昨2020年6月以降遮断されていた南北直通電話回線が再興されたことが報じられた。
電話回線再興の陰には本年4月以降に複数回の信書交換があったとされているので、再興には文大統領の懇請と金正恩総書記のしたたかさが透けて見えるように感じられる。
2019年2月にハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が決裂したのは、仲介役として存在感を示したかった文大統領の失敗が決定的であると観ている。1回目の米朝首脳会談では実現性は絶望的ながら曲がりなりにも北の非核化について対話を継続することで合意していたが、2回目の首脳会談までの間の南北首脳会談に於いて文大統領がトランプ政権の意に反して、北の非核化というゴールを朝鮮半島の非核化に動かし、更には朝鮮戦争の終結・平和協定締結という新たなゴール設定に同意したことが大きいと思っている。さらには、北の非核化のステップ(老朽した核実験施設の破棄等のまやかしであったが)に応じて韓国が国際社会に対して働き掛けるとともに韓国独自で支払うとした対価(南北鉄道連結、経済食糧支援等)の全てが空手形であったことも見逃せないが、韓国には北への経済制裁という国連決議を取り消す力や、国連決議に反して援助することで国際社会から孤立することに耐える力が無いことを文大統領は見誤ったものであろうか。文大統領の対日姿勢をマスターベーションと評して実質的に更迭された在韓相馬弘尚公使の見立ては、対米朝姿勢にも当て嵌まる様に思える。
今回の南北電話回線の再興は、バイデン政権の対北動向を瀬踏みするために首席報道官(文大統領)を使って北が送ったシグナルと云う見方が一般的であるが、任期1年を切った文大統領が後任政権の対北政策に引き継がせる遺産作りとする観測もある。前政権の残した対日外交遺産の全てを弊履の如く捨て去った文大統領が、自身が遺し得るかも知れない対北外交方針については継承されるべきとするのは理解できない独りよがりであるが、相次ぐ北朝鮮のしっぺ返しに遭ってピエロに堕しても平然としている文大統領の面目躍如と観るべきなのだろうか。
文大統領の東京五輪開会式出席のための来日は見送られたが、一つの、もしかして最大の理由は、東京大会への南北統一参加を拒否するとともに開催自体を痛罵していた北朝鮮に対する配慮であったのかも知れない。
北朝鮮では緊急米の軍・民備蓄庫が案に相違して空で、関係者の粛清・降格が取り沙汰される等、経済食糧事情は更に逼迫しているとも伝えられているので、金正恩総書記としても韓国を利用せざるを得ない窮状に追い込まれているのかも知れないが、頼られた韓国には「仏の顔も三度まで」と云う格言は無いようである。