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「東京ヒゴロ」 松本大洋の新作について

2021年09月17日 | 
アマゾンで好きな画家の本を買うと、おすすめに出てきたのが松本大洋の新作『東京ヒゴロ』だった。

アルゴリズムとかよくわからないけれど、その選択ちょっとどんぴしゃすぎない?

1話分試し読みができたので流されるまま読んで次の瞬間にはポチッとしていた。

マーケティングの掌の上でまんまと踊っている。

でも今回はその出会いに感謝している。

感情ゆさぶる名作の誕生です。





『東京ヒゴロ』

松本大洋 作
小学館 2021年9月4日



物語は一人の男が30年勤めた出版社を辞職するところからはじまる。

第1話、出版社を辞めた男はかつて担当していた漫画家に会いに遠くの街へ行く。

登場人物たちのやりとり、表情、間、風景、生きた言葉にノックダウン。

第1話から泣いてしまった。

必ずしも感情移入することが重要とは思わないけれど、これはすごい。

出会って数分で登場人物たちの人生に魅入られている。



主人公塩澤はいかにも誠実で朴訥な男だけど、頑固で誰よりも人を振り回す、

ある意味でもっとも自分勝手な人なのかもしれない、と思う。

でもだからこそ周りにしてみれば気になってしょうがない人なんだとも思う。

「第4話 本日、古書店に連絡し、漫画と決別する。」はシンプルだけどすごく好きな話だ。

塩澤は漫画と決別するために持っている漫画を全部売ることにした。(極端!)

漫画の山を時間をかけて査定する古書店店主、淡々と片付けをする塩澤。

しかし最後のダンボールを運ぼうと持ち上げた瞬間底が抜けて大事な漫画が散らばってしまう。

それを見つめる塩澤の立ち姿が本当いい。

その中に諸星大二郎や大友克洋の『ショートピース』があるのもまたいい。

そして古書店店主にやっぱり売るのはやめると言うのだ。

びっくりする店主の顔がおかしい。

面倒臭いけど一つ一つが大事な作業なんだろうね。

生きることに誠実というか、不器用で自分勝手でいとおしい。

あと、大真面目な顔でゲーテやシェイクスピアの格言を言うのもなんだかおかしい。

ドキッとするんだけど、言われた方との温度差が絶妙で笑ってしまう。



登場人物がそれぞれ自分の人生を生きているのがいい。

松本大洋の漫画はいつもそうだ。

ストーリーのためのキャラクターではなく、そこに生きている人たちの人生を描いている。

街が人が息づいている。

静かだけど激しくて心揺さぶる名作です。

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