雨の猪股邸 2017年10月24日
世田谷区が管理する吉田五十八建築の猪股邸で年に二回、友人が花の会を催しています。野の草木を活ける花器も洗練されており、選ぶ掛け軸の吟味も素晴らしく、会を重ねる毎に建築家吉田五十八と施主の猪股氏の魂と馴染む自然体な表現に嫉妬の思いも出て来ます。
華美な美しさではなく、その場の中に美を見出すことを見る側に感じさせることに、見ている者の内にある美意識がふつふつと湧き上がってくることが、結局は自分の問題であることに気付かされるのです。
言葉に出すと壊れてしまうくらいの繊細なバランスに、言葉での表現に限界を感じます。
もののあはれや侘寂を素地としつつ、万葉集の歌が、ふっと頭に巡るような、そんな感じでしょうか。(覚えている歌はたいしてありませんが。)
世阿弥の謡曲の一節が浮かんでくれば、私にとっては、この上ない幸福感に満たされます。ほんとうにおめでたいなと思います。
能を嗜みながらも能舞台は設えなかった施主の家。家の作り全体が能舞台的な構造を入れ込んだ設計になっているようです。
これだけ雨降る猪股邸は初めてで、秋半ばの庭木の緑や石が深く艶めき、雨音が余計な物を省いて、多くの人が内覧しているにも関わらず、人気のなくなった瞬間の部屋に一寸の宇宙をも感ずるのでした。
儚くも美しいことへの志の地固めの強肩さは、どちらも勝るとも劣らない競り合いでもあるかもしれない、とも思ったり。
湿度百パーセントの床の間の軸は、会期を終えたら水分を含んでビショビショだったそうで、それもまた、本物の軸の風合いならではなのです。
設えのための裏方の努力は、表現されたものの何百倍も深いものでありましょう。茶会を催す亭主の感性と知力の育みは、やはり数寄者でなくてはならないことをしみじみと受け取りながら抹茶を頂き庭を愛でたのでした。
まだまだ私は努力も足りないし、知らない事が多すぎます。
足るを知りながら人生愉しみたいものです。
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