長い廊下を歩いていると、ふと、さっきもここを歩いたように感じることがある。
気がついていないだけで、本当はもっと長い時間、ずっと歩き続けているのかもしれない。
そんな感覚を覚えるときがある。
疲れているのかもしれないし、歳のせいで体がいうことをきかなくなっているだけかもしれない。
やがて、出口があり、そんな事は忘れて、目的地へと向かう。
昔読んだ本で、空間は曲がっていることもあり、曲がった空間の中では光も曲がっているため、人間の目には真っ直に感じるけれど、実は入り口と出口が繋がっているような空間もあるのかもしれないと。
何時間も同じ空間をぐるぐると歩き続けているけど、時間も繰り返されているため、人間には、一度だけ通る空間だと認識される。
ときには、少し時間軸がずれたような空間が、交わっていることもある。
向こうから、歩いてくる人は、実はさっきもすれ違っていたかもしれない。
でも、お互い、その事は知らない。
薄暗いビルの廊下を歩いていると、向こうから一人の男が歩いてくる。
僕と同じようなスーツ姿で、鞄を肩からかけて、上着を手にしている。
すれ違うときに、その男の顔をチラリと見る。
それは、間違いなく自分の顔だった。
しばらく歩いて後ろをゆっくりと振り返る。
もう一人の自分は、そのまま、歩いて行ってしまった。
やがて、うしろ姿が見えなくなると、再び歩き始める。
そんなことはすっかり忘れて…
何だか、最近疲れが取れないなと感じながら。