ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師不足、消えぬ現場の悲鳴

2008年04月14日 | 地域周産期医療

産婦人科・小児科の医師不足対策として、今回、産婦人科や小児科の分野で診療報酬がかなり加算されました。しかし、この加算によって得られた収益を実際にどう使うのか?については、各病院の経営陣の判断に任されていますので、ほとんどの場合、病院の赤字補填に使われるだけになりそうです。

横浜で日本産科婦人科学会の総会が開催され、全国から多くの産婦人科医が集まっていますので、この点について何人かの旧知の産婦人科医達の意見を聞いてみました。『交渉しているところなんだけど、今回の診療報酬の改定が産婦人科勤務医の待遇改善には全くつながりそうにない! 病院経営陣は今回の診療報酬改定の趣旨を全く理解してくれない!』 というような不満の声もちらほらと聞かれました。

今回、学会の会場内を一人でぶらぶらと歩いていると、医師の転職を仲介する会社の人から何回も声をかけられました。また、産科医不足で悩んでいる病院の院長や産婦人科部長などが、事務長を引き連れて、破格の採用条件を提示して積極的に勧誘しているような光景もちらほらと見かけました。

****** 産経新聞、2008年4月13日

医師不足、消えぬ現場の悲鳴

(略)

 医師不足に関しても、10、20年といったマクロでみた統計では、確かに厚労省の見通しに間違いはないのかもしれない。だが現場の悲鳴は、「大病院を頼りたがる国民気質」「訴訟リスクのある診療科を避ける医師気質」「過酷な勤務環境」「都市の病院を好む研修医の流れ」といったところに起因している。これらは人口や社会保障費の推移からは見えてこない。

 厚労省がそういった現場の実情を直視し始めたのは、ごく最近のこと。

 18年7月にまとまった報告書で、「医学部定員の暫定的調整」「大病院への患者集中軽減」といった提言を打ち出したのが転機となった。しかし、それとて実現させるにはいくつものハードルがある。

 地域医療問題を研究している東北大の伊藤恒敏教授は「厚労省の政策は付け焼き刃的で、合理性や一貫性がない。厚労省は現場の声を知らなすぎるから、実態と離れた政策が出てくる」と批判する。

 ある厚労省幹部は「現場で起きている問題を細かくとらえて、早くに政策を見直す必要性があったのかもしれない」と漏らす。

 厚労省と医療現場にある隔たりに敏感に反応しているのが、患者である国民や医療関係者らの声を拾っている国会議員たちだ。2月に立ち上がった「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」には超党派で100人を超える議員が名前を連ねた。鈴木寛議連幹事長は「医療の現場からは悲鳴にも似た声が届いている」と話す。

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 3月末に開かれた議員連盟の会合。厚労省が4月から実施される医療関連政策を説明した。だが、医師不足がどうなるのか、勤務医の労働状況がどう変わるのかといった具体像が見えてこない。

 「勤務医の労働条件をどうするかは、われわれは触ることはできない。今回加算された診療報酬をどう使うかは、病院経営者の判断だ」と厚労省幹部。

 議連の仙谷由人会長代理がこう切って捨てた。「隔靴掻痒(かっかそうよう)の感がある。病院の現場のことは知らないというのか」

 厚労省側の反論はなかった。

(産経新聞、2008年4月13日)