米ロッキード・マーチンが対戦車ミサイル(FGM-148:ジャベリン)の年間生産数を現在の約2,100発から約4千発に拡大する方針を明らかにした。
ロッキード社は、「4千発の生産目標に達するには数カ月か数年かかる可能性がある」と説明し、武器生産が新型ミサイルの開発や世界の武器市場の動向に大きく左右される現実を言外に示している。
ジャベリンの主目標は戦車などの装甲戦闘車両であるが、建築物やトーチカ、低空飛行するヘリコプタへの攻撃能力も備えており、発射前のロックオン・自律誘導式の「完全な撃ちっ放しミサイル」で、室内からでも発射できる優れもので、カタログは発射準備30秒以下、再装填20秒以下、講習直後の兵士でも94%の命中率を持つとしている。
アメリカは世界各国にジャベリンを供給しており、2002年に台湾に売却した例では、発射機40基にミサイル360基とされているので、初度装備では1発射機当たり10基内外のミサイルではと考えられる。
ウクライナ事変でアメリカは、5,500基以上のジャベリンミサイルを供与したとされているが、ロッキード社の生産能力から考えると、供与したミサイルの大半は米陸軍の備蓄若しくは部隊装備品を抽出したものかと推測できる。
ジャベリンに相当する陸自の装備品は川崎重工業製の「01式軽対戦車誘導弾(ATM-5:略称LMAT若しくは軽MAT)であるが、攻撃対象が限定的であることや発射準備等に難点があるとされている。
川崎重工業のミサイル生産能力に関しては、平成16年度に240セットの納入実績が公表されているもののセット内容は知りようもないので生産能力は不明である。また、陸自の発射機とミサイルの保有数に関しては、平成22年度までの納入合計が1,073セットと公開されているが、10年以上経過した現在の残存数については知ることができなかったし、公開すべきものでもないだろう。
武器の優劣はさておき、本日書きたいことは、世界最大の兵器メーカであるロッキード社でも生産数を倍にするためには早くても数か月を要するとしているように、資本主義・議会制民主主義体制下にあっては兵器の急激な増産は困難であると云うことである。
アメリカでは、コロナ禍で自動車メーカGMに人工呼吸器の生産を命じたように国防生産法を発動すれば期間は短縮されるであろうが、ウクライナ支援の今後が不透明であることと米軍装備からの転用品の補充や以後の調達が確約されない以上、ロッキード社と雖も設備の拡充には慎重にならざるを得ないと思える。
憲法に緊急事態条項が無いことや国防生産法に類する法律を持たない日本では、さらに絶望的で、現行の、ミサイルが無い⇒補正(戦時)予算計上⇒国会審議⇒紛糾⇒強行採決・成立⇒競争入札・落札⇒生産開始⇒検査・納品⇒部隊配備となれば、前線にミサイルが届くまでに数か月以上も掛かって緊急事態には間に合わないことは明らかであるように思える。ましてや、この期間に、内閣の瓦解、衆院の任期切れ・総選挙・政権交代などの不測(敵にとっては織り込み済み)のケースを想定するならば、混乱と不確実性は更に深まるだろう。
武力侵攻では侵攻する側が侵攻時期を自由に選べることから圧倒的に有利とされる。自分がプーチン的立場で日本侵攻を企図するならば、衆院の任期切れ寸前若しくは総選挙期間中の侵攻を決意するだろう。
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