春の海の幸
オキナワの偉人である具志堅用高のエピソードで、用高が父親の職業を訊かれ、「海を歩いてます」と答えたという話。本当かどうか、いくら具志堅用高でもそこまで変ではあるまいと私は思うのだが、もしそれが本当だとしても、「海を歩いてます」には一応ちゃんとした理屈はある。
漁師のことをウチナーグチではウミアッチャーと言う。ウミアッチャーは、和語に直訳すると「海を歩く人」ということになり、用高はそれを答えたのである。が、その意味するところは「海で働いている人」ということ。「海で働いている人」であるから漁師だけでなく、船乗りのことも指す。ちなみに、農夫のことはハルアッチャーと言う。ハルは畑のことで、畑を歩く人、つまり、畑で働く人ということになる。
漁師という意味では、ウミンチュと言う言葉も使われる。和語に訳せば「海の人」となる。「海人」とも表記される。こちらの方が字面も音の響きもカッコイイ。釣や潮干狩りなど趣味で海の幸を得る人のことは、ウミアッチャーともウミンチュとも言わない。
ウミアッチャーでもウミンチュでも無い従姉夫婦は、時々釣へ出かけ、年に1、2度、旧暦の3月頃になると潮干狩りにでかける。今年は、彼らの姉妹を含め4人で出かけた。たくさん獲れたという電話があったので見に行った。その日の獲物は大量のシラヒゲウニと十数個のマガキガイ、1個のシャコガイであった。シラヒゲウニとマガキガイは沖縄の海に多く生息しており、毎年お目にかかる。私も獲った経験がある。
どちらも酒の肴としては上質のものであるが、シラヒゲウニは調理が面倒臭い。殻を割って、中の身をスプーンで剥ぎ取る作業が面倒なのである。それに、その作業をやっていると手が痒くなる。私は面倒臭がり屋なので、シラヒゲウニを見つけても獲ることはしない。マガキガイも調理して、殻から身を取り出してという少し面倒な作業の割には身が小さい。これもまた私は、見つけても獲る気にはならない。食べたい時は、魚屋さんで調理されたものを買うか、居酒屋さんで食べるようにしている。
補足
漁師のことはイユトゥヤーとも言う。イユは魚、トゥヤーは獲る者。
農夫のことはハルサーとも言う。ハルは畑、サーは「する者」で、畑する者。
猟師のことはヤマジシトゥヤーと言う。ヤマジシは猪のこと。
他に、ウミワザ(海業)、ハルワザ(畑業)という言葉もある。
動物としての詳しい紹介は別項とするが、
マガキガイは方言名をティラジャーと言い、殻長は6センチほど。
シラヒゲウニは方言名をガシチャーと言い、殻径10センチ内外。
記:ガジ丸 2006.8.8 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行