ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

子宮頚がん予防ワクチンについて

2011年02月06日 | 婦人科腫瘍

子宮頚がんは子宮頸部に発生する悪性腫瘍で、組織学的には扁平上皮癌が約85%、腺癌が約15%を占めます。近年、子宮頸がんの原因のほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。 HPVに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されますが、何らかの理由によりHPVが持続感染した場合、長い年月(HPV感染から平均で10 年以上)をかけて子宮頸がんへと進行する危険性があります。

HPVは現在までに100種類以上確認されてますが、そのうちの十数種類のハイリスク型HPV(16型、18型、31型、33型、35型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型、73型、82型など)が子宮頸がんの発症に関わっています。 特に、HPV 16型と18型は子宮頸がんの70%近くの原因を占めると報告されています。

子宮頚がんを予防する目的のワクチンが開発され、海外ではすでに100カ国以上で使用されています。日本でも、子宮頸がん予防ワクチン(サーバリックス)が2009年10月に承認され、2009年12月22日より一般の医療機関で接種することができるようになりました。

このワクチンは、ウイルスの殻を目印に抗体を作らせようというもので、ウイルスの遺伝子そのものが入っているわけではありませんから、ワクチン接種により子宮頚癌が悪化するということはないと思います。ですから、ワクチン接種の前に、ウイルス感染の有無を確認する必要は特にないと思います。

ただし、このワクチンは、すでに今感染しているハイリスク型HPV(16型、18型)を排除したり、子宮頸部の前がん病変やがん細胞を治す効果はなく、あくまで接種後のハイリスク型HPV(16型、18型)感染を防ぐものです。全てのハイリスク型HPVの感染を防ぐことができるわけではありませんので、ワクチンを接種しなかった場合と比べれば可能性はかなり低くなるものの、ワクチンを接種していても子宮頸がんにかかる可能性はゼロではありません。またワクチンの効果がどれだけ長く持続するかについては、現在も調査が継続して行われています。現時点でワクチンを接種してから最長で6.4年までは前がん病変を100%予防できることが確認されてます。

米国では、HPVに感染していない女性を対象にした大規模臨床試験で80%近い予防効果があったと報告されています。しかし、欧米ではHPV 16型と18型の割合が多いのに対し、日本ではHPV 52型、58型の割合が比較的多いとされ、欧米型二価ワクチン(HPV 16型、18型)のサーバリックスが日本でどの程度有効なのか?は未知数です。

ハイリスク型HPVに感染した女性の0.1~0.15%程度しか子宮頸がんを発症しませんが、ハイリスク型HPVに感染後にどのような女性が子宮頸がんを発症するのか、そのメカニズムは解明されていないため、感染した全ての女性が子宮頸がんを発症するリスクがあります。毎年15,000人の女性が子宮頸がんに罹患し、3,500人もの女性が命を落とすことにつながりますから、子宮頸がん予防ワクチンを接種してハイリスク型HPV(16型、18型)の感染を予防することは子宮頸がん発症のリスク軽減のためには大いに意味のあることと考えられます。

対象となる全女性に無料接種を実施している国もあります。例えば、オーストラリア政府は12歳から26歳の女性200万人に対してHPVワクチンの無料接種を2007年4月から開始しました。 日本でも年齢を限定して全女性に全額公費助成している自治体が多くあります。飯田市の場合、本年1月11日以降、中学校1年生(13歳相当)~ 高校1年生(16歳相当)の女子が全額公費助成の対象となりました。 助成対象年齢以外の女性は全額自己負担(約5万円)となります。

子宮頸がん予防ワクチンは肩に近い腕の筋肉に注射します。1~2回の接種では十分な抗体ができないため、半年の間に3回の接種が必要です。接種期間の途中で妊娠した際にはその後の接種は見合わせることとされています。

16、18型以外のハイリスク型HPVが原因になる子宮頸がんには効果が認定されておらず、ワクチン接種時点ですでに感染していたウイルスにも無効です。子宮頸がんを完全に防ぐためには、子宮頸がんワクチンの接種に加えて、定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。ワクチン接種後も、1~2年に1度は子宮頸がん検診(子宮頚部細胞診)を受けるようにしましょう。