正常分娩というのはあくまで結果であり、最終的に正常分娩になるかどうか?は分娩が完全に終了してみないと誰にも予測できません。
例えば、妊娠経過には全く異常が認められず、分娩経過も全く正常だと思っていたのに、児娩出後、一瞬のうちに3000mlを超えるような大出血となって、あたり一面が血の海となって母体の血圧も測れなくなるようなこと(弛緩出血、出血性ショック、産科DIC)も、産科では決して珍しくなく、予測はできません。そういう場合は、母体の救命のために直ちに大量の輸血を開始し、全身麻酔下の子宮摘出手術を実施する必要があります。
たまたま、そのような母体や胎児の急変がなければ、自然分娩で『いいお産』ができて本当によかったということになりますが、それは、たまたま運よく結果的に正常分娩だったということであって、万一、分娩の途中で何か緊急事態が発生すれば、自然の経過に任せるだけでは母児とも命を落とすこともあるかもしれません。
どんな大病院であっても、正常の分娩経過であれば、分娩介助の主役は助産師であり、実質において助産院の分娩介助と何ら変わりがありません。医師は単なる傍観者でしかありません。しかし、ひとたび異常事態が発生すれば、直ちに医療の力を借りないと母児の命が危険にさらされることになります。場合によっては、産婦人科医だけの力では全く手に負えなくなることも決してまれではありません。
お産で命を落としてしまっては何にもなりませんから、『いいお産』のためには(現代の医療水準に見合った)安全性確保は絶対の最低条件です。安全性を無視しての『いいお産』はありえません。
将来の周産期医療システムに関しては、それぞれの地域によっていろいろな考え方があると思いますが、安全性確保の視点だけは決して忘れてほしくないです。