ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

新生児蘇生法をチームで学ぶ意義

2012年11月04日 | インポート

世界中で毎年400万人の新生児死亡があり、そのうちの約2割が分娩時の仮死によるものとされています。つまり、世界中で毎年80万人の新生児が分娩時の仮死で死亡していることになります。また、約10%の新生児は出生時に子宮外の環境に適応するために吸引や刺激などのサポートを必要とし、約1%の新生児は人工呼吸や胸骨圧迫などの積極的な蘇生なしでは生存は難しいとされ、出生直前まで予測できない重症の新生児仮死も決してまれではありません。

胎児は母体内で発育の初期から心拍動を開始し循環器系は機能してますが、呼吸器系は母体内では全く機能してなくて、出生直後に急激な変化が起こって呼吸を開始します。その急激な変化に適応できず呼吸をうまく開始できない病態(新生児仮死)が一定の頻度で発生します。新生児蘇生法はそれに対していかに介入すれば呼吸を開始させることができるのか?というスキルです。従って、新生児蘇生法は、成人や小児の心肺停止を対象とした心肺蘇生法とは全くコンセプトが異なります。新生児蘇生法の蘇生成功率は、成人や小児の心肺蘇生法と比べて格段に高いです。

仮死で蘇生が必要な場合は、出生直後に蘇生の必要性を判断し適切な蘇生処置を開始する必要があります。産科病棟には大勢の産科医や助産師が勤務してますが、交代制勤務でいざという時に誰が担当しているのかわかりません。いざという時に誰が担当していていても常に同じレベルで蘇生を直ちに開始できるように準備を整えておく必要があり、チーム全員がNCPR講習会を定期的に受講してシミュレーション・トレーニングを繰り返して、新生児蘇生法に習熟しておく必要があります。

自宅や救急車内で分娩となってしまう妊婦さんは当科でも毎年必ず数人いますので、地域の救急隊とも産科救急の対応についてよく話し合って手順を決めておく必要があり、救急隊員を受講対象とした分娩介助や新生児蘇生法などのシミュレーション・トレーニングも必要だと思います。