ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産科医療補償制度、余剰金が生じる可能性

2008年09月19日 | 出産・育児

コメント(私見):

来年1月からスタートする産科医療補償制度は、分娩機関が分娩1件に対して3万円の掛け金を支払い、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児に対して、医療機関の過失を証明しなくても総額3千万円の補償金が支払われる制度(無過失補償障制度)です。

補償対象がかなり限定されるため、かなりの余剰金が生じる可能性も指摘されています。もしも、かなりの余剰金が生じるのであれば、妊産婦死亡や母体の重度後遺症などもこの制度の補償対象に加えることを検討していただきたいです。

近年における産科管理の進歩により妊産婦死亡は著明に減少しましたが、未だに、羊水塞栓症、血栓性肺塞栓症、癒着胎盤、子宮破裂、常位胎盤早期剥離などで、救命が非常に難しい母体疾患も一定の頻度で必ず発症します。これらの母体疾患は、非常にまれな発症率ではありますが、いったん発症すれば急速に重症化し、最終的に救命できない可能性もあり得ます。

非常にまれな産科疾患について妊産婦やその御家族にしっかりと説明し、分娩のリスクについて一定の理解を得ておくことは非常に重要です。しかし、まれなリスクをあまりに強調しすぎて妊婦さん達を不安にさせてしまうのもどうかと思われますし、いくら事前に説明があったとしても、実際に妊産婦死亡となれば、残された御家族に納得してもらうのは非常に困難な場合が多いです。妊産婦死亡や母体の重度後遺症などについても、無過失補償制度を創設する必要があると思います。

****** CBニュース、2008年9月16日

産科補償制度、「余剰金は返さない」

「余剰が出るのではないか」「財務の透明性を要求すべき」―。来年1月から「出産育児一時金」を3万円引き上げることを承認した厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会(部会長=糠谷真平・国民生活センター顧問)で、産科医療の無過失補償制度(産科医療補償制度)の運営に対する注文が相次いだ。一分娩当たり3万円の掛け金と国からの補助金などを合わせると、余剰金が生じるのではないかとの指摘に対し、厚労省側は「(重度脳性まひの)原因究明も一つの大きな柱になっている」と理解を求め、余剰金が出ても制度に加入している分娩機関に返還する予定はないと回答した。【新井裕充】

(以下略)

(CBニュース、2008年9月16日)