感度・特異度もそこそこ良い(70%前後)検査があります

さて、PSAという検査を何歳から行うか・・・。30歳の男性に行う人は医師じゃなくても考えないのではないかと思います。仮に30歳くらいの男性が「祖父が前立腺がんで亡くなってしまい、心配なので検査をしてほしい」といったとします。だとしても有病率が0に近い。

じゃぁ、何歳からやるかというと米国では75歳未満には推奨しないというのがでています。これはアメリカで55歳から74歳の男性を対象に検診の意義を調べ、早期診断はできたが、死亡率に有意差が出なかったというものが理由です。ヨーロッパでは50~74歳で、死亡率は若干低下したが1400人が検診を受けると1人前立腺がんの死亡が防げるという結果です(ヨーロッパの研究はNew England Journal of Medicine 2009で発表されています)

まぁ、75歳以上では有意義かもしれませんが…・まだそこら辺も不明というところですね。75歳以上になると寿命が近づいてくるので,全生存率の向上に寄与しなくなってきます

 

それを意味するのは大腸がんの話です。大腸がんはどうですかと言えば平均的なリスクの人に関しては50歳から開始して75歳までと書かれています。76~85歳はルーチンに行わないように推奨され、86歳以上はスクリーニングを行わないように推奨する…と書かれています。ちなみにリスクを持たない患者は便潜血で、リスクのある人(1親等以内に大腸がんの患者がいるなど)は内視鏡検査を併用する・・・など検査まで書かれています。

他にもいろいろなことでいろいろながんのリスクなどを評価し、「この患者は検診を受けるメリットがあるが、患者は検診を受けるメリットがない」という評価をして、無駄なくやっているだけです。

 

決してアメリカはがん検診をおろそかにはしていません。

ちなみに肺がんに関しては無症状の患者に対して行うには根拠が少なすぎるとかかれており、推奨されていないのは事実ですが偽陽性率が多く…という記載もあり、検査の向上によっては検診も出てくるかもしれません。

なんといってもアメリカの死亡率1位の癌ですから。

 

胃がんに関してはアメリカの話を日本に持ってくること自体が間違いで、食塩摂取の多い日本。ピロリ菌も住み着いている人が多い日本。胃癌の発症率も高いですので、アメリカのように胃がんの少ない国(日本より有病率が低い。上を見たらわかりますが有病率の変化は検査結果に大きく影響します)の話を取り込むと失敗するかもしれません。

 

本当はルーチンに検査をするには「それだけの有病率がある」ことに加えて、検査の感度・特異度がよい(肺癌はどちらの検査でも感度 or 特異度が低いわけです)ことが条件です。

そして有病率は患者さんの年齢だけでなく、喫煙するかしないか、飲酒、職業・・・など様々な因子で決まってくるので、そこを踏まえた検診計画を作成するのは意味があるかもしれません。

 

そういうことで「患者の選択性」や「検査法の改善」で変わるかもしれません。もっというと治療技術の発展で、早期診断の意義が乏しくなれば検診の意義も薄れます

 

まぁ、その辺をしっかり考える必要性はあると思います

 

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西洋医学と東洋医学:そしてがんと免疫

2013-03-24 11:55:39 | 医学系

こんにちは

 

先程コメントにも書きましたが、桜が満開になりましたね。家のベランダからも花見ができる感じです。まぁ、花より団子というのが本音ですが。

 

さて、本日はちょっと僕の医学的なものの見方を少し書いてみようと思っています。

 

よく、西洋医学と東洋医学といいますが、西洋医学は一般には「原因」に対して「原因をつぶす」という考え方をしています。あることが起きていることにより患者さんの症状が出ていたり、つらく思われているのであればそれを解消しようという考え方です。

がんがあるなら取り除く、抗癌剤でつぶす。出血しているのであれば、止血する。

 

そんな簡単な話です。

 

東洋医学のほうは「体が最も良い状況から、ずれてしまってるので、最も良い状態に戻す」という考え方です。

すなわち原因はいろいろあると思いますが、体がよい状況になっていない。

 

例えば何らかの病気のため「体力が衰え」「血流が弱っていて」などということがあれば、それをもとの状況に戻すような薬をチョイスしていきます。

 

この2つの考え方で患者さんを診ていると、いろいろな診療手段が出てきたりします。

ただ、基本となるのは僕の中ではやはり「西洋医学」です

 

この患者さんを苦しめている原因は何か

 

そこに目を向けなくては、完治するというのが難しいです。もちろん、自然に回復するような疾患(風邪などのウイルス性疾患など)は原因がわかることよりも、体調管理ということになりますし、医師としてもできることが対症療法(症状に合わせて、患者さんの辛い症状を取る)ですので、実は東洋医学を中心に組立てたりすることもあります(というか、組み立てます)

 

患者さんを苦しめる原因がある。それに対して有効な治療法があるのであれば、それを行うことが患者さんに対してメリットがあります。

原因に対して有効な方法がないのであれば、どちらかというと東洋医学的な「患者の今の状態」を中心に考えます(緩和ケアも同じような考え方でやります。まぁ、西洋医学的な考えも併用してますが)。

 

簡単に書くとそれだけです。

 

僕は先程、コメントに書きました(西洋医学の限界?:パラダイムシフトは重要だが、その段階ではまだないと思う)が、学生時代から「腫瘍を撲滅したい。そのためには免疫を勉強しなくてはならない。がんの生物学を勉強しなくてはならない」と考え、血液内科を希望しました。それは今でも変わりません。

 

がんにかんしても「腫瘍の存在」により「患者さんが生命の危機にある」ことですから、腫瘍に対してよい攻略法があるならそれが一番です。

 

しかし、なぜ「がん」が発生するのかを考えると次のような結論にいたいました。

「がん細胞が宿主の免疫を回避するシステムは何か?」

「がんの発生母地は幹細胞のはずであり、がん幹細胞を抑え込む方法はなにか?」

です。

 

個々のがん細胞を考えると、現在の医学が進んでいる「オーダーメイド治療」になってしまいます。それは素晴らしいことなんですが、どうしても個々の患者さんごとの対応になります。

Aさんの腫瘍の特徴はBとCという物質を持ち、これが腫瘍化に関連しているのでBとCをつぶすという考え方です。これは西洋医学的な「腫瘍が発生する原因」である「遺伝子」に目を向けたものだと思います。

 

これはこれで本当に素晴らしいし、満足のいく結果が出ています。血液領域で・・・慢性骨髄性白血病という疾患は以前は2~3年でほとんどの方が亡くなっていたにもかかわらず、現在は5年生存率は9割という疾患です。他にも様々な癌種で「分子標的薬」が活躍しています。

 

しかし、どうしても幹細胞を根本的につぶさないと「その薬」に耐性を持ったがん細胞が発生してきてしまいます。「がん」は1種類ではなく、複数の性質をもった細胞のあつまりです。私たちが一個の受精卵から誕生したように、一個のがん幹細胞から様々ながん細胞が発生してきます。

 

がん領域で「がん」という原因に目を向けた後に「宿主」である患者さんに目を向けると、免疫はどうなのかという考えになります。通常、毎日発生しているがん細胞を私たちの免疫は確実につぶしていってくれています

 

それをどういうシステムでがんは回避しているのか。

僕は本当は「がんが免疫から逃げるシステム」を解明する研究をしたいと思っています。それを確実に抑え込めるようになればがんというのは発生しなくなりますので。

もしくは、がん幹細胞を確実につぶす方法は何かです。もし、白血病幹細胞だろうが肺癌の幹細胞だろうが共通して持っていて、なおかつ人間の正常な幹細胞にないものがあればそれをつぶすという話になります(これは西洋医学的な発想ですが)。僕の中ではそういうものが見つかれば、それこそワクチン接種してやりたいと思っています。

 

がん幹細胞共通抗原の予防接種

 

これが僕の将来の目標です。

もし、永久にがん細胞共通抗原を発現した細胞をつぶし続けることができれば、がんは発生しなくなるはずです

 

まぁ、今の段階では夢物語です。

僕自身医師としては中堅くらい(もうすぐ10年目の医師になります)で、研究者としてはひよこであります。ただ、この目標を持って医師として活動し続ければ、目標を達成することもあるだろうと思っています。

 

誰かが達成してくれて「がん」という疾患を世界中から駆逐してくれれば、僕の医師としての目標は達成されて、あとはのんびりできればなぁ・・・と思ったりもしています。

 

これが医師としての目標ですが、今の時点では腫瘍免疫に関しては発展途上であり、それ故に僕は目の前の患者さんと目の前にいない患者さんに対していろいろできればねと・・思っています

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また

 

 

P.S

ちなみに、がん共通抗原のワクチン接種…と書きましたが、すごく難しいです。有益性に関しては数十年スパンの多くの治験参加者が必要になります(評価できないでしょうw)し、有害事象はそういったことにより自己免疫・アレルギーの発生する可能性を考えなくてはなりませんしね。

そういうことも含めて、将来やれたら面白いなぁと思っています。

コメント (9)
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