ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ビー・デビル

2011-03-24 21:42:36 | は行

新しい才能が出るので
見逃せない韓国バイオレンス系。

でも
痛い痛い合戦になっちゃうと
困るんですよねえ。


「ビー・デビル」38点★★


ソウルの銀行に勤める
独身キャリアウーマンのへウォン(チ・ソンウォン)。

ストレスフルな日々に疲れた彼女は
子ども時代を過ごした島で
休暇を取ることにする。

そこは住民たった9人の孤島。


島に降り立ったヘウォンを迎えたのは
幼なじみのキム・ボンナム(ソ・ヨンヒ)。


島で結婚し、娘もいる彼女は
少女時代のままに人懐っこく
へウォンにまとわりつく。

だが彼女は実はこの島で
地獄のような日々を過ごしていた。

そして、ある日
ついに悲劇が起こる――!



ポスターからしてスゴイので

相当な衝撃かと身構えたら
思ったほどではなかった。


いや、痛いシーンはかなり衝撃的なんですが
なんか物足りない。


いや
かなりすっきりしない。


大筋のストーリーや展開の
読みはハズれてなかったけど

まず
いたぶられる女が
いたぶって欲しい女と違った(笑)


いたぶられるのは
島に残った女で

主人公(一応?)のツンとすました都会の女は
常に傍観者を決め込み、
決して汚れないんですよ。

気にくわない~~(笑)


それに惨劇が起きるまでが長くて

「もういいから、キレたれ~」と
こっちが背中を押したくなりました。



そもそも血肉が苦手なのに
韓国バイオレンス系を見る理由はひとつ。

「オールド・ボーイ」のような大当たりを
見逃したくないから。


しかし相手もそれが
わかってるんだなあ、もう。

監督のチャン・チョスル(1974年生まれ)は
日本での語学研修中に
キム・ギドク監督の映画に出会い
即座に帰国。

弟子にしてくれと通い詰め
とうとう助監督になったそう。


そして本作が
これが長編デビュー作。

こうした若手監督たちは
先輩に挑む思いで挑戦してるんだとは思うけど

思いが先走りすぎているのか
はたまた「衝撃度」の意味を勘違いしてるのか


どれだけ痛いか合戦
みたいなことになってたり

無意識のうちでも
「こんなセンで、どう?」という
レールに乗ってる感じがすると
こちらは興ざめなんです。


ぜひ自分なりの表現を開拓し
バイオレンスの必然性を
見せて欲しいですね。


★3/26からシアターN渋谷ほか全国順次公開。

「ビー・デビル」公式サイト
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イリュージョニスト

2011-03-22 21:48:33 | あ行
本年度アカデミー賞では
惜しくも「トイ・ストーリー3」に破れましたが
私はこっちを推しますねえ。


「イリュージョニスト」80点★★★★


自ら監督・主演した
「ぼくの叔父さん」(1958年)で
主人公ユロ氏を演じ
いまも世界中に愛されているジャック・タチ(1907~1982)。


彼が遺したオリジナル脚本をもとに
作られたアニメーションです。


1950年代のパリ。


手品師のタチシェフは
手品の小道具でもあり
唯一のパートナーであるウサギとともに

各地を旅しては
マジックを披露していた。

ある日、彼はスコットランドの離島で
貧しい少女アリスと出会う。

タチシェフのマジックを見た彼女は
彼を「魔法使いだ」と信じ
島を離れる彼を追いかけてくる。


そして二人の
奇妙な同居生活が始まるのだが――。



もう、ジャック・タチファンとしては
泣き笑いなほどに嬉しい映画でした(笑)


フランスらしくセンスのいい
シックな絵も美しいし


印象はハッピーというより
どちらかというとほろ苦い。

でも
コミカルで、優しさにみちている。


そんなジャック・タチのスピリットが
ちゃんと継承されいるんだもん!


映像の美しさは
実写世界を完全に凌駕してますね。


またタチシェフ氏が驚くほど
動きもテンポも
ユロ氏にそっくりなんですよ。



のっぽな体にトレンチコートの
ひょうひょうとした風情。

街から街へと旅をし
私生活の見えない、つかみ所のなさ。


子どもとの距離感は
あくまでも父さんでなく
叔父さん。


今回は旅先で出会った少女が
彼についてきて
一緒に過ごすようになるわけですが

そんなおとぎ話性が
アニメになることでより生きている感じ。


まあ唯一気になるのは
この娘が
ちょっといけすかないところなんですが(笑)


手品師、というある種の道化としての
タチシェフの立場と
もの悲しさもバッチリ表れている。

これぞリスペクトの完成形!

お見事でした。


★3/26からTOHOシネマズ六本木ヒルズほかで公開。

「イリュージョニスト」公式サイト
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わたしを離さないで

2011-03-21 17:59:50 | わ行
アカデミー賞にも
ゴールデングローブ賞にも
入ってないのが謎すぎる。

これが番長的、
今年度(いまのところ)NO.1!

「わたしを離さないで」93点★★★★

1970年代。

イギリスの田園地帯にある
寄宿学校へールシャムで
幼なじみとして育った
キャシー、ルース、トミー。

外部から完全に遮断されたこの学校には
いくつか奇妙な点があった。

子どもたちの腕にはセンサーがつけられ、
毎日のように健康診断がある。

お金を持つこともなく
楽しみは学内の“交換会”で
がらくたの山から宝物を探すこと。

でもキャシーたちは
教師らに守られ
楽しい日々を送っていた。


やがて10代になった
ルース(キーラ・ナイトレイ)と
トミー(アンドリュー・ガーフィールド)は
恋人同士になる。

幼いころから
トミーを見つめてきたキャシー(キャリー・マリガン)は
複雑な思いだが
温かく彼らを見守る。

しかし、彼らには
このあと想像を絶する残酷な運命が
待っているのだった――。




なんという世界の構築力――!

そのなかで繰り広げられる
男1に女2という
永遠の“切な構図”に

マジで心がもぎ取られました。


10代のとき『ノルウェイの森』で爆泣したのと
同じ涙を流してしまった(照)


3人の背負った運命は
冒頭からだいたい察しはつくのですが

その倫理を飛び越えた
冷淡さと

圧倒的な切なさ、

はかない美しさはなんなのか。


セリフも少なく
描写もおだやかでとことん静か。

でもそこに
「言葉にはならない」
豊かな情景や情感がたっぷり入っている。


とても日本的というか
「言わずもがな、の美」や
「奥ゆかしさ」といったものが
感じられる作品なんですねえ。


原作は長崎生まれで5歳でイギリスに渡り
英最高の文学賞、ブッカー賞受賞した
カズオ・イシグロ。

映画のあとに原作を読みましたが
世界観はそのままに
でも、映画のほうがより切なくて素晴らしかった。


そして今年1月に行われた
イシグロ氏の
来日記者会見に行き

なぜこの作品が自分の、いや
日本人の琴線に触れるのか
理解できた気がしました。

イシグロ氏はこう話してました。

これは
非常に“日本的な”感覚を持った
作品だと。(やっぱり!)


彼が描こうとしたのは
たとえ悲しい境遇にあっても

悲観するばかりでなく

何をすべきかを考え

正しいことをしようとしたり
友情や愛をまっとうし

できるかぎり人生を
尊厳と意義あるものにしようとする
人々だということ。


――ってこれ、いま読み返すと
まさしく
今回の東北関東大震災で
世界が驚いた“日本の美徳”そのものじゃないですか!

こりゃ驚いたわ!!


本作があまり海外で評価されない謎について
前に映画会社の人とも話したんですが

アメリカ人などには
「どうして、キャシーたちは
寄宿学校から逃げ出さないんだ?」って

まず、そこがわかんないんですって(笑)

ああ、そこ、わかんないかって。


3.11を経て
いまこそ、なんか謎が解けた気がします。

いま見るの、切なすぎるかもしれない。
でもこの映画に共感できる人が
私は好きだ!


3/26からTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国で公開。

「わたしを離さないで」公式サイト
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ザ・ファイター

2011-03-20 14:34:38 | さ行
これはまさに
いまにジャストな映画だー!

「ザ・ファイター」79点★★★★


どん底から這い上がる
ボクサーを描いた実話です。


米マサチューセッツ州。

労働者の町から
名ボクサーになったディッキー(クリスチャン・ベール)は
町のヒーローだが

いまはドラッグに溺れてしまっている。

ディッキーの異父弟
ミッキー(マーク・ウォールバーグ)も
ボクサーになるが


おとなしい性格の彼は
兄と母(メリッサ・レオ)の言いなりで
明らかに不利な試合を組まされたりして
いままでに一勝もしていない。

そんなある日
ミッキーのボクサー生命を左右する
事件が起きてしまい――?!



家族や地元のしがらみに
才能を押さえつけられたボクサーが

迷いと葛藤のなか
自分の人生を切り開いていく、というお話。


いかにもアメリカンな題材だなあと
最初は思ったんですが
クライマックスにはやはり身を乗り出しました。



アカデミー賞助演男優&助演女優賞受賞でも
察せられると思いますが

この映画は
とにかく脇が堅い!


だから“場”に
リアリティがあるんです。


まず出てくる男たちは
みんな脇汗ダラダラ(笑)


その汗と油が染みついたような
田舎町の空気。

そこに暮らす
ミッキーの家族がまた壮絶で

昔の栄光がいまも通じると疑わない兄貴
周りの見えない母親
7人揃いも揃って“下世話度満点”な姉貴たち
(実際の姉たちも出演しているそう。
どうりでリアルなはずだ…って、すみません!)

と、あまりのサイアクぶりに
笑うしかありません。

さあ、そこからミッキーが
どう立ち上がっていくのか?
彼と家族の関係は?

気分高揚、間違いなしです!


そうそう
エンドロールに
実際の兄弟が出てくるので
お見逃しなく。

クリスチャン・ベールのすごさを
再確認できます。

★3/26から全国で公開。

「ザ・ファイター」公式サイト
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お家をさがそう

2011-03-18 21:57:59 | あ行
サム・メンデス監督、
「レボリューショナリー・ロード」より
断然よかったですよう。


「お家(うち)をさがそう」76点★★★★


アン・リー、コーエン兄弟らに続き
サム・メンデス監督が
自分の撮りたいものを撮った、
「監督至上主義プロジェクト」第3弾です。



米コロラド州に住む
バート(ジョン・クラシンスキー)と
ヴェローナ(マーヤ・ルドルフ)は

友達みたいな仲良しカップル。


暮らしはそこそこだけど
まあ気楽にやっている。

そんなある日、ヴェローナが妊娠し
バートは大喜び。

少々不安はあるものの
「まあ、なんとかやっていけるでしょ」と
思っていたのだが

近くに住むバートの両親が
第二の人生を求めて他国に移住すると言い出した。

ん?
なら私たちも別に
ここにいなくていんじゃない?

と、二人は理想の土地を求めて
アメリカを横断することになるが――?



アン・リー監督の
「ウッドストックがやってくる!」も
そうだったけど

本作もとてもリラックスして作られたような
抜け感が気持ちいい作品でした。



まず
「34にもなって、生きる基盤も
定まってない私たちって、負け犬?」とつぶやく
主人公たちの等身大加減さがいい。

でもこのカップルは
それを逆手にとって
何処へでも行っちゃおう、という軽やかさを持っていて

そこが
ディカプリオの
「レボリューショナリー・ロード」と
違うところ。


あれも
「ここではないどこか」を
夢見たカップルの話だもんね。


人間にとって
「どこに住むか」は結局
「どう生きるか」探しでもあるということ。


さして特徴もないようなアラサー男女が(失礼!)
それを模索する過程に
誰もが共感できるのではと思う。

石垣島移住を企んだ過去のある
番長にはなおさらでしたね。


主人公たちが移住候補地で出会う
友人や知り合いたちは
みんな「ここに住みなよ!」「ここはいいよ!」と言ってくれて

はじめはどれも「他人の芝生」で
よく見えるんだけど

実はそれぞれに事情や
問題を抱えているのがわかったりするのも
おもしろい。


別にどの人物が特別にヘンとかイヤとか
そういうのではないんだけど


付き合っていくうちに
「あ(自分の居場所は)ここじゃないな」という
カンってあるじゃないですか。


そういう微妙な描写がうまいんですね。

作り手の高度な人間観察力の
なせる技だと思います。

そして二人が最後に見つける
「完璧な」おうちとは――?

どうぞみなさんで確かめてみてください。

★3/19からヒューマントラストシネマ池袋ほか全国順次公開。

「お家を探そう」公式サイト
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