超音波診断装置の性能は年々向上し、最近では以前とは比べ物にならないほど胎児の詳細な情報がわかるようになってきました。日本における妊婦健診では、一般に超音波検査が広く行われてます。
例えば、妊娠初期では、子宮内妊娠か、子宮外妊娠か?ということがまず問題となります。
その後の妊婦健診でも、妊娠週数によって毎回調べるポイントがあり、流産しそうかどうか? 胎児発育は順調か? 胎盤の位置は正常か? 羊水量は適正か? 心臓の先天奇形はあるか? など超音波検査を行うのが半ば当たり前になってきつつあります。
また、妊婦さんが腹痛や性器出血などの症状を訴えて来院した場合も、まず超音波検査を行って、胎児は元気か? 常位胎盤早期剥離ではないか? 子宮頸管長は短縮してないか? など超音波所見の異常の有無を検討します。
超音波検査装置がなかった頃は、熟練した産科医でも、胎児が生きているのか死んでいるのか?、単胎か双胎か?、奇形があるのかないのか?、前置胎盤があるのかないのか?、などの子宮内の情報は産まれるまでほとんど何もわかりませんでした。時代が大きく変化し、簡単に子宮内の胎児情報がわかる時代になってきました。さらに今後も超音波診断装置は改良されていくことでしょうし、得られる胎児情報は今後ますます多くなっていくことが予想されます。
胎児の病気の有無を調べる目的でなくても、妊婦さんの超音波検査を行うと、偶然、胎児の重大な病気が見つかってしまうこともあります。妊婦さんにその事実をどのように伝えるべきなのか?は非常に大きな問題です。
****** 共同通信、2011年2月23日
妊婦エコーは遺伝学的検査 学会、慎重な扱い求め指針案
日本産科婦人科学会は23日までに、胎児が順調に育っているかを調べる妊婦の超音波検査(エコー)は、出生前に胎児の病気や異常を把握する「遺伝学的検査」になりうるとして、検査結果の慎重な取り扱いを求める倫理指針改定案をまとめた。4月の総会で正式決定する。
超音波検査では胎児が入っている胎のうや心拍の様子などをみるが、奇形などが偶然見つかって染色体異常が疑われる場合があり、遺伝学的検査にもなるとしている。
改定案では、偶然異常が見つかった場合、妊婦や家族に、検査結果をどう解釈すべきかや、どのような対応が選択できるのかなどを十分に伝える必要があるとした。初めから病気の有無を調べる目的の場合には、事前のカウンセリングを十分にするよう求めた。
近年、妊娠中にダウン症などの病気を見つけるため、胎児の首の後ろのむくみ「後頸部浮腫(NT)」の厚みを超音波検査で測定する方法が注目されているが、病気と判定するための信頼できるデータはないとして積極的な位置付けはしなかった。
また学会は、妊婦から採血し胎児の染色体異常の可能性を調べる「母体血清マーカー検査」に消極的な姿勢だったが、改定案では「妊婦や社会の認識やカウンセリング体制整備が進んだ」として、検査について適切に情報を提供すべきだとの方針に転じた。
(共同通信、2011年2月23日)
母体血清マーカー検査:
羊水検査や胎児血検査などとともに「出生前診断」の1つ。妊婦の血液中にあるタンパク質やホルモンの量を測定、胎児がダウン症や18トリソミー、神経管欠損症である確率を算出する。流産の危険が伴う羊水検査などと比べ、採血だけで妊婦の負担は軽いが、確率しか示さず確定診断はできない。旧厚生省の専門委員会は、1999年6月、「医師が妊婦に本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、検査を勧めるべきでもない」との見解を公表した。