「摘んじゃだめよ。お花さんが可哀そうでしょ」
とお母様方はおっしゃる。
女の子は素直だから、のばした手をひっこめる。
そればかりか
「かわいそうでしょッ!」
と得意げに小さい弟妹にも教えるのである。
わたしが子どもの頃はそうではなかった。
花壇に植えられた花は人のものだから摘んではいけない。
でも、野の花は誰のものでもないから、
いくら摘んでもよかった。
しっかりにぎって持ち帰ってみれば、
くったりしおれてすでに見る影もない。
レンゲ。タンポポ。カラスノエンドウ。クローバー。
可哀そうだなんて誰も言わなかった。
それは子どもに許された当然の権利であった。
花摘みをしない女の子なんて女の子じゃない、
とわたしは思っている。
色の美しさも、こまかな造形の不思議さも、
みずみずしさも、しなやかさも、
手にとってみなければわからない。
ほろりと散ってしまうはかなさも、
細い茎の見かけによらないつよさも、
指にざらついたり、痛いとげがあったりすることも・・
クローバーの花をあつめるとこんなに香りがするなんて、
摘んだ子しか知らないことだ。
Live in clover
(=何不自由なく暮らす)
この言い回しを覚えたのは、たぶん中学生のとき。