ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

分娩に伴うリスクの説明責任

2005年12月26日 | 出産・育児

正常妊娠経過の妊婦さんとその御家族に対して、分娩時に実際に起こりうる様々な産科疾患のリスクを事前に説明して、きちんと理解してもらっておくことは非常に重要なことだと私は思っています。

私の勤務する病院では、助産師さん達が両親学級用の立派なテキストを作って、妊娠中に一人当たり4回も両親学級を開催して、お産について夫婦でしっかり勉強してもらってます。特に、発症すればほとんど発症直後に死亡する、血栓性肺塞栓症、羊水塞栓症などの重要な疾患については、医師が妊婦一人一人に説明書を用いて詳しく説明し、妊婦本人と夫に必ず署名捺印してもらってます。

最近では産科医療訴訟が非常に増えてます。何か異常が起こった時に事前にその説明がなかった場合は『説明責任が果たされてない』との理由で敗訴になる可能性があります。私としては、万が一、妊娠中に何か予想外の異常が起こった時に、患者や家族から、『そんな可能性があるなんて全く聞いてなかった。知っていれば自分でももっと注意したのに...』などと後から言われるのは絶対にいやだし、病院としてできる限りの予防対策をし、異常が起こった場合は直ちに適切な処置が実施できるように万全の備えをしておきたいと、常々思っています。

『妊婦を不安にさせてはいけないから』などと言って、起こりうる産科疾患のリスクの説明を一切せず、異常が起こった場合の対応策も普段から全く考えてないような産科施設がもしこの世にあるとすれば、それは無責任きわまりない施設と私は考えます。