比較的大きな書店で、いくつかレジがあり、客はフォーク形に一例に並んでいた。僕も本を持って列の後ろに並ぶ。
そこへ70はとうに過ぎているであろう、お年寄りの男性が列に並ばず、空いたレジのカウンターに商品を差し出し、会計をしようとする。
「並んでますよ」
列の先頭にいた若い男性が声をかけるが、老人のレジまでは距離がある。
店員は「列の後ろにお並び下さい」と言うべきだったかもしれないが、その老人
の商品を受け取り、会計をしてしまった。
僕は年寄りと同居しているからよく判るけど、年寄りは状況判断が苦手だ。
レジがあるカウンターの横にみんなが並んでいることに気が付かなかったのだと思う。
店員としても、歩行速度がかなり遅い老人に対して、後ろに並べとは言いにくいという気持ちはあったと思う。
普通であれば、並んでいる客も大目にみることが多い場面である。
ところが、列の先頭の若い男性は店員に食ってかかったのである。
女性店員も平謝りを続けるが、男性の怒りはなかなか収まらない。
怒りの矛先を老人にも向けるが、老人は案の定細い声で「気がつかなかった」と答えた。
男性の執拗な抗議が続く。やがて女性店員の上司が出て来て対応を始める。
男性の気持ちも解らないではない。筋は通っているけど、明らかに行き過ぎである。
やがて僕の会計が終わり、店を後にするが、まだ男性の抗議は続いていた。
ルールを守ることは言うまでもなく大切である。でも、それ以上に老人を労る気持ちは大切である。
歳を取ると目も耳も衰え、歩くのも遅くなり、力も弱い。何より状況判断といった当たり前のことが困難になる。
でも、老人にも買い物をしたり社会生活を営む権利はあるはずだ。
みんながそのことを理解すれば老人にとって、もっと住みやすい世の中になると思う。