独身の頃、アパートで暮らしていたある日。
その頃、付き合っていた彼女M子と半同棲生活を送っていた。
「今夜はY美の所に泊まるね」
そう言って出掛けたM子。
Y美とは会ったことはないけどM子の話しには頻繁に登場する彼女の友だちである。
その夜、一人で部屋にいると、M子の友達のS江から電話があった。M子と至急連絡がとりたいと言う。その頃は携帯もポケベルもない時代だ。
「Y美の所に泊まるって言ってたよ」
M子、Y美、S江の3人は大学のとき同じ寮にいた仲だと聞いている。Y美とは会ったことはないけど、S江とは何度かM子と一緒に食事をしたりしていた。
「Y美の電話番号を教えるから、M子にすぐ私に電話するように伝えて下さい」S江は言う。
「自分で電話してください」
僕はそう言ったが、どうしてもと言われ、押しきられてしまう。
S江との電話をいったん切り、しぶしぶ教えられたY美の番号に電話する。
「はい」
恐らくY美だろう女性の声がした。
M子がそちらにお邪魔していると聞いています。連絡が取りたいのでM子に代わってくれと言う。
「え?M子?来ていませんよ」Y美は答える。
「……」
どういう事だろうか?
M子は僕に嘘をついて、どこかへ出かけたということになる。
どこだろう…
もしかしたら別の男と会っているのだろうか。
普通に考えればM子は浮気をしているということになるのだが、何か事情があるのだろうとその時は考えた。
その後M子を問い詰めると、簡単に浮気を白状した。それがきっかけで、M子とは別れてしまう。
恐らくS江はM子の浮気を知っており、それを分からせるために僕に電話してきたのだと思う。
お節介だが、あの電話がなければ僕はM子の浮気には全く気がつかなかったと思う。
ふと、そんな事もあったなと40年近く前のことを思い出した秋の夜だった。