コメント(私見):
出産育児一時金が、来年1月から3万円増額されて、現行の35万円から38万円になることが決まりました。今回の出産育児一時金の増額は、すべての分娩機関が『産科医療補償制度』に加入することを前提に実施されるものです。しかし、分娩機関の同制度への加入率は、9月11日現在で、73.4%(病院・診療所:76.7%、助産所:53.3%)にとどまっているとのことです。同制度に加入していない分娩機関で出産する場合は、重度の脳性麻痺を発症しても補償金3000万円が支払われません。
医学の進歩によって、近年、妊産婦死亡や周産期死亡は激減しましたが、脳性麻痺の発症頻度(出生1000に対して2~4件程度)は減ってません。分娩を取り扱う以上、いくら取り扱う分娩の件数を少なくしぼって、低リスク分娩だけに限定しても、、一定の頻度で脳性麻痺が発症することは避けられません。これは、自然の摂理としてあるがままに受け入れなければならない厳粛な事実で、それを『社会の一般常識』としてしっかり定着させることが重要だと思います。
欲張ってあまり補償対象を拡げすぎると議論百出となってしまい、いつまでたっても無過失補償制度を創設できないので、とりあえずは、正期産の重度脳性麻痺のみに補償対象をしぼって、まず制度の運用開始を成功させようという考え方はあながち間違いではないと思います。正期産の重度脳性麻痺だけでも年間500~800人は発症しているわけですから、まず社会制度としてこの人たちの補償を確実に行うことからスタートし、その後だんだん補償対象を拡げていけたらいいのではないかと思います。この産科医療補償制度をまずは小さく産んで、今後、大きく育てていってほしいと思います。
個人的には、今回の産科医療補償制度は、強制加入の自動車損害賠償責任保険のような必要最低限の強制保険だと感じています。補償対象が、『出生体重2000g以上かつ在胎週数33週以上で、身体障害者等級1級、2級に相当する重度の脳性麻痺児』とかなり限定され、支払われる補償金も計3000万円と低額で、妊産婦が加入すべき保険として考えると、これだけでは全く不十分です。しかし、全妊産婦、全分娩機関を対象にした最低限の強制保険ということであれば仕方がないかなとも思います。将来的には、妊産婦死亡などにも給付されるもっとちゃんとした任意保険がいろいろと開発されて、自動車保険のように、『最低限の強制保険とセットでオプションの任意保険にも同時加入するのが世間の常識』となれば理想的だと思います。
****** 共同通信、2008年9月12日
来年から出産一時金38万円 新補償制度開始で3万円増
厚生労働省は12日、出産時に赤ちゃん1人当たり35万円が公的医療保険から支給される「出産育児一時金」について、支給額を3万円引き上げ38万円とすることを決めた。年内に政令改正し、来年1月から実施する。同日開かれた社会保障審議会医療保険部会で報告し、了承された。
引き上げは、来年1月から通常の出産にもかかわらず脳性まひの赤ちゃんが生まれた場合、医師に過失がなくても妊産婦に補償金計3000万円を支払う「無過失補償制度」が始まるのに伴い、制度の掛け金(出産1回あたり3万円)を医療機関が負担することで出産費用の上昇が見込まれるため。
(以下略)
(共同通信、2008年9月12日)