小学生低学年の由香ちゃんは放課後、公園で友達4,5人と『だるまさんがころんだ』をして遊んでいた。
そこは大きな木のある公園。その木には横に太い枝が張り出していた。
じゃんけんで負けた由香ちゃんが鬼になり、大きな木にもたれかかって目をつむる。
「だるまさんがころんだ」
そう言っている間にみんなは由香ちゃんに近づき、言い終わると動きを止める。
由香ちゃんは言い終わってすぐに目を開けて振り返る。
由香ちゃんは言う速さを上手に工夫するので、みんなはなかなか動きを止めることが出来ない。
一人、二人、動きを止められないで、由香ちゃんに見つかり、少し離れた場所に移動していった。
やがて、男の子一人だけになる。
「だるまさんがころんだ」
由香ちゃんが振り返ると、最後の男の子も動きを止められず、由香ちゃんは名前を呼ぶ。
全員の動くのを見つけたので由香ちゃんの勝ち。
次は最初に見つかった子が鬼になる。
「鬼は舞ちゃんだね」
由香ちゃんが言うとみんなは意外なことを言う。
「まだ、しんちゃんがいるよ」
「え? しんちゃん?」
でも、誰もいない。
「誰もいないよ、わたしの勝ちだよ」由香ちゃんは言う。
「いるよ」みんなが言う。
由香ちゃんは少し混乱して尋ねる
「しんちゃんて?」
「秋元伸二くんだよ」
「もう忘れたの?」
秋元伸二、その子は1か月ほど前に交通事故で死んだはずだった。ひどい事故だったと聞いている。
みんな、私をからかっているのかしら?
「誰もいないよ」由香ちゃんは繰り返して言った。
「しんちゃんがいるよ、早く目を閉じて続けなよ」
男の子の一人がそういうと、みんなが「そうだよ」と口を揃える。
あまりみんなが強く言うので、由香ちゃんは仕方なくゲームを続けることにした。
「だるまさんがころんだ」
目を開けて振り返る。
やっぱり誰もいない。
「しんちゃん、ちゃんと止まったね」
誰かがそう言った。
みんなが意地悪をしている。由香ちゃんはそう思って泣きそうになった。
死んだしんちゃんがいるはずがない。
それでもゲームを続けるしかなかった。
「だるまさんがころんだ」
何度か続けると、誰かの手が由香ちゃんの肩をぽんと叩いた。
「タッチ」
その声は死んだはずのしんちゃんだった。
由香ちゃんは目を開けてゆっくりと振り返る。
しんちゃんは大きな枝の下をぶら下がるようにさかさまに枝を歩いていた。
だから、みんなには見えて由香ちゃんだけには見えなかったのだ。
由香ちゃんのすぐ目の前にしんちゃんの逆さになった顔があった。
「由香ちゃんの負けだよ、また由香ちゃんが鬼だよ」
しんちゃんはそう言って目を大きく開き、にやりと笑った。
青白い顔をして、交通事故で頭が半分無くなっていた。