勿忘草 ( わすれなぐさ )

「一生感動一生青春」相田みつをさんのことばを生きる証として・・・

猫が落とした、大粒の涙

2005-03-14 00:20:20 | Weblog
 若い頃、猫を飼っていました。30代初めの頃、脱サラをしてお店をやっていた時です。
店の前に停めておいた の前籠の中に、生まれて間もない子猫が捨てられていました。
飼うつもりもなかったのですが、可愛いのと、かわいそうだったのとで、小さなダンボールの箱に入れて、店の隅に置きました。
箱の角に両手を掛けてそこに顔を載せ、店の中を行き来している僕を、首を左右に振りながら眼で追いかけて見ているのです。
猫には余り興味のなかった僕も、その可愛さに部屋に連れて帰り、名前を 『ゴン』 と付けました。

それまで僕にとって、猫は皆同じ顔に見えていたのですが、人が皆 「この猫かわいいね~!」と言うので他の猫と較べてみると、確かに可愛い顔をしています。おまけに啼き方を知らないんじゃないかと思うほどおとなしくて、性格もいい。(飼い主に似ると言いますから?)
ところが或る日、布団の上に粗相をしてしまったのです。
懲らしめのために、と その夜、外に出しました。冬の寒い夜でした。
夜中にトイレに起きると、少し開いていたトイレの窓から中に入って、隅にうずくまっている彼を見つけたのですが、また外に出したのです。(なんて冷酷な奴なんだ、お前は!)
暫くして、そ~っと覗いてみると、玄関の側にあった箱に身を寄せていたので、もういいと思い部屋に連れて帰りました。
いつもそうしているように、僕の布団に入れて抱いてやると、もぞもぞと布団から出て行くのです。そして玄関の隅で身を丸めています。何度連れてきても、出て行ってしまうので、仕方なく、電気あんかを入れてやり、そこで一晩過ごさせたのです。( その時の彼、どんな気持ちでいたのだろうか ? )

次の日、店の事もあり、忙しく部屋を出入りしていると、外の階段で日向ぼっこをしている彼がいました。 通りすがりにあごに手をやり、「ゴンちゃん!」と声を掛けると、顔を背けます。そして、眼にいっぱい涙を溜め、僕の顔を見ると、その大粒の涙をポトリと落としたのです。

可愛そうに、と思いながらも店が忙しく、そのままにしていたのですが、その晩帰って来ません。
店を終えて夜中、彼の名前を呼び、泣きながら捜し歩きました。
口も利けない彼が、頼りにしていた僕に冷たくされ、悲しみに涙を流し、一人家出をしたのかと思うと、切なくて、悲しくて、可哀想で、自分を責めました。
とうとう、その晩は帰って来ませんでした。次の日も、次の日も、捜し歩いたのですが、何処にもいません。
悲しみに暮れていた数日後、向こうの方から僕を呼ぶように、啼きながら彼が帰ってきたのです。首にリボンを付けて。
僕は、嬉しさの余り、抱きしめて、ほおずりしました。そしてスーパーで、一番いい刺身を買ってきて食べさせました。

その日以来、決して彼を叱ることはしませんでした。眼一杯可愛がりました。あの粗相の時も、店で余った小魚の骨などを、たくさん食べさせていたのです。僕にも責任があったのです。
そして、前にも増しておとなしく、聞き分けも良くなり、元々性格のいい彼は、いつも僕と一緒に寝るのです。
僕が布団に入ると、頭から潜り込んできて、中でぐるりとひと回りして、顔を出す。そして僕の腕に頭を乗せて、仰向けに寝るのです。そんな猫、見たことありません。

つづく
2005.03.14