厚生労働省は、医師養成数について従来の「抑制」から「増員」へと方針を転換しました。医療崩壊と称される医療現場の現状を打開するために、今後の中長期的な方向性としては必要な正しい対応と考えられます。
しかし、医師総数は今でも毎年着実に増えているのに、例えば、産婦人科の医師数は長期的に激減し続けています。単純に医師の総数を増やすだけの政策であれば、現時点において医師不足が顕著な診療科や地域の医師数が、期待通りに今後増えてくれるかどうか?は全くわかりません。現状の医師配置のアンバランスが、今後ますます顕著になってゆく可能性もあります。
また、医師の養成には時間がかかる(医学部6年+初期研修2年+専門研修3~6年)ので、今、大学の医学部の定員を大幅に増やしたとしても、実際の医療現場にその増員効果が現れ始めるのは十年後の話であり、当面の数ヶ月~数年間の短期的な医師不足対策は、中長期ビジョンとは別に考えていく必要があります。
****** 朝日新聞、2008年6月18日
医師養成数、増加へ転換 医療危機受け厚労省方針
医師不足問題を受けて将来の医療のあり方を検討していた厚生労働省は18日、「安心と希望の医療確保ビジョン」をまとめた。82年以降初めて、医師総数が不足しているとの見解をとり、医師養成数の抑制方針を転換。中長期的に医師を増やす方針を打ち出した。看護師など他職種との連携強化、救急医療の充実なども盛り込んだ。
(中略)
医学部定員は、84年の8280人をピークに89年に8千人を割り、07年は7625人(文部科学省調べ)。減少は、養成数抑制の方針を打ち出した82年の閣議決定のため。97年の閣議決定でも維持された。国は06年以降、「地元枠」などとして一部で定員を増やす緊急対策をとったが、「地域、診療科ごとの偏在や不足」との立場。将来は医師が過剰になるという推計を根拠に、恒久的な医師総数の増加には消極的だった。
ビジョンでは「総数が不足しているとの認識の下で、対策を行う必要がある」とこれまでの姿勢を修正。抑制策をやめ、「医師養成数を増加させる」とした。具体的な人数は今後議論する。
ただ、医師が一人前になるには入学から約10年は必要。当面の策として、看護師や助産師、薬剤師ら関係職種との役割分担を進める▽過重勤務せずに、子育てをしながら働ける労働環境を整備する▽診療科別の医師数を適正にする方策を検討する――などとした。
(以下略)
(朝日新聞、2008年6月18日)