閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

「金のゆびわのスープ」

2023-02-18 15:32:47 | お知らせ(新刊)

幼年童話の新刊です。
『金のゆびわのスープ』(あかね書房 2023年2月刊)。<グリムの本だな>シリーズ3冊目。
絵は、昨年『はるとスミレ』で絵本デビューされたイラストレーターの eto(エト)さんです。

 

前2冊『ねこのおひめさま』『こわいものなしの六人』と同じく、「え、グリムにそんな話あったっけ?」と首をかしげていただければしめたもの(笑)。
原題は「千枚皮」または「千匹皮」といい、なんとなく「一反木綿」や「ろくろっ首」たちを連想する(しません…?)妖怪系のイメージがつきまとう。でも、なかみは全然そうではなくて、正統派お姫さま物語。何不自由なく育ったお姫さまが、お城を出て苦労したあげく幸せをつかむというお話。
こっそり城を抜け出すお姫さまが、身分を隠すために着ていくのが、千枚皮=パッチワークの毛皮のマント。
それが呼び名になり、そのまま昔話のタイトルにもなっているわけですが…。


ドイツ語タイトルの「Allerleirauh」(Allerlei あらゆる種類の+rauh 毛深い)は「アラライラオ」みたいな発音になるらしく。
お姫さまでなくなったお姫さまは、生きていくために、台所の下働きに雇われ、変な名前で呼ばれて暮らさねばならない。その象徴としてのマント、そして名前。この2つは、物語の中で非常に大切なのですが、困ったことに、どうしてもうまく日本語になってくれない。
それ以前に、低学年向きは漢字制限が多いので、「千枚皮」の「枚」も「皮」も使えない、という壁がクリアできず…(グリムの本だな=タイトルで悩むシリーズ!)
マントの他に、三枚のドレスとか、三つの黄金アイテムとか、華やかな舞踏会とか、素敵なものがいっぱい出てくるのに、「千枚皮」という妖怪味ラベルが貼ってあるせいで、現代の子どもたちが出会い損ねたら、もったいないんじゃないかなあ…
ということで、全然違うタイトルをつけてみました。

この話のパターンは、日本だと御伽草子にある「鉢かづき」あたりが近いのかなと思います。でも、世をはかなんで泣いてばかりの鉢かづきちゃんと比べると、こちらのお姫さまは行動力があり、しっかり自分の意志を持ち、したたかと言えるような面もあって、そのへんの和洋の違いが興味深いです。
結婚で終わるハッピーエンドは、ありきたりとはいえ、なんといっても昔話のお約束、基本中の基本。
ただしラストの2ページは、グリムにはない閑猫オリジナル。なるべく原話に忠実にを心がけたけれど、ぎりぎりこれくらいは、書かせていただいても、いいかな、って(笑)

もし現代版を作るんだったら、スープ作りの腕を活かして、レストラン経営で大成功…とかね。王さまを巻き込んで、貧しい人々に温かい食事を配るボランティア活動を…とか…。
各自あれこれ想像をめぐらせてみるのも楽しいでしょう。

イラストの eto さんは、童話の挿絵のお仕事はこれが初めてとのことですが、美しいお妃さま、愛らしいお姫さま、悩める老王、隣国のイケメン王さまを、生き生きと、とっても素敵に描いてくださいました。
毛皮をかぶって台所で働くみじめなシーンには、ちょっぴりコミカルな味を加えて、お、けっこう適応力あるじゃん、とも思わせてくれたり。
そこから一転、とっておきのドレスをまとって舞踏会に向かう姿は、お姫さまらしい気品と決意があふれていて、思わず「ブラヴォー!」と拍手。
すべてを「目に見える形」に、「見たかった形」にしてくださった eto さん、ありがとうございました。

***

ついでに。
この話に出てくる「スープ」ですが、Brotsuppe =パンのスープ。というのは、コース料理の最初に供されるコンソメスープみたいなものではなく、具沢山の、それだけで軽食になるようなもの。
オニオングラタンスープとか、ポタージュのクルトン大増量とか、そんなイメージでしょうか。
ドイツの伝統レシピでは、焼きたてでない、かたくなったライ麦パンで作るのがよい、とか。
お客を招いての舞踏会は、もちろんお食事も出るけれど、あんまりおなかいっぱいだと踊れませんし…
(この舞踏会って、若い独身の王さまのお見合いパーティー、みたいな意味もあるのよね?)
どっちみち主催者の王さまは、ゆっくり食べてるひまもないでしょう。
終わってお客を見送り、ひとりになって、ふうやれやれ、というところで、お夜食を召し上がる。宴のあとの雑炊とかお茶漬けみたいなもの、ね。
こういうことを調べたり考えたりするのが本当に面白いのでした。

 

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あまぞんさんで「ソフトカバー」と表示されているのは、間違い。この本はハードカバーです。

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