歩くたんぽぽ

たんぽぽは根っこの太いたくましい花なんです。

花田先生は走っていた

2021年03月18日 | 映画
夕方ラジオを聴いていたらとある女性歌手のラブソングが流れてきた。

名前は知らないが、透き通った高い声が綺麗で印象的だった。

ふぁんら〜とマイナスイオンが部屋に充満していく。

なんでか居心地が悪くなったので唐突にブランキーの「胸がこわれそう」を流してみた。

最初のギターの入り方がもうね、かき乱される。

これぞ汚れなき純愛ソング。

マイナスイオンは出てこないけど、脳からアルファー波が出てくる感じ。



そんな風に始まったYouTubeサーフィンは、しばらくブランキーの好きな曲を巡回してから、

バースデーの「カレンダーガール」にたどり着いた。

これもおっさんが書いたラブソングだ。

ベンジーもチバさんもなんてロマンチストなんだろ。

本当詩人だよ。



そして久々にミッシェルの「世界の終わり」を聞いてみたら抜け出せなくなった。

ラストヘブンの「世界の終わりの」のアベさんの表情を見ると毎回胸が締め付けられる。

ミッシェルはやっぱり特別だった。

「ジプシーサンデー」を聞いている時に、ああこの歌すごく好きだったなとか思い出して、

なんだかとても懐かしい気分になって衝動的に『青い春』のDVDを引っ張り出してきて観た。

これがやっぱりすごい映画だった。





『青い春』

監督:豊田利晃
脚本:豊田利晃
出演者:松田龍平、新井浩文、高岡蒼佑、大柴裕介
音楽:上田ケンジ、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
公開年:2002



押井守は若さに価値があるなんてデマゴギーだと言っていた。

若さは愚かさなんだと。

この映画は若さの賛美なのかもしれないと思う。

大人になる一歩手前の、愚かさと儚さと美しさを惜しみなく描いている。

手からこぼれ落ちそうなほど溢れている。

「若いって素晴らしい」ではなく「若いって痛々しい」っていう無条件の賛美だ。



90年代後半から2000年代初頭の映像作品が持つ独特の切れ味をここ最近渇望していた。

亡きものとされた10年の先の新しいカルチャーが芽生える空気とでもいうのか。

静かなんだけど、すごいエネルギーを秘めていた。

当時半ば無自覚に享受していたカルチャーを自覚的に手にできていたらと思うことがあるけれど、

そこまでいくともうあれだよね、ほら、盲信。

知らないのに見えてないって何もわかってないってことになる。

断片的であることには代わりないけど。



それでも私は恐れつつ少し期待していた。

もうこの映画では感動できないのではないかと。

手っ取り早い成長の確認だ。

しかし私はちっとも成長していなかった。

ファルコンのKEEに笑い、木村のかっこよさに惚れ直し、雪男の儚さに感激し、

青木の優しさと痛々しさを悲しみ、九条の美しさと存在感に圧倒された。

結果的に成長してなくてよかったと思う。



エンディングの「ドロップ」がすごいんだ。

朝九条が登校すると校舎が真っ黒になっていてダンダンダンダンってアベさんのギターがなる。

我に帰ると校舎は戻っていて、屋上にいる青木が「ひとーつ!!」って叫ぶ。

ラストを察した九条が全速力で走り出す。

映画の中で描かれる初めての九条の本気だ。

チバさんの絞り出すようなしわがれた声と、切り取られた校舎と、叫ぶ青木と、走る九条。

ブッシャーーー(涙)。

目の端に映る走る花田先生。

花田先生、九条と一緒に走っとるやん、もーー。

ぐしゃぐしゃに泣いた。

なんだよ、昔より泣くじゃん自分。

青木はただ九条と対等の友達でいたかっただけなのにね。

前日、下校する九条に青木が屋上からスプレー缶を投げるのだが、

その時のカランッていう乾いた音と青木の表情がどうしようもなく切ない。

置いて行かれた犬みたいだ。

九条だって番長とかじゃなくただの友達でいたかっただけなんだろう。

純粋すぎる。



観終わった後びしょびしょの顔をぬぐいながら思ったのは、花田先生走ってたなぁということ。

花田先生も青木の叫び声で彼が何をするのかわかったんだなぁとしみじみした。

そういえば屋上のチキンレースを、花に水やりしながら見上げていた。

急激に変わっていく青木を心配していた。

人を殺した雪男が乗ったパトカーを一生懸命追いかけていた。

いい先生だな。



当時この冷めた不良像がセンセーショナルだったようだけど、

それから約20年が経ちもう不良という存在が原型を留めていないように思う。

冷めるの先のうぬぼれた諦観とでもいうのか。

悪いことの定義がもっと深刻化、複雑化してしまったような気がする。



時代を強く反映しつつ、普遍性を置いていってくれる尊き映画でした。

次見るのは40代入ってからかな。

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