コメント(私見):
奈良県の産婦人科医療提供体制を立て直していくためには、まずは奈良県内の産婦人科医の頭数を地道に増やしていく必要があります。
時間外勤務手当を法で定められた通りに支払うくらいのことは、最低限の必須事項です。産婦人科医不足の今、現在の職場を辞めたとしても、働く場所など探せばどこにでもみつかります。県が正当な報酬の支払いをかたくなに拒否し、県側と医師側とが法廷で激しく争っているようでは、産婦人科医の頭数を現状のまま維持していくことすらだんだん難しくなっていくと思います。
日赤医療センター(常勤産婦人科医:24人)や愛育病院(常勤産婦人科医:15人)などのマンパワーの充実した病院でも、労働基準法違反を理由に軒並み立ち入り調査や是正勧告を受けている現状を、奈良県知事はよく理解する必要があると思います。
【以下コメントの追記、2009年5月3日】
法定労働時間とは、労働基準法において労働者を働かせることができる限度の時間です。法定労働時間は、1日8時間、1週間については40時間となります。それを超える労働は時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。労働時間は業務に従事していた時間だけではなく、使用者の指揮監督下にあるかどうかでみます。 例えば、準備・整理の時間、仕事待機の時間、出席することが義務づけられた研修の時間なども労働時間に含めます。また、労働基準法では、当直などの時間外勤務は労使が協定を結んだ上で、原則月45時間以内と定めています。 労働基準監督署の基準では、医師の当直(宿直、日直の総称)は、病室の定時巡回など軽度で短時間の業務と定義されています。
従来は、医師の当直に対して、時間外、休日労働の割増賃金ではなく、割安な手当が支給されることが常態化していました。今回、奈良地方裁判所は、産科医の夜間や土曜休日の宿日直勤務について、労働基準法上の時間外労働に当たるとの判断を示し、奈良県に割増賃金の支払いを命じましたが、奈良県は、その奈良地裁の判決を不服として控訴する方針を発表しました。
奈良県は産婦人科医が不足し、産科救急事例の多くが県内で受け入れできない状況が恒常化していると聞いています。(2006年、奈良県の某病院で分娩中に急変した妊婦さんが、約20の病院から受け入れを断られ、約6時間後に大阪府内の病院に搬送され、その1週間後に死亡した事例は、当時大きく報道されました。)このような危機的状況を打開するためには、奈良県内の産婦人科医の頭数を大幅に増やす必要があり、今回は県の周産期医療提供体制を立て直す大きなチャンスであったと思われます。県の上層部の方々は、産科医療が一度完全に崩壊しないことには、事態の重大性が全く理解できないのかもしれません。
**** NHKニュース、奈良、2009年5月3日
時間外手当の判決で県が控訴
県立奈良病院の産婦人科医の時間外手当をめぐる裁判で、奈良県は、1500万円あまりを医師らに支払うよう県に命じた、奈良地方裁判所の判決を不服として、1日、大阪高等裁判所に控訴しました。
この裁判は、県立奈良病院の産婦人科に勤務する医師2人が、夜間や休日の当直勤務で、出産や救急患者の対応に追われているのに、待ち時間の多い仕事という扱いで、割り増し分の時間外手当が支払われないのは違法だとして、奈良県に未払いの賃金を支払うよう求めているものです。
この裁判で、奈良地方裁判所は、4月22日、「産婦人科医の夜間・休日の当直は、待ち時間の多い勤務とは言えない」として、労働時間にあたると認め、奈良県に対し、あわせて1500万円あまりを支払うよう命じる判決を言い渡しました。
奈良県は、この判決を不服として、1日、大阪高等裁判所に控訴しました。
控訴の理由について、奈良県の荒井知事は会見で、「診察などの業務が当直勤務時間中の4分の1しかなかったのに、勤務時間すべてを時間外手当の対象とした判断は適切でない」と述べました。
(NHKニュース、奈良、2009年5月3日)
****** 朝日新聞、2009年5月1日
奈良県が判決不服で控訴 産科医の時間外手当訴訟
奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医2人が当直勤務中の時間外手当(割増賃金)の支払いを県に求めた訴訟で、県は1日、医師の訴えを認めて計約1540万円の支払いを命じた4月22日の奈良地裁判決を不服として、大阪高裁に控訴すると発表した。
記者会見した荒井正吾知事は「当直勤務時間すべてを割増賃金の対象とする判決は適切ではない。診療をしていない待機時間は労働時間から外すべきだ」と話した。
(朝日新聞、2009年5月1日)
****** 読売新聞、2009年5月1日
産科医割増賃金訴訟 奈良県が控訴
奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医2人が当直勤務などに時間外割増賃金の支払いを求めた訴訟で、県は1日、当直は時間外労働にあたり、計1540万円の支払いを命じた奈良地裁の判決を不服として、控訴すると発表した。
県は「当直勤務すべてを時間外労働の対象にするべきではない」などとしている。荒井正吾知事は「勤務医の当直勤務が、労働基準法に抵触するかどうかという、全国の病院に共通の課題を突きつけられた判決。さらに上級審の判断を求めたい」と話した。
(読売新聞、2009年5月1日)
****** 産経新聞、2009年5月1日
産婦人科医訴訟で奈良県が控訴
奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科の医師2人が、夜間宿直や休日勤務などに対する割増賃金の支払いを県に求めた訴訟で、県は1日、医師らの訴えを認めて計約1540万円の支払いを命じた奈良地裁の判決を不服として控訴する方針を固めた。
県は、判決が宿直や休日の勤務時間すべてを割増賃金の支払い対象としたことについて、「診療を行っていない待機時間は労働時間にあたらず、実態に即していない」などとしている。
(産経新聞、2009年5月1日)
****** 共同通信、2009年5月1日
産科医当直労働時間外で控訴へ 奈良県
県立奈良病院(奈良市)の産科医2人が当直勤務の時間外割増賃金などの支払いを県に求めた訴訟で奈良県は1日、当直を時間外労働と認め、計約1500万円の支払いを県に命じた奈良地裁判決を不服として、大阪高裁に同日控訴すると発表した。
控訴理由について県は「当直時間のすべてを割増賃金の対象にするとした判決は適切ではない。診療していない待機時間は労働時間から外すべきだ」などとしている。
割増賃金 労働基準法は、使用者に対し原則1日8時間、1週間に40時間を超えて働かせてはならないと残業を禁止している。事前に労使が協定を結んだ場合には残業をさせることができるが、使用者は25%以上の割増賃金を上乗せして支払うことが義務付けられている。
(共同通信、2009年5月1日)