もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

キリンとハイネケン

2021年07月30日 | 自衛隊

 キリンビールが、工場見学を有料とする方針であることが報じられた。

 報道によれば工場見学を有料とする他、見学時に提供される試飲等のサービスにも何らかの制限が設けられるらしい。
 昭和45年度の世界一周遠洋航海に参加することができた。世界一周とは言え初任幹部の練習航海が主目的であるために、寄港も10か国で実質は単なる地球一周と呼んだ方が適当であることは云うまでもない。そんな中でオランダのアムステルダム港に寄港して史跡研修と銘打たれたバスツアーでの出来事である。
 漸く下士官(3海曹)になった下っ端であり、ツアーがオランダ海軍の好意であるのか日本大使館の手配(防衛庁負担)によるものかは覚えていないが、運河・風車・チューリップ畑を見学したことは覚えている。そして、最後の見学はハイネケンビールの工場であった。
 当時の日本でハイネケンビールと云えば、ちょっと高級なバーの洋酒棚の一角に並べられている程度で、我々薄給の身には手の出ない物であったと記憶している。
 工場見学を終えて、ゲストホールに集合した際、テーブルには既にハイネケンの小瓶が整然と並べられて我々(総勢200名程度)を待っていた。ツアー指揮官(概ね少壮の尉官)の合図で試飲が始まったが、当然のことながらものの30秒で呑み終えてしまった。あまりのあっけなさにハイネケンの広報担当がにこやかに追加サービスを担当者に命じたのが騒動の発端であった。その後は追加しても追加してもあっという間で、最後には20名ほどの担当者が運搬・開梱・配布する有様となった。試飲がどのようにして終了したのかは覚えていないが、世界一のビール会社との矜持からハイネケンが断るとは思えないので、ツアー指揮官が強権的に終了したものであろうが、時すでに遅く空箱が山のように積み上げられてのお開きであった。
 おそらく1000本以上は呑んだものと思えるが、ビール代をハイネケンが負担したのか、オランダ海軍が補填したのか、日本政府(防衛庁)が弁済したのかは知らないが、翌日のツアーでは追加の試飲は無かったそうである。

 今にして思えば、浅ましい国辱行為であるが、バスツアー中の運河では水を掛けられたり風車では老婦人から罵声を浴びせられたりと、参加者には些かのフラストレーションが溜まった状態であったことは知って頂きたい。昭和28年の明仁皇太子殿下、昭和40年の常陸宮殿下御訪問によって幾分改善されたとはいえ、当時もオランダの反日感情は強かったが、団体行動には感情的に反応するものの、少人数で行動する上陸員が直接に危害を受けることは無かった。
 それにしても、あの時に飲んだハイネケンビールが大変に美味かったことは今でも覚えている。