こんばんは
今日も実験を中心に、後輩や他の診療科の先生からの相談の対応をしながら1日を過ごしておりました。最近、外来に復帰したせいもあるかもしれませんが、1日に1回は他の診療科からの相談を受けているような気がします。ちなみに今日は3件でした。
細胞のソーティング(目的としている細胞を集めてくる)をしている間に、一冊の本(教科書)を読んでいるのですが、知識が少し増えると疑問が生じたり、何かを思いついたりします。先日の講演会も話を聞いて「はっ」と気が付くことがいくつかあり、そういった情報をかき集めてみているところです。
勉強するのは「自分で考える土台」を作るためであって、勉強しなければそういったこともできない。だから勉強は大事だし、面白いと思っています。
さて、本日は少しホジキンリンパ腫の説明に関して僕なりに書いてみようと思います。
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○○さんはリンパ節が腫れ、熱や寝汗などの症状があったため当院を受診されました。診断をつけるためにリンパ節生検を行い、本日は結果を説明するために来ていただきました。
○○さんの病気はホジキンリンパ腫という病気です。
ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫の一つの種類です。悪性リンパ腫は「リンパ球」という抵抗力の一成分が悪性化して、どんどん増えていってしまう病気です。リンパ腫というのは基本的にある段階の細胞が「リンパ節」で固まりを作って増えていきます。
悪性リンパ腫は大きく分けると「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2つに分けます。これらは標準治療が異なるからです。ホジキンリンパ腫の標準治療は「ABVD療法」と言います。もう片方の標準治療は「CHOP療法」と言います。
(ホジキンリンパ腫には「古典的ホジキンリンパ腫」と「結節性リンパ球優位型(NLPHL)」に大きく分け、前者はさらに細かく分かれます。NLPHLは予後良好と言われますが、基本的な治療は一緒です。)
○○さんの病気はわかりましたが、病気の状態、どこに病気がいるのかがまだわかっていません。治療前にどこに病気があるかというのは、治療のやり方(回数、放射線を併用するかなど)に大きく影響します。その為、治療を行う前にしっかり確認する必要があります。
一つはPET-CTという検査を行います。PET-CTは現在実施できる検査の中で「固まっている」癌細胞を見つける力が一番高いです。造影CTではStageⅡと言われてしまう病変が、時々StageⅢとして見つけることができたりします。これで見つけられないような小さな病変であれば、それまでの治療で消えてくれるだろうと思っています。
ただ、リンパ球というのは血液の一成分なので骨髄というところに入ってしまうことがあります。それはばらばらに入り込んでいるので、PET-CTでも見つけられないことがあります。それに対して骨髄の検査を別に行います。
これらの検査で「治療前にどこに腫瘍があるのか」を確認して、治療に入っていきます。
治療法ですが、先程も申しあげましたが「ABVD」と呼ばれる治療法が標準治療です。世界中で様々な取り組みが行われましたが、この治療は多くの患者さんを治し、かつ有害事象(副作用)が少なかったのです(さらに強い治療でよい結果が出ている報告もなくはないですが、現実的に日本ではABVDが行われていますし、治る確率も比較的高いです(7~8割くらいだと思いますが、2年くらいあいての再発であればABVDで再寛解を目指した後に自家移植を行ったりします。逆に10%くらいで治療抵抗性の方がいて、治療法に悩むことがあります。僕も1人の患者さんは同種移植まで行いました)。
ABVDというのは「ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン」の4つの抗がん剤の併用療法です。ドキソルビシン(アドリアシン)は骨髄毒性といって血液の数値が下がることが問題になります。白血球が低下すると肺炎などになりやすくなります。
また、脱毛は人によってはかなり抜けますが、必ず生えてきます。
ドキソルビシンやダカルバジンは嘔気も出たりしますので、吐き気止めを使ってそれを抑えます。また、ダカルバジンは血管痛が出ることもあります(というか、多いです。遮光することで出にくくなるといいますが、どうしてもだめなときは・・・本当にしょうがないので中心静脈カテーテルを入れたこともあります)。
ブレオマイシンは肺のダメージ(肺線維症など)が出たりすることもありますし、アナフィラキシーを起こすことが比較的よくある(一度ひどい喘息症状でSpO2 60%とかまで低下した患者さんもいたので、油断はしないことにしています)します。
ビンブラスチンは神経毒性と言って、手足のしびれなどが出たりします。
他にも長期的には2次発癌と言って他のがんが出る可能性も0ではありません。しかし、この治療法が最も副作用が少なく、治療効果も高いことがわかっていますので、まずは頑張って治療をして病気を治してしまいましょう。
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と、こんな感じでしょうか。
病期(Stage)がわかれば、ABVD療法の回数なども説明できますし、大きな腫瘍があると放射線療法を行ったりします。
ちなみにうちでは進行期ホジキンリンパ腫には4コース目終了時にPET-CTを行い、病気が確認できなければ(完全寛解)、ABVDをあと2回追加して合計6コース。もし病変があれば4コース追加して8コースにしています(まぁ、だいたいの場所は同じでしょうけど)。
限局期であればABVD療法は4~6コースで十分です。
なお、限局期に加えて予後良好群(NEJM 2010のやつですが、細かい設定を忘れました)であれば、さらに治療強度を下げてもよいという報告もあります(ただ、まだまだ微妙です。恐らく、PET-CTだったり、さらに病気を細かく見つける能力があればそうなっていくと思います)。
この治療は
第1群:最も強力な治療を受けた、ABVD(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、およびダカルバジン)化学療法を4サイクル投与後に総照射量30GyのIFRTを実施。
第2群:第1群と同量・同サイクルのABVD化学療法の後に、照射量を20Gyに抑えたIFRTを実施。
第3群:ABVD化学療法を2サイクル投与後に総照射量30GyのIFRTを実施。
第4群:ABVD化学療法を2サイクル投与後に照射量20Gyの放射線治療。
で、有効性は同等で、副作用は抗癌剤の量が少ない方(放射線ももちろん)が少ないという結果でした。
治療強度を減らすというのは大変なことです。
どういった患者さんにはこの程度の治療でよい・・・ということはなかなか難しいです。
先週の土曜日の講演会で「GCB typeのDLBCLにたいしてR-EPOCHがとても有効である」というような話がありました。R-EPOCHの有効性は確かに高かったのですが、R-CHOPで治る人と治らない人・・・すなわちR-EPOCHの方が良い人が誰か・・・というのがポイントになってくるはずです。
あの試験デザインは初発の患者さんなので再発の場合(再発すれば死にやすい腫瘍はすべて死んで、たちの悪い腫瘍が増えてきます。同じ結果にはなりません)とは違います。どの患者さんがR-CHOPで治らないのかを調べる必要があります。
検査の能力が高くなったり、この治療が効くか効かないかのバイオマーカーが見つかるというのはとても大切なことなのです。
近藤誠医師が「がんもどき」という言葉を使われます。「がんもどき」であるかないか、それを見つけるものがあれば素晴らしいことですが、今の医療はそれを見つけていません。
人生に「もし」はないので、その患者さんが治療を受けなかったらどうなるのか・・・というのと治療を受けたらどうなったのか…ということは比べられません。それ故に臨床試験というものが組まれていますが、せめて「がんもどき」はこの性質がある、この分子マーカーが発現している・・など根拠を持って行ってくれたらどれだけ立派な先生に見えるかと思ってやみません(それを見つけた人がいれば、多くの患者さんに貢献した人ということになりますが・・・・)。
話を戻しますが、ホジキンリンパ腫には予後因子がいくつか報告されています。
- 血清アルブミンの値が4g/dl未満である
- ヘモグロビンの値が10.5g/dl未満である
- 男性である
- 臨床病期がIV期である
- 年齢が45歳以上である
- 白血球数が15,000/μl(1μlあたり15,000個)以上である
- リンパ球減少がある(600/μl未満または白血球数の8%未満)
というやつですが、ホジキンリンパ腫は基本的に炎症を伴っていることが多いので、アルブミン・貧血・白血球数などはそれを反映しているのだろうと思っています。
しかし、僕は前も書きましたが患者さんにそれを言うつもりはないですし、経過観察時にマーカーや様々な数値のデータは渡しますが、診断時のデータは病理検査の結果など以外は渡しません。
CHOP療法を使う悪性リンパ腫の説明(悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方))でも、白血病に関してもそうですが、治療法が変わるならともかく変わらないなら、患者さんが「治るんだ」と思うことが最も重要だと思っています。
それゆえ「効果に乏しい」というような状況にならなければ予後の話は一切しません。したとことで患者さんのメリットになるかならないかといえば、僕はメリットはないと思っています。
まぁ、そんな感じで話をしています。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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それでは、また。