土曜7時からTBSラジオで放送されている『ジェーン・スー 相談は踊る』という相談番組がある。
その番組の中で、過去の相談とその回答を紹介するコーナーがある。
雑誌『週刊プレイボーイ』に1979年から81年までの約2年間、芸術家の岡本太郎さんによる『にらめっこ問答もんどう』という人生相談コーナーが掲載されていた。
その中から東京都19歳男性会社員からの相談
『ぼくは今日、プールへ行って、愕然とした。彼女と一緒に行ったのだけど『さあ泳ごう』と更衣室から出てきた彼女の化粧を落とした顔が、まるで別人のように変わっていたからだ。正直いって、その顔は化粧をしていたときの顔にくらべると、あきれ返るようなブスだったのだ。こんなブスに、ぼくは「好きだ」といってしまったのだ。結局、ぼくが好きだったのは化粧をしていた彼女の方だったのだろうか。確かに化粧をしていなくても、彼女の心は少しも変わらないのだが、少なくとも、幻滅を感じたのは事実なんだ。でも、こんなふうに思うのはまちがっているだろうか』
番組では、この失礼な相談に対し岡本太郎がどういう回答をしたのか予想していた。
その日MCを務めていたのはジェーン・スーと小林麻耶。
「すっぴんは爆発だ」とか、芸術家としてそこまで変わる彼女の化粧の上手さをほめたのではないかといった声が上がる。
だが、予想を覆すこの相談に対する岡本太郎の愛に溢れた回答がささる。
岡本太郎『困ったね、深刻でもあり喜劇的でもある。その女性も気の毒だな、彼女は自分が素顔では美しくないと思うから化粧をしているんだろう。その素顔を君に見せたってことは、もう君と一体になったと思うって安心したんだろうな。それが油断だったってわけだ。化粧というのはだね、もともと化けるのだからその下に素顔があるってことは自明の理だよ。化粧と素顔が交じり合って女性の魅力ってものはもともとあるわけだ。素顔に感動できないってことは惚れてないってことだな、それでは無理だよ。そりゃ、一夜のセックス相手としてなら化粧顔だけで済ませるだろうが、ほんとうに一体となって付き合うなら、やはり素顔に喜びを感じなければいけないな。化粧に目のくらんだ自分の軽さを思い知らなきゃいけない。女を愛するにはあまりにも無知な自分だったと反省すべきだろうね。化粧顔だけに惚れた、軽薄だった自分自身にさよならを言うべきだ。女性は敏感だから、そんなあなたの様子を見て自然と離れていくよ』
『芸術は爆発だ』などの名言で有名だが、それは岡本太郎の一部分を切り取ったに過ぎない。実はこんなに素敵な人だったのだ。