もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

プリコジン氏の墜落死に思う

2023年08月24日 | 軍事

 ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が所有するビジネスジェット機が墜落し、同氏の死亡が確実と報じられた。

 墜落原因については、ロシア寄り機関は「安全規則違反の疑い」「外部からの要因も含めて調査中」とし、ワグネルに近いテレグラムチャンネル「グレーゾーン」は、「地対空ミサイルによる撃墜」と断定している。
 現在では、全世界が衛星で観察・監視されているとされ、特にキナ臭いウクライナ周辺は稠密に監視されていると思うので真相は次第に明らかになるであろうが、リトビネンコ氏やスクリパリ氏に対する攻撃がMI6によってロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の犯行と断定された過去を思えば、単なる航空機事故とは思えないように思える。
 ワグネルは、民間軍事企業と傭兵の概念を大きく変質させたように思える。これまでの民間軍事企業は、戦闘の可能性はある地域でも積極的には戦闘に従事しない輸送・警備などの後方分野を請け負うことが一般的であったが、ワグネルは戦闘そのものをビジネスとしてしまった。また、これまでの傭兵は、正規軍の一部に組み込まれて指揮・監督を受けることが一般的であったが、ワグネルは兵站を正規軍に依存する以外は単独で軍事作戦を行うようになった。この変質は、内戦に悩む途上国にとって魅力的に映るのであろうか、対プーチン反乱でウクライナを追われたワグネルの一部はクーデター直後のニジェールに受け入れられたとされている。
 戦争は悪ではあっても国益の衝突であって根絶は不可能との認識に立って、世界は戦争にルールを設けて正規軍の行動は国家の意思を代弁しているものと規定した。しかしながら、正規軍の監督が及ばないワグネルの行動は全く個人の犯罪と看做すほかなく、例えウクライナ事変軍事裁判所が設けられたとしても、ワグネルの残虐行為をロシア指導部やプーチン大統領の戦争犯罪とは出来ずにワグネル構成員の個人責任以上には問えないように思っている。

 特殊部隊リタイヤ者が設立した軍事会社が、ダーティーな秘密作戦を請け負うことはあり得ることで、現にアメリカの軍事企業はカルロス・ゴーンの国外逃亡を請け負って成功した。
 ニジェールがワグネルを受け入れたのも、反対派の暗殺・粛清などを期待してのことかもしれないが、強大な装備を持つ軍事企業が暗殺等をビジネスにする時代が一般的となったら、テロなどの様相はますます不透明なものに一変するかもしれないように思える。