月の岩戸

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メラク・38

2015-01-10 07:08:52 | 詩集・瑠璃の籠

魚が 空を飛んでいるのではない
あなたがたが今いるところが 海底なのです
深海の泥の中に ガラスの船はかすかに身を傾け
海の雪を浴びながら死んでいる

いにしえの美魚は
古い翡翠の板を組み合わせて
やわらかな愛でつなぎ合わせたような
不思議な姿をしている

声も立てず 歌も歌わず
ときに関節のきしむ音をたてながら
ゆっくりと静かに泳いでいる
真珠のような一粒の光を
ぶらさげながら

寒くはありませんか
寂しくはありませんか
あらゆるものが あふれるほどあるのに
そこはもはや何もない海底なのだ
真実の真珠だけが魚とともに
静かに光っている

ヴァイオリンをひきましょう
あなたのために
青いガラスでできた
小さな氷のようなヴァイオリンを

静かな音があなたの魂を通ってゆく
まるで真珠に糸を通すように
さあもう目を覚ましなさい
幻のすべてが 形を失う前に
虹色の夢が 色あせた
古いカレンダーの写真に変わる前に

人形のガラスの瞳で
暗闇を無理に明るくしようとしても
もう何も始まらない
心が重すぎるのなら
まだ立ち上がらなくていい
ただ すべてが嘘だったあの夢は
風船に針を突き刺すように
もう壊してしまいなさい

泣いてもかまいません
大声で叫んでもかまいません
すべての始まりは
探せば必ずみつかります
その時まで
傷ついた自分の心臓の痛みのために
子供のように泣きじゃくるあなたを
わたしは許してあげましょう

いつか必ず
あなたは立ち上がることができる
そのときがくるまで
青いガラスのヴァイオリンを
弾いてあげましょう
ずっと ずっと
弾きつづけてあげましょう



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