コメント(私見):
近年における産科管理の進歩により妊産婦死亡は著明に減少しましたが、未だに、羊水塞栓症、血栓性肺塞栓症、癒着胎盤、子宮破裂、常位胎盤早期剥離などで、母体の救命が非常に難しい重症産科疾患も一定の頻度で発症します。これらの産科疾患はまれな発症率ではありますが、いったん発症すれば急速に重症化し、最終的に救命できない可能性もあり得ます。
例えば、羊水塞栓症は、8000~30000件の分娩に1回の割合で起こる非常にまれな疾患です。分娩中や分娩直後に、突然、急激に血圧が下がり、呼吸循環状態が悪化してショック状態になるものです。重篤なものは引き続き呼吸停止、心停止となります。非常にまれな疾患ではありますが、もし発症した場合には、致死率は60~80%にも及ぶとされています。事前に発症を予測することは不可能です。本疾患が発症した場合は、発症直後にショックに対応した治療を迅速に行い、引き続いて集中治療室(ICU)での集中的な呼吸や血圧の管理、DICの治療などを行います。麻酔科医、循環器科医など大勢の専門医達がチームで治療に当たる必要がありますが、重篤例での母体の救命はきわめて困難な場合が多いのが現状です。(羊水塞栓症について)
これらの非常にまれな産科疾患について妊産婦やその御家族にしっかりと説明し、分娩のリスクについて一定の理解を得ておくことは非常に重要です。しかし、まれなリスクをあまりに強調しすぎて妊婦さん達を不安にさせてしまうのもどうかと思われますし、いくら事前に説明があったとしても、実際に妊産婦死亡となれば、残された御家族に納得してもらうのは非常に困難です。
来年1月からスタートする産科医療補償制度は、分娩機関が分娩1件に対して3万円の掛け金を支払い、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児に対して、分娩機関の過失を証明しなくても総額3000万円の補償金が支払われる制度(無過失補償障制度)です。補償対象がかなり限定されるため、余剰金が生じる可能性も指摘されています。もしも、かなりの余剰金が生じるのであれば、妊産婦死亡や母体の重度後遺症などもこの制度の補償対象に加えることを検討していただきたいです。
****** 周産期医療の崩壊をくい止める会
福島県立大野病院事件を無駄にしないために
――妊産婦死亡した方のご家族を支える募金活動を始めます――
2008年9月22日
周産期医療の崩壊をくいとめる会 代表 佐藤章
さる8月20日に一審福島地方裁判所で加藤克彦医師に対する無罪判決が出されてから1カ月になります。加藤医師の現場復帰も決まりました。ご支援くださった多くの方々に厚く御礼を申し上げます。
しかしながら、これで物事がすべて片付いたと考えては、加藤医師も単に医療に従事する貴重な時期を無駄にしただけになりますし、何より亡くなった方やそのご家族が救われないと考えます。
当会としても、様々な取り組みを今後も続けていきたいと考えております。
出産の際に不幸にしてお亡くなりになった方を忘れず、そのご家族を支援する活動を、当会として新たに始めることといたします。
日本の妊産婦死亡率は世界屈指の低さを誇りますが、それでも年間50人ほど、お亡くなりになる方がいらっしゃいます。残されたご家族は悲しみの中、乳児を抱え大変なご苦労をなさることになります。来年からは脳性マヒを対象とした無過失補償制度も始まりますけれど、その救済の網からも漏れてしまっているのが現状です。こうした方々の生活の少しでも支えとなるよう、広く募金を募り、それを原資に支援のお金をお贈りして参ります。
次の口座で募金をお受けいたします。ご賛同いただける方の、ご協力をお願い申し上げます。
口座名:周産期医療の崩壊をくい止める会
口座番号:みずほ銀行、白金出張所、普通1516150
連絡先:周産期医療の崩壊をくい止める会 事務局
E-mail;perinate-admin@umin.net
TEL 080-7031-3032 担当 松村